その15
カンッ!
カンッ
サッ
カンッ
カンッ!!
ボフッ
カンッ!
ボクは家から自転車で20分の所にあるバッティングセンターを見つけた。ボクは野球が好きなわけではないが、なぜかふと立ち寄った。
100キロ右打ち用。
20球300円。
タイミングを合わせてバットを振る。
ただそれだけ。
何も考えない。
意外と当たる。
ボクは本当に何も考えなかった。ただ来た球を打っていた。集中していたとも言えるし、ただ無意識だったとも言える。
右隣では上下ジャージでサンダルの男が打っている。頭は禿げかけているが、髪はとても上品に整えられている。歳は40歳前後だろうか。バッティングセンターの紳士といった感じだ。客はボクと彼だけだ。
こんな平日の真昼間にバッティングセンターにいる男2人。当たり前の日常のような気もするし、そうでないような気もする。ボクは無意識に来た球を打ちながらも、ぼんやりとそんなことを思っていた。
ボクは財布に入っていた1200円を使い切るころにはヘトヘトに疲れていた。とても喉が渇いていたのだが、ジュース代がないので仕方なくベンチに座って彼を眺めていた。素人目で見ても彼のバッティングは美しかった。ホームランの看板付近に何度もボールが行っていた。いつの間にかボクは彼に見入っていた。
彼はバッティングを終え出てきた。そしてボクが座っているベンチの横の自販機に立った。それを横目で見ていたボクに話し掛けてきた。
「何か飲むか?」
ボクは一瞬、背中を針で突かれたみたいになったが、彼を見て「コーラ」と告げた。