その14
殺風景な洗面所。
午前2時。
鏡を見る。
見慣れた顔。
中3から変化しない顔。
歯を磨く。
口をゆすぐ。
冷たい水。
臭う水。
蛇口にカエル。
アマガエル。
小さくて鮮やか。
緑。とても緑。
どこから入ってきたのだろう?
カエルにボクは話しかけた。
キミはどこから来たんだい?外の世界からだよ。キミは何を見ているの?いろんな世界をさ。ボクはこの世界がとても面倒になる時があるんだ。どうして?学校とか仕事とかテレビとかi-podとかハードディスクとかセックスフレンドとかさ。ボクは羨ましいな。どうして?だってボクの世界にはそんなモノは記号としてしか存在しないからさ。でもボクはこんなにモノがあると混乱するんだ。考えすぎなんじゃないかな?ボクもそう思う。もっとシンプルになるんだ。でもそんなに簡単にできるかな?簡単にできる。ほんとうに?いつだってキミ次第だ。そうかもしれないな。だってボクはシンプルにこの洗面所に来たんだよ。そしてボクはキミにシンプルに話しかけている。そう、シンプルに。だから話せるんだ。そうかも知れないね。また考えてしまったね。
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気が付くとボクの視線はカエルのいない蛇口を捉えていた。
部屋に戻って時計を見ると午前2時43分だった。
ボクはどうしてカエルに話しかけたんだろうか。立ったまま夢でも見ていたんだろうか。
ふとベランダの網戸を見るとカエルがいた。
ボクはチラシにカエルを乗せて逃がしてやった。
何も考えずに眠った。