その10
ある晴れた5月の木曜日。
4月に何かを始めた人にとっては、いろんなモノゴトがスムーズに運び始める月かもしれないし、何でもない月かもしれない。
「ほんとうに何もないわね、この部屋」
中村が連れてきたサキという女が言った。大学の語学の授業が同じらしい。
「何だか部屋に物がないことが申し訳なく思えてきた」
「まあ気にするなよ。物が少ないからこそ、こうやって3人でこの部屋にいられるんだぜん」
「とにかく早く飲みましょう」
3人で買った発泡酒やら缶チューハイやらおつまみやらを、小さなテーブルに並べる。
ボクと中村は発泡酒。サキはカシスオレンジ。
「あなたの名前なんだっけ?」
この質問は今日3回目だ。
「ケイタ」
「そうそう、ケイタだケイタ」
窓の外にはとても大きな満月が輝いている。酔ったボクはただそれを何となく見ている。どうして今日の月はこんなにも大きく、こんなにも輝いているのだろう。
2人の話を聞いていると、大学も楽しそうだ。
しかし2人に聞くと決まって
「楽しくはない」
と答える。そのたびボクは
「そんなものか」
と思う。
5月だ。ボクは5月に生きている気がしない。