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箱入り息子【未完成人、現ル現ル】《昔話編》

作者: 雨音れいん

初の短編でしかも昔話!?シュールな昔話をどうぞ御覧くださいませ〜〜(>_<)

 むか〜しむかし、ある村に普通のじいさんとばあさんが住んでおったそうな。

 じいさんは、ばあさんのことを『なあなあなあ』と呼び、ばあさんは、じいさんのことを『おいおいおい』と呼んでおった。

 毎朝ばあさんは山へ薪を取りに行き、じいさんは川で洗濯をしていたそうな。

 ある日のことだった。いつもニワトリが鳴くより早く目を覚ますばあさんが、納屋のほうから『おぎゃあおぎゃあ』という泣き声を聞き付けた。戸を開けると、中にはたまのようにかわいらしい赤子がおったそうな。驚いたばあさんは、急いでじいさんを叩き起こすと納屋まで連れて行った。

「じいさんや、見ておくれ。これは天からの授かりもんじゃ〜」

 赤子を抱き上げて嬉しそうにばあさんは言った。

「まったくお前は、物事を良いほうに考えるのぅ。大したもんだぁ」

 じいさんは言った。

「気の優しい人が置いてったんかのぉ」

 ばあさんは赤子を高い高〜いと持ち上げた。

「気が優しい人は置いてかんじゃろ〜」

「そうか〜じゃあ捨て子じゃのぉ」

 ばあさんは、しぼんで垂れ下がった乳を赤子に無理やり飲ませようとした。

「おぎゃあ゛〜〜っ!」

 すると赤子は嫌がって泣き出した。

「そうじゃあ、お前は納屋から出てきたもも○ろうじゃ(?)。わしの名前の吉とくっ付けてお前の名前はモ吉にしよう〜と名付けたそうな。





 それからモ吉はすくすくと育ち、村一番相撲が強いわらしになった。

「モ吉や、次は絶対負けられんぞ〜」

 じいさんは豹変し、モ吉が相撲で取ってきた賞金でバクチを始めるようになっていた。

「分かったぞ〜」 

 モ吉は素直な良い子だったのでじいさんの言うとおり、相撲を取りに行っておった。

「次が本番じゃ〜負けたら破産するんじゃぞ〜」

 じいさんはそう言って町でバクチに銭を注ぎ込んでおったそうな。

「じいさんや、いい加減目を覚ますんじゃ〜」

 ばあさんはそんなじいさんをしかっておった。

「うるさいのぉ、わしゃあ老い先短いんじゃ〜」

 じいさんは聞く耳を持たんかった。

「そう言って、なかなか死なないんじゃ〜」

 ばあさんが言った。

 じいさんは他人に厳しく自分に甘かったので、モ吉の相撲の稽古は狂人的だった。

「わしゃあ、お前に人生捧げたんじゃあ」

 そう言ってモ吉を追い詰めておった。

「分かったぞ〜」

 モ吉は過酷な稽古もがんばった。

 熊と相撲を取ったり、じいさんとばあさんをおぶって山へ茸狩りに行ったり、海女さんより長く海に潜ったり……じいさんが言うと何でもやりこなしておったそうな。

 そんなモ吉の姿を見て、ばあさんは関心しとったが、じいさんのほうは悪びれもせず相変わらずバクチばかりしとった。

 ある晩飯の時だった。じいさんはガツガツ飯を食って

「もっと飯を食わせろ〜! ぐほっ!」

 喉につまらせた。

「おらぁ、もう年だ。これ以上働けねぇ。もう飯食うな〜」

 ばあさんは悲しんでそう言った。

「ぐぶっ!」

「おっかあ、おっとうが死にそうじゃ〜!?」

 モ吉は心配そうにじいさんを見ておった。

「茶を飲むんじゃ〜」

「ぐほっ……!」

 茶を飲むとじいさんはまたむせた。

 それからばあさんがじいさんの背中をさすってやると、やっとじいさんは良くなった。

「悪いこというからバチがあたったんじゃ〜」

 ばあさんは言った。

「そうじゃ〜」

 モ吉も言った。

「ばあさんや〜すまんかったぁ……」

 じいさんが謝るのは数年ぶりだった。







 ある日モ吉の噂を聞き付け、一人の頑強そうな眉をした侍が尋ねて来た。

「お主の相手はこの村にはもうおらぬ。城に来い」

 侍はそう言った。

「お侍さま〜おらぁ、この村から離れたくねぇ。断るぞ〜」

 モ吉がそう返すと

「ならば……」

 侍は刀を鞘から抜き、モ吉に向かって振り下ろそうとした。

「待ってくだせぇぇ〜お侍さま〜! 代わりにわしが!」

 慌ててじいさんが叫ぶと侍は動きを止め、じいさんの顔を見詰めた。

「……」

 じいさんがほっとすると

「いざっ!」

 再び侍が刀を振り下ろそうとする。

「なら、ばあさんが!」

 侍が動きを止め、じいさんの顔を見詰めた。

「……」

 じいさんはほっとすると

「いざっ!」

 再び侍が刀を振り下ろそうとする。

「待ってくだせぇ!」

 今度はモ吉が叫び、侍は動きを止めた。

「やっぱりおら、お城に行きます! おらが死んだら、おっとうもおっかあも飯が食えなくて死んでしまいます」

「ならば、付いて来い」

 こうしてモ吉はお城へと行くことになったそうな。







 侍と徒歩で半日ばかり、とうとうモ吉はお城へやって来た。

「良いかお主、殿が言うことは絶対だ。決して『いいえ』を言ってはならぬぞ。分かったな」

「へえ、お侍さま」

 そして、モ吉は殿と対面することになった。

「お主が村一番相撲が強いモ吉か?」

 殿が尋ねた。

「へえ、そうでごぜぇます」

 モ吉が答えた。

「年は何歳じゃ」

「おらぁ、捨て子なんで年がよくわかりません」

「捨て子?」

 すると殿は何か企んだ。

「それならお主、誠の親に会いとうないか? いや、会いたいだろう」

 そう言い殿はにやっと笑った。

「『いいえ』と言ったらどうなるか……分かっておるな?」

「……」

「後ろを見よ」 

 モ吉が後ろを見るとさっきの侍が刀を用意しておった。

「お侍さま〜」

「……」

 モ吉は成す術を無くしておった。

「そうじゃあ」

 するとモ吉はひらめいた。

「それなら相撲で決めましょ〜おらが相撲で負けたら返事を言いますだぁ」

「何ぃ〜〜〜ずる賢い奴めぇぇ〜〜」

 殿は歌舞伎のように見得をきった。

「そこまで言うのならお主、二言は無いな」

「へえ、お殿さま。おらぁ言い訳が嫌いでごぜぇます」

「ならばモ吉。例えどんな相手だろうと文句は言わせぬぞ」

 余裕たっぷりに殿は言った。

「へえ、お殿さま」

 モ吉は了解した。すると殿はさっきの侍を呼び何やら耳打ちしたそうな。

「そのほう、頼んだぞ」

 殿の命令を受け、さっきの侍はモ吉をどこかへ連れて行った。

 それから歩いて間もなく、やって来たのは森の中だった。

「お主の相手はあの大木だ」

 侍が指差したのは大木のごとくがっしりとした体格の人間ではなく、どう見ても本物の大木だった。

「お侍さま〜」

 思わずモ吉は叫んだ。

「どうしたモ吉。怖じ気付いたか」

「そうではごぜぇません。こいつは人間じゃねぇ、ただの大木です。こいつとどうやって相撲を取ればいいんですか〜」

 すると侍はこう言ったそうな。

「お主は強すぎて人間の相手はもうおらぬ。せめてお主の力がどれほどかを知るにはもはやこの大木しかない。これを倒すか引っこ抜き、その力がどれほどかを殿が見たいとおっしゃった」

「そんなぁ〜〜」

 モ吉は再び窮地に立たされた。

「拙者が見張っておる。早くしろ」

 そう言い侍は腕組みをしてそこで監視を始めた。

 



 その大木はびくともせず、とうとう日が暮れた。そしてモ吉はどうがんばってもその大木を動かせなかったそうな。

「時間切れだ。城に帰るぞ」

「そんな〜」

「無理なものは無理だ。諦めろ」

 仕方なくモ吉は諦め、侍と共に城へと戻って行った。






 城へ戻るとさっそく侍は殿に報告した。

「なんてこってぇ〜」

 モ吉はがっくりと肩を落とした。

「話は聞いた。お主、誠の親に会いたいな?」

 殿はにやっと笑った。

「へ、へえ〜お殿さま〜〜〜」

 モ吉は涙ながらに返事した。







 そして幾日か経ち、とうとうモ吉の親が見付かった。

 そしてあの侍がモ吉の家に知らせに来ると同時に連れに来た。

「おっとう、おっかあ、おら行って来る」

 モ吉は行きたくなかったので悲しそうに言った。

「達者でな」

 ばあさんが言った。

「二度と戻って来るんでねぇぞ」

 じいさんが言った。

「参るぞ」

「へえ」

 こうしてモ吉は侍とまた徒歩で歩いて行った。







 それから歩いて半日ばかり、やって来たのは町の片隅にある小さな木の家だった。

「ごめん!」

 侍が戸を叩いた。

「あいよ〜!」

 そう言い中から女が出て来た。

「お主の息子を連れて来た」

「ありゃ〜〜」

 女は驚いた。

「おっかあ」

 モ吉が言った。

「おめえがおらの息子か?」

「そうだぞ」

 すると侍は

「拙者はこれで失敬する」

 そう言い去って行った。

「さあ、中へ入んな」

 モ吉は家の中に入った。

「おっかあ、おっとうはどこだ」

「おっとうは薬売りに行って晩飯まで帰らないよ」

 それからその晩飯時。そこの旦那が家に戻ると三人仲良く団欒した。

「あれ?」

 ふと母の顔を見てモ吉は不思議な顔で言った。

「何だいモ吉」

 母が言った。

「何でもねえ」

 モ吉が言うと三人は再び飯を食い始めた。 

 飯の後母が怖い顔でモ吉に言った。

「おらが風呂に入る時は絶対、部屋から出るんでねえぞ」

「分かったぞ」

 モ吉は素直に返事した。

 それから母が外にある風呂に向かい、父が火を起こしに出ようとした時

「おっとう、待ってくれ!」

 モ吉が引き止めた。

「何だモ吉」

 すると父が立ち止まり振り向いた。

「おっとう、あれは本物のおっかあじゃねえ。口の回りから毛が伸びてたぞ。あれはきっと妖怪だぞ!」

 モ吉は震えながらそう言った。

「なら、おらが確かめて来る。おめえは絶対部屋から出るんでねえぞ」

 父はそう言い残し部屋から出て行った。

「おっとう〜」







 それから父は戻って来るとモ吉に何も言わず、そのままいびきをかいて寝てしまったそうな。

 それから毎晩モ吉は悪夢にうなされるようになった。それはモ吉が風呂場の前に行き

「おっかあ、おらが背中流してやるぞ」

 そう尋ねると

「来るなと言ったのに」

 中から母の低い声がし

「この嘘つきめ!」

 突然勢いよく戸が開き中から全裸の母が姿を現し、それを見たモ吉は叫んで目を覚ますというものだった。

「ぎゃああああ!」

 またモ吉が悪夢にうなされていると心配して父が言った。

「おめえ毎晩どんな夢見てそんなにうなされとる」

 するとモ吉は答えた。

「おっかあが出て来る夢だぞ」

「おっかあが出て来て何で叫ぶんじゃ」

「おっかあが風呂場から出て来たら髭面のおっちゃんになってるんだぞ」







 翌日、いつもより早く家に帰って来た父がモ吉に言った。

「おめえに大事な話がある」

「分かったぞ」

 モ吉は素直に返事した。

「おめえのおっかあはなあ」

 父はそこで一旦言葉を区切り深〜く息を吸い、ゆっくり吐いた。

 そしてこう言ったそうな。




「おっちゃんなんじゃ」 




「……」

 モ吉は言葉を失った。







 翌日モ吉は家を飛び出し、恐怖で二度とその家には帰れなかったそうな。







 一方、モ吉が共に暮らしたあのじいさんとばあさんはというと

 あれからじいさんはバクチをやめ真面目に働くようになり、ばあさんと仲良く暮らしたそうな。




 めでたし、めでたし。




読んでくださった方々どうもありがとうございます。感想、評価などよろしくお願いします〜〜

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。秘密基地で見かけて、興味を持ったので読ませていただきました。 ネタ先行といった感じで、前半の勢いが持続しなかったのが残念ですが……でもネタ自体は大好きです。モ吉イイヤツ!豹変する…
[一言] 評価依頼を受けたひるこです^^ 実にシュールな作品でしたw 文法・文章ですが、「おら」や「おっかあ」、「〜じゃ」等と言った言葉をかなり自然に使えていて、違和感なく読めました。 ただ、キ…
[一言] ども、評価依頼されたラグです。いや〜、シュールですねぇ、前半は読むのにはまりました。 ただ、おっさんなんだよと言われて実際見もしないのに逃げたしてしまったりとか、後半に入ってからの物語は え…
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