ナハツボミ
「オンヤサイ」に続く旅人さんシリーズ第2弾。
旅人が訪れたのは、「ナハツボミ」
ある日、一人の旅人がとある村を訪れた。
宿屋を探す旅人に、村の子供が声をかけた。十歳くらいの女の子だ。
「こんにちは旅人さん!」
こんにちは、旅人は返す。
「旅人さんはなんてお名前ですか?」
旅人が質問に答えると。
「わたしの名前は、ツボミって言うんだよ」
女の子もまた、自分の名前を言った。
ツボミという女の子と別れて宿屋を目指す旅人の前に、また村人が声をかけた。六歳くらいの男の子だ。
「旅人さんこんちは!」
こんにちは、旅人が返す。
「旅人さんはなんてお名前?」
旅人が質問に答えると。
「ぼくの名前は、ツボミって言うんだ」
男の子もまた、自分の名前を言った。
ツボミという男の子と別れて宿屋を目指す旅人の前に、また村人が声をかけた。十六歳くらい女の人だ。
「こんにちは旅人さん」
こんにちは、旅人が返す。
「旅人さんのお名前はなんと言うのですか?」
女性の質問に旅人が答えると。
「良いお名前ですね」
旅人の名前を褒めて、
「私の名前は、ツボミって言うんですよ」
女の人もまた、自分の名前を言った。
ツボミという女性と別れて宿屋を目指す旅人の前に、また村人が声をかけた。十九歳くらいの男性だ。
「こんにちは、旅人さん」
こんにちは、旅人が返す。
「旅人さん、あなたの名前教えてくれませんか?」
旅人が質問に答えると。
「変わった名前ですね」
旅人の名前を笑って、
「俺の名前は、ツボミって言うんだ」
男性もまた、自分の名前を言った。
ツボミという名前が人気なのかな? 旅人は先までに会った4人を思い出して呟いた。
でも女の子ならともかく、男の子で「ツボミ」というのはどうなんだろう?
そこへ、一人の老婆が声をかけてきた。
「私も何十年か前はツボミという名前でしたよ」
名前でした? 旅人が訊ね返すと。
「村長の所に行けば意味が分かりますよ」
老婆は村長の家の場所を教えてくれた。
「こんにちは旅人さん。ようこそ我が村へ」
旅人が村長の家へ行くと、村長は温かく迎えてくれた。
進められた椅子に座り、旅人は名前についてを訊ねた。
「それは、我が村の風習ですね」
村長は説明を始めた。
この村には、20歳を迎えた村人が初めて、自分で自分の名前を考えて名付けるという規則があった。産まれた際に両親がではなく、20歳の誕生日その日にだ。
その規則は『ハナツボミ』と言い、20歳を迎える前の村人は皆『ツボミ』という仮の名前で呼ばれるのだとか。
なぜそのような規則が? 旅人が訊ねる。
「この村では20を越えて初めて独り立ち、一人で村を出る事が出来ます。その為それまでは大部分が親の世話になり、子供のまま、謂わば花の蕾のような状態なのです。この規則により20歳を迎えて村を出る者が多いのですが、そこまで来たら親の世話にならず自分で判断して動け。いつまでも蕾ではいられない。そういう想いと共に、独り立ちの証として自分が考えた名前を自ら名乗るのです。この規則が出来てからというもの、村の女性には花の名前が多くなりましたよ」
なるほど、旅人は感心した。
そして旅人は、村長に宿屋の場所を訊ねた。
宿屋を訪れたい旅人は、物珍しさに集まった幾人もの村人と、
幾人ものツボミさんに出会ったのだった。
ツボミのまま、それは許されにくい事。
蕾はいつか花として咲き、新たな蕾を生む。
ハナツボミ 規則によって ナハツボミ。
独り立ちの証として自分で名前を考える。
成人した人は、いつまでも親の世話になっては居られないという気持ちを込めて書いた物語です。
人として、いつか花咲かすツボミのように、いつかは自分で華麗に咲かなくてはいけ
ないのです。
それでは、
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