試練も終盤
青の魔剣を炎の拳にぶつける。
触れた部分からパキパキと凍り、マグマで作られた手がただの塊に戻る。
(魔力の質は剣が上……?)
俺はそれを確認し、素早くミコトをひいて距離をとった。
「な、なんなのよアレ……」
ミコトは唖然とする。それはそうだ……、俺だって恐怖でちびりそうだし。
(ゴブリンリーダーがあんなにいたのも、このどぎついやつに群がったがためか)
「ツンツン! お前武器もってるか!」
「も、もも持ってるわけないでしょ!? アンタが『ツンツンは武器より魔法覚えろよ』なんていうから近接格闘は対人用しかないわよ!」
なぜ対人用?
「わかった、お前の味方識別は所持してるから後方から援護頼む」
ツンツン(ミコト)は、わかった、と一言告げて後方にある岩に隠れる。それと共に、マグマから手、頭、体、足と順にそれは現れた。
象徴するように鋭い角、呼吸をする度に溢れてしまう炎、所々にオレンジ色の体毛。
魔人、イフリート。
「でっけー……」
後ろから暢気に言ってないでさっさと戦いなさい、とラブコール。嬉しくないのは正常な証だろう。
イフリートは大口を開けて俺を睨む。
口を開けたその先の空間に、炎の玉、それこそツンツンが作り上げたファイアーボールよりも大きいもの。
「ツンツン! 水で対抗!」
「わかったわ! 『スプライト』」
ツンツンが告げた瞬間、ツンツンの周りから勢い良く水がイフリートへ飛ぶ。
だが、
「グォォアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
魔人の雄叫び、それとともに炎の塊はスプライトと真っ正面からぶつかるッ!
水は淡く蒸発し、塊はそのまま俺とツンツンに当たる軌道で、進む。
「『リフレクト』!」
背後から聞こえる呪文、それが俺の耳に入るとすぐさま横に飛ぶ。
炎の塊は、そのままツンツンに直撃した。
残るのは真っ黒に焦げた壁と無傷なツンツンのみ。
確認するまでもなく、立ち上がるとすぐさまおれはイフリートに突撃する。
イフリートは、突撃する俺の姿を確認すると、左手を振りかざした。
『地獄の業火よ、我が意に従え』
その声と呼べるかわからない詠唱。イフリートが詠唱したものだとわかったのは、次の魔法が効果を表してからだった。
『フレイムシャイン』
炎の竜がイフリートの指先から勢いよく俺に向かってくる。
「チィッ!」
抜くことはないと考えていた赤の魔剣を抜き、それをガードするように、構えをとる。
だが、全く抵抗を許さないような一撃がぶつかり、簡単に体がぶっ飛ぶ。
ふっ飛ばされる体は何も出来ぬまま壁にぶつかった。
「ガッハァア、ッ!」
肺に残る空気が吐き出されるように、ミシミシと胸の辺りを圧迫される。だが、その次の痛みを感じさせる前に炎の竜は俺にぶつかろうとまた向かってきた。
「汝を守護する七つの力『ミラージュプロテクト』!」
炎の竜は俺に当たる前に、その前にとても大きな壁ができ、炎の竜がぶつかったことによって発生される炎の嵐は避けるように四方へと散った。
「オ、イ…………。お前、いつから上級魔法、なんて使え、たんだ?」
詠唱を必要とする魔法は上級魔法という。下級魔法でも詠唱を使えば多少は威力が強くなるが、主に使われるのが上級魔法である。
詠唱は、その魔法に対するイメージを確固にするために行う言葉、だからこれと決まったものはない。先程のミラージュプロテクトでも『汝を守護する七人の力』というものもあれば、『我を守る魔法の壁』などでも、自分がその魔法に対する力、考え、想像。そう言ったものが詠唱に関係する。
「私がいつまでもお世話になりっぱなしなのは気にさわるから、ただそれだけよ」
ツンツンはそう言って俺から離れる、よく見れば気づかないうちに回復の魔法を使ってくれたようで、先程のダメージはほとんどなかった。
俺はきちんと体が動くことを確認し、今度は慎重にイフリートに近づく。
『地獄の業火よ我が意に従え「フレイムシャイン」』
炎の竜がツンツンに向かって放たれる。
「『プロテクト』」
ツンツンはそれを最小限の魔力とコントロールで防ぐ。
俺は馬鹿のように突撃する。いや、実際には考えがあってやってるけど。
『大地の脈動、我が命ずるがままに敵を打ち砕け「アースブレイク」』
そんな俺に対し、イフリートは詠唱を短時間で終わらせ、地面が隆起する。
急に足場が不安定になるが、完全にバランスが崩れてしまう前に横に転がる。
「こんっの野郎!!」
青の魔剣の切っ先をイフリートに向ける。
「放て! アイスショット!」
そう叫ぶと共に氷の弾がイフリートの角に当たる。
パキパキ、とイフリートの角は凍っていくのを見て、自分の攻撃が一応効くことを確認し、隆起した地面を眺めた。
使えるか?
「ツンツン! なんとか目眩まし出来るか?」
「任せなさい! 『ミラージュスプレッド』!!」
小さな水の玉が何十個という数で生成され、勢いよくイフリートにぶつかった。すると、パンッと玉が弾け、辺りを霧が包んだ。
魔法による霧と火と水がぶつかったことによる水蒸気。
霧が広まるのにそう時間はいらなかった。
「グォォオアアアアアアアアアアアアアア!!」
咆哮。
まるで空気の砲弾がとんだような、イフリートの口から壁までの一直線に霧が晴れる。
イフリートが見たのは隆起する大地、咆哮によって怯むミコト。
そこにフィンの姿はいなかった。
「うォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
咆哮、というよりは叫び声。
俺はこれでもかと大声で叫んだ。霧よってイフリートの表情を詳しくみることはできないが、恐らく驚きに満ちているのだろう。
一本の剣を振りかぶる。そして重力に従うように、俺の体は真下に落ちる。
最後にイフリートが見た光景は一体何だろうか。
直後、振った剣は肉という物体を無視し、するりとイフリートの眉間、顔、体。真っ二つにすり勢いで斬った。