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洞窟での攻防

 現在必死に逃走中。

「おいツンツン! 頼むから走ってくれ! これじゃあ俺がバテる!」

「そ、それが……」

 ツンツンは苦笑いを浮かべながら、視線をそらす。


「腰、抜けちゃった」


「ちっっっっっくしょうォォォォオオオオ!!」


 俺は涙を目尻にためながら走る! なんで実力があるやつって肝心な場所で駄目なんすか!

 そんな抗議する様子を全く理解しようとしない(出来ない)土ミミズは大きな口を開けながらこっちに向かってくる。

「ツンツン! 後ろに魔法ぶちかませ! このままじゃあのヌルヌルに身も心もぬっちゃぬちゃにされんぞ! いいのかぁ!!」

「イヤァァァァァァアアアア!!」

 ツンツンは『ぬっちゃぬちゃ』という言葉に反応してファイアーボールをサンドウォームに向けて飛ばす。いや、一体なぜそっちに反応した?

 しかし、後ろからの爆風で転びそうになるがここは我慢だ。絶対、絶対俺の抱えている女を尻ぺんぺんする! もうセクハラとか関係ねぇ、俺は限界だ。下心ではなくダイエットを怠っている彼女の体重に!

 …………デリカシーがなかった。ふぅー、冷静になれ俺。

 っつか、もうツンツンあのミミズを見ることに耐えられなくなったのか、目線を下に向けながら適当に放ってる。もう少し当ててください、普通に洞窟に当ててますよ? サンドウォームさんに全くあたってません。

「オイ! せめて当てろよ!」

「無理よ! あんなグロテスクなのを見ながら魔法なんて打てないわッ!」

 そう


 なぜかは知らないが、こう……、なんていうか、大口開けて周りに鋭い牙があり、そして真っ暗な穴がそこにあって、サンドウォームの粘液がぬっちゃぬちゃなのだ。そう、生理的に無理とかそういう次元だ。正直見たくない。


 木霊する叫び声。




 ☆




「ゼェーハァーゼェーハァーゼェーハァー…………」

「フ、フィン……そろそろおろして?」

 スッ(お姫様だっこから手を離す音)

 ドカッ(落ちた音)

 直ぐ様離してやった。俺は悪くない。何か?

「痛いじゃない!」

「俺は悪くねぇ!」

「なにその某赤髪長髪の主人公がやってしまった責任転嫁!?」

 なんだそれは? 帰ったらそれも聞いてみよう。

「とりあえず、こっから先は多分一本道だろーし、休憩すっか」

「え、フィンこの洞窟入ったことあるの?」

「ねーよ」

「…………」

 沈黙してしまったツンツンを尻目に、とりあえず休める場所を探すことにした。ついでに燃えるもんなども拾う。

 なぜ洞窟に枝など普通はないものが転がっているのか、一番大きな理由なら人形(ひとがた)の魔物、つまりゴブリンなどが集めている間に落ちた物。その他に人間が倒れて道具が落ちたなどだ。

「ツンツン、ちょっくらそこらへんで焚き火してて。ここなら煙もたまらないで外にいくだろうし、俺は拾い物をさがしてくる」

 そう告げて、来た道を少し戻る。

 先程、まだ真新しい袋があった。多分ここを立ち入り禁止区域だと知らず、入ってしまった冒険者だろう。そしてその犯人もわかる。

 自業自得だとは思わない。今回は運が悪かっただけ、ただ、それだけ。

 だけど、いやしかし、俺はそれを見過ごすほど出来た人間ではなかった。


「グルルル……」

「下等生物が、人間様にたてつくんじゃねえよ」

 ざっと十匹。その種類はゴブリンの上位個体ゴブリンリーダー。通常のゴブリンの肌は深緑だが、この種類は肌が紫なのが特徴である。

 ゴブリンリーダーはその実力はゴブリン三体、良くて五体分の戦闘力だが、厄介なのが一体いるだけで『そこら一辺に統率力』が現れてしまうことだ。

 おそらく先ほどあらわれたサンドウォームも、このゴブリンリーダーに従う一体なのだろう。

しかし…………

「ゴブリンリーダーが十匹って聞いたことねえ」

 どんなに多くても三体辺りなのだが、今回は十体、ただの偶然か? それとも…………

「グギャアアアア!!」

 一匹の発声によって飛びかかってくる集団。

「チッ……少しは本能ってのがねぇのかよ」

 炎剣に手をかけ、抜刀とともに三体切り裂く。

 上半身と下半身にわかれたゴブリンリーダーが地面に落ちると、突撃しかけた魔物たちは立ち止まる。

「グ、グギャアアアア!!」

 すぐに逃げの姿勢に入り込んだ。まあリーダーという名に恥じない懸命な選択肢だ。しかし


 炎剣のもつ魔剣の力をなめてもらって困る。


 俺は剣先をゴブリンたちに向けて狙いをすませ、力を込める。




 ☆




「戻ったぞう」

「速く帰りたい」

 駄々っ子かお前は。

「仕方ねぇな……、準備を整えたらさっさと行くぞ」

 そう言って、道具袋から携帯食料を取り出す。元々栄養だけを考えて作ったものなので、マズイわけではないが美味しいといえる代物ではないことは確かだ。

 そのままでも食べれるが、火を通したほうが少しだけ味がつくのでやる。俺が学んだ知識なのだ。

「…………うっし、焼けた焼けた。ほれさっさと食え。わざわざ焼き魚にしてやったんだから」

「え? 別にいいけど…………フィンは?」

「マズイほうを食べる」

 そう言って俺は携帯食料を口に放り込む。うん、微かな油とちょっとした塩味が旨く感じられる。ちなみに最初は人間の食い物じゃねーッ! っと投げたことがたくさんあるが、今は今である。

「そう、ありがとう」

「フッ言うな、褒められると食べさせたくなる」

「死ね」

 地味に傷がついたぜ…………極端すぎる。

 ツンツンはハグハグと焼き魚を萌える食べ方で口に頬張っていた。すげー美味しそう。

 そんなことを思いながら、最後の一口を口に入れて立ち上がる。見ると、ツンツンも食べ終わったようだ。

「んじゃ、行きますかな」

「さっさと行け」

「ツンツン、それが地味に俺のライフを削っているのだが気づかねぇのか?」

「気づいてやってるに決まってるじゃない」

 殺す。

「それより最深部につくわよ」

「へいへい……意外と近かったな」

 出ると、そこは大広間といっても間違いではないほど広く、ずっと向かいの方にはマグマが熱々しく揺れていた。

「なんかやな感じだな」

「そうね、一回水浸しになったほうが気持ちいいくらい」

 それには俺も同感だ。

「さて、とりあえずあのマグマに近づいてみるか……」

 少し、少しずつマグマに近づく。近づくにつれて周りの温度が急に変わったように感じられる。

「何もないわね」

「そうだな……」

 風の鎧を着ているツンツンは涼しそうだ、チッ魔法が使えるやつは羨ましいぜ。

「でも今はその魔法解除したほうがいいと思うぞ?」

「どうして?」

 …………、異世界人ってモンスターの名前とか余計な知識を溜め込むくせに、基本は覚えないのか?

「属性の基本中の基本だろ。こんなクソ暑いとこに住んでるモンスターなら、どうせ火を使うやつだろ? そしてエアシャフトは風の力をもつ。つまり『相性』だよ、たしかそっちの世界だとカガクって言うんだっけ? もし火がその風の鎧に触れたら、ボッて勢いよく燃えま――ボゲラグラッシャァァアア!!」

 痛い! 右パン痛い! なに!? 俺なんかした!?

「さっさといいなさいよ」

 とてつもない怒気を含ませたお言葉が、俺の体を縛りつける。コワイよ母さん…………、駄目だ。あのぐうだらな母さんに助けは求められない。薄情云々ではなく動いてくれないからだぞ? 

 ツンツンの額には、急に熱気にふれたせいか少しだけ汗ばんだ。

「何もねーな」

「そうね」

 会話終了。

 気まずいな……。

「もしかしてあれか? ここまで来させたときには、仲間内でチームワークがとれるようになってるとか、『あれ、回避スキルが逞しく上がっている……ッ!?』みたいなことだろうか?」

「一応ファンタジーなんだからそういうネタはやめて」

 ん? ネタって何が?

 ツンツンはプイッとそっぽを向いて、なにやらブツブツ念仏を唱えていた。念仏とはどういう意味なのか曖昧だが、こういうときに使うと効果的らしい。難しい……。

 だが、そのツンツンがそっぽを向いた瞬間、マグマがまるで『手』のようなものを形成させ、おれとツンツンを巻き込むように上から下へ振りおろす光景を見た。


「にげ―――――ッ!」


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