試練
「……ゼリョス様」
荒れ果てた教室で、無機質な声が響いた。
「フロアよ、一応体罰の許可はしたが……この惨事になるまで事を荒たげる許可はしておらんぞ」
「……すみません」
シュウ……、と音がすると、彼女の鎖が消えていた。どうやら召還したもの戻したらしい。
俺も剣を納める。
「それよりオッサン、体罰ってなんの話だ?」
疑問です。そして守護者様よ、学園長をオッサン呼ばわりしたこと、そんなにダメですか? 鎖がまたでてますが。
「なーに、おぬしの話じゃよ。最近遅刻が多いからちゃんと出席しろ、という、まあ警告じゃな」
「遅刻した回数が多いだけでこんなめに合うのか。それは知らなかった」
「「「「いや、納得するなよ」」」」
えっ? だって無理矢理納得させないと俺、キレちゃうよ? いいのお前ら。
学園長は守護者の方を向いた。
フローリア=アルム。水の守護者を務め、ミスティーク校長兼学園長に絶対の誓いを掲げている人物だ。…………もちろんカナリア情報なのだが、自分の知識が馬鹿並みのことを軽く済ます俺って。
「……守護者を馬鹿にした」
「「「してないしてない」」」
「……本当?」
いつも思うんだが、こういう命がかかった状況で『うっそー』とかほざけるやつがいるのだろうか? 少なくとも俺は言えない。まして鎖で首が絞められてるこの状況では絶対に言えない。つか誰かタスケテ……。
「……でも決闘の合図はそこの人が出してた」
集まる視線。ミスラは滝のように汗を流しながら自分の持つモノを見て、守護者様を見て、逃げた。
決闘。それは皆が想像するものでほとんど合っており、相手に武器を向け、相手もそれに応じれば決闘は成立する。
今回はミスラが振り回していた武器が守護者のほうに向けたため成立。
その決闘に俺は横槍を入れたことになるわけだ。
ん? どうしてこんな悠長に説明してるか?
だって、とうの犯人はその守護者様に締め上げられてるからね。
「つか、タイミングよすぎ、いや悪すぎじゃねぇか? 絶対急展開だった気がするんだけど」
「ああ、あれワシの計画」(キラッ)
「はぁ?」
老人は、いますぐ抹殺していいよね?
「いやはや、カッコいいじゃろ? 守護者と熱いバトル、それを止めるワシ」
「オイまて、さっきはそれっぽいことほざいて本心はそれかよ!」
なんてジジィだ! 俺の中ではボルテージが限界値まで上がっているのがわかるッ!
「うむ、ずっとドアの前で待機しておった」(キラッ)
う、うぜぇ……、毎回毎回親指を立てて歯をキラリと光らせる、その一挙一動がイラつかせる。
ちょっと、ほんのちょっとだけ赤の魔剣に右手をかざす。
手が滑ったんだ。しょうがないじゃないか、うん。
「うぉぉぅっと! 手が滑ったァァァァア!」
オッサンの目の前まで迫っていた剣は、見事に鎖に防がれた。チィ! 視線がそっち向いていても要人への気配りは流石じゃねぇか!
「まあなんだ、精進しろよ少年」
「余計なお世話だ!」
ボケているんだ、つかボケたジジィに心配されることはまずねぇ。
「フッ、その反抗的態度……いいんじゃな?」
「あぁ? どういう意味だ」
周りはなんか察知したらしい、カナリアはオッサンに制止をかける。
「ま、待ってください! フィン君もわざとじゃないんです!」
「カナリアいいよ、言わしてやれってんだ」
「……いい度胸じゃの」
オッサンはイライラしている。いや、イライラしてんのはこっちだからな? そこは譲らん。
「こればっかりは仕方ないの……、フィンラル=ダルバロスよ。そなたに命ずる
魔人の洞窟で『魔人のなみだ』を今日中に提出せよ
異論は認めん」