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動きだす世界の柱


 魔女に記憶を奪われた。

 微かな記憶の残留、その中で魔女は言った。

「待ってるよん、『無』の力を授かりし者」

 待ってくれ。

 待てよ。

 俺から魔法を奪ったのはお前なのか?

 俺から家族を奪ったやつをしっているのか?

 お前が、

 お前が俺の記憶を操ってんのか?










「……ハァ………ハァ」

 気付いたら、俺はベッドの上だった。窓の外を見て、なんとなく気分が下がる。

 学校という面倒なものに通わなくてはいけないくせに、雨にうたれなくてはいけないのだ。

 そんなことを考えていると、俺の寝室に普通に入ってくる人がいた。もちろんツンツンだ。

「フィン? 傘ないの?」

「カサ? ………カサってなんだ?」

 なんだろカサって。










「ねぇ、アンタ私がいなかったらびしょ濡れで学校に行くつもりだったの?」

「失礼な、びしょ濡れになる前に学校に行くから心配はいらねーよ」

 大雨だったら水の属性をもつ友達でも呼ぶし。

 ちなみに、ツンツンは七属性全てを併せ持っているので、雨に当たらないように水の属性を操っていた。こういう時にはとても重宝する。

「それより、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「背後でとてとてついてくるやつなら心配いらねーから行くぞ」

 知ってる人? みたいな感じで見られたが、今回は気にしない。

 なぜなら嫌でも学校で会うやつだからだ。


 ところ変わって魔法学校に到着。そこ、描写が速いとか絶対手抜きだろとか言わない。

 こんな雨の日でも、玄関にはネビリム先生がいた。相変わらずあの髭に視線がいってしまうのは、俺だけじゃないはず。

「おはようございますヘリウム先生」

「うむ、おはよう。それとワシはネビリムじゃ」

「相変わらず流しますね。だめですよ生徒の言うことをおろそかにしては」

「お主には言われとうないが、まあ良いほれ、さっさと行け」

 む、なんだこのスルースキルは。

「ツンツン、ネビリム先生この頃なんかあったのか?」

「さあ? 同じことしか言わないから耐性でもついたんじゃないの?」

 なるほど、耐性か………なら。

「先生先生」

「なんじゃ、今は挨拶しなくては――」

「エスエム先生! そんな趣味をしていたんですか!」

 ネビリム先生が止まった。そして俺も捕まった。なぜか今回は怒られたのだが、なぜ今回なんだろう? 意外と思い当たるフシがあるのだろうか。


「ったく、今回はついてねーぜ」

「……はは、しょうがないよ。フィン君もダメだよ? 先生をあまり馬鹿にしちゃ」

 ところ変わって昼食。俺の隣にはツンツンとミスラ(友人)、目の前にはいつも俺に昼食を持ってきてくれる謎の少女カナリアだ。

 容姿は茶髪のショートカット、いやボブカットか? 髪型には疎いのだがとにかく短い。肩にかかるか、かからないぐらいで、赤のメガネをかけている。雰囲気が凜としていたら女教師ってな感じだが、のほほんとした雰囲気が、どことなく幼馴染みみたいな感じになる。隣のツンツンが「地味子みたいな子ね」とか言っていたが、一体地味子とは誰のことなのだろう?

 ツンツンの言動に、なぜかは知らないが一つだけ単語が浮かぶのだ、神がかり的にそれは、ファンタジーなんだからそれはダメー! といっているような、正直わけわからんし。

「アンタ、今朝ウチらをおってきた奴ね?」

「な、何故それを!? 死にかけてボケてるお爺ちゃんにもばれたことがないのに!」

「むしろそれが普通だな」

 普通の返答に、右隣にいる友人ミスラがチチチッと得意気な顔で舌打ちする。頼むから死んでくれ。

「俺の扱いひどっ!!」

 お前の扱いなんてそんなもんだ。

「ご、ゴホン。とりあえず、カナリアちゃんこんなやつより俺と――」

「へ!? や、あの、その!」

 ……………?

「はっはーん、なるほどね………」

「ツンツン、何がわかったんだ?」

 いや別に、と素っ気ない態度であしらわれる俺、虚しい。

 なんとなく居心地がわるくなりそうなので、講習がてらカナリアに話しかける。

「ストーカー行為見逃すかわりに、コイツに世界の情勢とか教えてやってくれないか? 空高くから落ちてきたみたいでどうやら記憶を失ってるみたいなんだ」

「そうなんですか? 任せてください」

 ニコッとした笑顔でうなずいてくれる。やっぱり癒しだなぁ……、家で起こるトラブルが物凄く癒される。

「(ちょっとフィン! アンタあたしに電波キャラでも儚げキャラにでもさせたいの!!?)」

「いいんだよ、こんくらいしとけって、それに色々と世界のこと知っとけば損はない」

 ツンツンがこの世界に来て、はや二週間になる。魔法の使い方に関してはものすごい上達だし、言葉は通じるけど文字が読めないという事態も最初にあったが、今となっては日常文字程度なら軽く読めるようになってる。

 ほんと……完璧少女だな。

 そんなことを思ってるうちに、カナリアが俺の前からツンツンの前に移った。弁当は、知らないうちに食べてあるから不思議だ。

「良いですかミコトさん。世界の情勢……と言っても、基本的なことですが、『世界の柱』というものがあります。これは六人の魔女と、三人の賢者、七人の守護者のことを指します。

 六人の魔女は人間に嫌われて、あまり人と関わらないんですが、基本的人の味方、いや世界の味方と言ったところでしょうか。魔女は遺伝で生まれるわけではなく、突然生まれるんです。魔力を持たない夫婦間から生まれたという報告もあり、なぜそうなるのかはわかりません。しかし、持っている魔力量、その質は人では辿り着けない領域に存在します。ちなみに七人の守護者を決める決定権は魔女が保有しているんです」

「へぇ、なんとなく魔女がリーダーっていうイメージが強いわね」

「そうでもありませんよ。魔女の間にも掟というものもあり、世界がとてつもないピンチに危ぶまれない限り、魔女は人の前に姿を現しません。なぜだかわかりますか?」

 ツンツンはうーんと唸るだけだった。(ミスラも同じく)

「昔、その膨大な魔力を狙った魔術師がいたんです」

「……でも、魔女のほうが数段強いじゃない」

「はい、ですが魔術師のほうは幾重にも罠を仕掛け、大人数で魔女、小さな女の子を捕らえたんです。世界の黒歴史と言っても過言ではないことを」

 授業でやっていたことを思い出す。ネビリム先生からは、何回も教え込まれたことだ。

 つまり、魔女狩りや魔女の力を強引に奪おうとした、人の悪い部分を忠実に現した史実。

「ここは推測ですが、恐らくその少女の腕や足、至るところを解剖、検査、そして挙げ句には目をくり出したり頭の脳でさえ出したと思います。それも、禁術であるどんな傷を受けてもいきつづける魔法を施して」

「リレイズか」

 俺は弁当箱をきちんとしまいながら、そう告げた。禁術でもある程度有名で、代表例でもよく使われる。

「はい、伝説の死霊使いが使ったと言われる不死の魔法」

「そんなに悪いものなの? リレイズって」

 ツンツンの言葉に、カナリアはええ、と告げる。

「死ななくなるんです。どんな傷を受けても、どんなに血を流しても。唯一老衰でしか死を迎えることが出来なくなる。だから他の魔女が助けた時は、その魔法を解除することが出来なくなっており、時を進める魔法で友を、魔女にとっては家族ですかね。殺したと聞きました」

「……カナリアは詳しいのね」

 カナリアはツンツンの言葉にただいえいえ、と答えるだけだった。俺もそこまで覚えてない。

「次に三人の賢者についてですが、大昔、魔女とともに七人の人間が魔を打ち消したっていうお話を耳にしたことはありませんか?」

「いえ、あまり覚えてなくて……」

 な、なんて気持ち悪い隠し笑いなんだ……ッ! 下手だ! 笑顔が下手だ!

 そんな俺の心情を見抜いてか、(気持ち悪い)笑顔でカナリアを見ながら、右手で俺の顔を鷲掴みにする。

「三人の賢者というのは、その七人の人間の子孫なんです。遠い過去から受け継がれる血は魔女と並ぶ価値で、魔女と張り合えるくらいの力を従えてます。賢者は、生まれつき民を導かなくてはいけないことをずっと教え込まれるそうで、自由を得られないって話を聞きました。ちなみにこの学校の校長先生がその賢者の一人ですね」

「「「へぇ―」」」

「ちょっと待ちなさい。あたしがへぇとか言うならまだしも、なんでアンタたち二人も頷くの?」

「「知らなかったから」」

 息ぴったりに言うと、何故か嘆息された。酷い。

 カナリアもハハハ……と苦笑いされてるのが意外と心に響くものがある。

「あれ? でもなんで七人いたはずの人が三人に減ったの?」

「ああそれは、昔権力を盾に民から金と女を奪い、導くはずの人間が堕落したために、守護者に消されたんです。それに賢者が何人子供を持とうと、そのなかからたった一人しか賢者という称号をもてないから、数が増えることはないんです」

 へぇー、と感心するツンツン。それを眺める傍観者一名と変態が一人。

 つか変態が槍振り回すんだが、正直鬱陶しい。

「最後に守護者のことですが、基本的には魔女と賢者を守る使命が常にあります。しかし例外もあって、さっきも言った権力の横暴、世界に仇なす者、使命を全うしないもの、そういう者を抹殺する権利を持っているんです。守護者、一見何かを守る者という意味合いで見られますが、守る者というより殺人許可証を持つ騎士と言ったほうが正しいのかもしれません」

「さっきの賢者みたいに乱暴なこととかは?」

「今のところありませんね。守護者はその実力よりも使命感、精神をみられるんです。心が寂れた人には一生なれませんし、あまりに力が弱いと入れない。正に騎士です」「じゃあ弱い守護者もいるってのか?」

「いえ、そうでもありま――」

 彼女の言葉は途中で途切れた。


「守護者の力、見せてあげる」


 突如、カナリアと俺の間にある長机が砕かれた。

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