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癒やしを求めたら、奇跡と呼ばれて幽閉されました。  作者: 柊すい
第一章 祈りの街グライフェナウ

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第2話 果汁グミと門番

※カクヨムにも同名のものを公開しています。

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本日は、3話更新!

 城壁の塔が、近づくたびに大きくなっていった。

 灰色の石を積んだ壁は、まるで山のようだ。

 近づけば近づくほど、その存在感に圧される。


 田中は立ち止まり、周囲を観察した。

 石の加工精度、塔の高さ、門の構造。

 ――おそらく中世後期。都市型の防衛構造。

 考えるより先に分析してしまうのは、もう癖のようなものだった。


 「さて。あの中に、人の暮らしがあるわけか」


 門の前には、槍を持った門番が2人。

 鎖帷子の上から鉄の肩当てをつけ、日差しに目を細めている。

 行き交う商人たちは慣れた様子で金を払い、街の中へ消えていく。

 それとなく列の最後尾に立った。


 (話しかけるべきか? 言葉、通じるのか?)


 喉の奥が乾く。

 自分が今どこの国にいるのかもわからない。

 だが、黙っていても始まらない。


 「……すみません」


 声をかけた瞬間、門番のひとりが鋭く顔を向けた。


 「おい、そこの者。止まれ!」


 思わず背筋が伸びる。

 言葉が――通じた。

 発音も抑揚も違うが、意味は理解できる。

 心臓がどくんと鳴った。


 田中は小さく頭を下げた。


 「こ、こんにちは。ここは……街の入り口で間違いないですか?」

 「見ればわかるだろう。どこから来た?」

 「丘の上のほうです」

 「丘? あんな所に人の家はないぞ」

 「……まあ、ちょっと迷いまして」


 門番たちは顔を見合わせる。

 言葉は通じても、警戒は解けない。


 「旅人か。旅人が入るには、税がいる。銅貨1枚だ」


 とりあえずポケットを探ったが、当然、何も出てこない。

 財布もカードもない。

 この世界で使える通貨など、あるはずがなかった。


 「すみません。お金を持っていないんです」

 「なら、入れられんな」


 当然の返答だ。

 苦笑しながら胸ポケットを探る。

 指先に触れたのは、小さな袋――グミ。


 唯一、現実から持ち込まれたもの。

 どう考えても、これで事態が好転するとは思えない。

 それでも、何かを示さなければ前へ進めない。


 「……これ、食べ物なんですけど」


 袋を開け、1粒を取り出す。

 陽に透ける半透明の紫が、妙に神秘的に見えた。


 「それはなんだ? 葡萄、か?」

 「似てますが、違います。人工的に作ったお菓子です」

 「じんこう……?」

 「説明が難しいですね。とりあえず、食べ物です。美味しいですよ?」


 門番たちは怪訝な表情で顔を見合わせる。

 田中は軽く息を整え、1粒を自分の口に入れた。

 噛む。甘酸っぱさが広がる。


 「ほら、平気です」


 もう1粒を差し出す。

 門番のひとりが訝しげに見つめながら、慎重に手を伸ばした。


 「毒ではないな?」

 「はい。少なくとも、僕はまだ生きてます」


 半信半疑で口に入れた門番が、次の瞬間、目を見開いた。


 「……っ! あ、甘い……!? これは……果実ではないのか!」

 「何だそれ、本当に食べ物か?」

 「果物よりも濃い。まるで……神の蜜みたいだ」


 もう1人も、堪えきれずに手を伸ばす。

 彼は、笑ってもう1粒渡した。

 目を閉じて味を確かめるようにして、ゆっくりと息を吐く。


 「……ああ、確かに、神の味だ」


 思わず苦笑する。だが、門番たちは本気だった。

 ただ、その顔には迷いも見える。

 大きなため息をつき、年長の門番が真面目な声に戻る。


 「……だが、我々の判断で入城を許すわけにはいかん」

 「でしょうね」

 「ただし……。巡礼者なら、話は別だ」

 「巡礼者?」

 「この街は聖グリフォンの爪を置く、アウレリアナ修道院を中心とする街だ。神に祈る旅人であれば、1度だけ無料で通れる決まりがある」

 「……祈り、ですか」


 田中は小さくうなずいた。

 宗教社会なら、そういう制度があるのは理にかなっている。

 そして、今の自分にできるのは、それを利用することだけだ。


 「なるほど。では……巡礼者ということで」

 「なら通っていい」


 門番たちは槍を持ち直し、道を開けた。

 彼は、深く頭を下げる。


 「ありがとうございます」


 通り過ぎようとしたとき、背後から声がかかった。


 「おい、巡礼者!」


 振り返ると、先ほどの門番が真っ直ぐに言った。


 「困ったら修道院へ行け。施しがある。腹が減っても寒くても、神は見捨てん。……そこに行けば、何とかなるだろう!」


 その言葉に、胸の奥がわずかに熱くなる。

 異世界で最初に交わした人の言葉が、思いのほか優しかった。


 「……ありがとうございます!」


 門番は軽くうなずき、槍の先を地に戻した。




 城門を抜けると、空気が変わる。

 石畳の道、鐘の音、焼きたてのパンの香り。

 人々のざわめきの中に、祈りの声が混ざる。

 田中はゆっくりと歩きながら、小さくつぶやいた。


 「……この街では、優しさも制度の一部なんだな」


 最後のグミを口に放り込むと、街の置くから鳴る鐘の音の方へと歩き出した。

果汁グミ、美味しいですよね?

甘味に飢えたこの時代。大量に持っていれば、これだけで1国征服できると思いますw


7話以降は、毎日19:10頃更新予定です。

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