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癒やしを求めたら、奇跡と呼ばれて幽閉されました。  作者: 柊すい
【前日譚】

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17/57

【前日譚】田中が、癒やし手になるまでの罪と罰

※カクヨムにも同名のものを公開しています。

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 この外伝は、田中がこの世界へ来る前に残してきた、ひとつの過ちと、いくつかの選べなかった選択の物語です。


 本編とは直接つながらないため、読むかどうかは皆さんの自由です。


 ただ、本編で田中がときどき見せる「迷い」や「優しさの形」が、

 どこから来ているのかを知りたい方には、補足として読んでいただけるかもしれません。


 必要な方だけ、そっと続きをお読み下さい。

 田中が催眠術を覚えたのは、会社の忘年会の余興がきっかけだった。

 ほんの出来心だった。みんなが少し笑ってくれれば、それで良かった。


 まさか、その軽い一歩が、人の人生を揺らす力になるとは、このときの田中はまだ知らなかった。


 最初に術を試したのは、行きつけの店で明るく接してくれるギャルだった。

 天真爛漫で、ノリもよく、笑って受け流してくれるタイプの女性。

 彼女の反応が良かったことで、田中は「人を楽にできる」と錯覚してしまう。


 次に頼まれたのは、忘年会の相方となる職場の後輩だった。

 責任感が強く、時に自分を追い詰める子。

 彼女が落ち込んでいたとき「少しだけ楽になりたい」と自分から頼んできた。

 田中は断れなかった。

 その瞬間、誰かの心を軽くする言葉の温度に、田中自身が酔ってしまった。


 やがて彼女は、催眠そのものよりも、田中の存在に安心を求めるようになる。


 その次に心を寄せたのは、キャバクラで働く清楚な女性だった。

 控えめに笑う、丁寧で優しい人。

 彼女は日々の疲れを隠すように微笑み、田中の前だけで「少しだけ弱さを見せてしまうんです」と告げた。

 田中は、その揺れに気づきながらも寄り添ってしまう。

 どれほど危うい行為かも分からずに。


 ――そして忘年会本番。

 催眠術は驚くほど成功し、拍手と笑いの中心に立った。

 称賛、肩を叩かれる手、注がれる酒。

 いつの間にか田中の胸のどこかが膨らみ始める。


 「人を導ける」

 「人を楽にできる」


 その思い込みが、田中の心を静かに歪めていった。


 家庭に悩みを抱える年上の女性が相談に来たときも、強く見える彼女がかすかな震えを帯びて「少しだけ頼りたかった」と言ったときも、田中は線を引けなかった。

 またひとり、またひとりと、「支え」を求めて彼の言葉に寄りかかっていった。


 そして――その女性の娘までもが、田中を必要としてしまう。


 寄りかかれば、離れるときの痛みは深くなる。

 田中の曖昧な優しさは、それぞれの心を揺らし、傷つけてしまった。


 泣いて距離を置く人。

 笑顔のまま姿を消す人。

 強がりの裏で崩れていた人。


 田中は誰も拒まなかった。

 誰も選ばなかった。


 その結果、誰も救えなかった。


 全部が壊れたとき、ようやく田中は気づく。

 悪かったのは催眠ではない。

 優しさの形をしていた自分の弱さだったことに。


 田中は催眠を封じた。

 もう二度と誰かの未来を狂わせないために。


 それでも歩き出さなければならない。

 痛みを抱えたままでも、今度こそ人を惑わせずに生きるために。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 田中は、誰かを救おうとしたわけではありませんでした。

 ただ、誰も傷つけたくないという甘さが、人を深く傷つけてしまった。

 その痛みが、彼の中で長い間、静かに沈んでいたものです。


 けれど、この過去があったからこそ、

 本編で彼が示す「距離の取り方」や「選ばない慎重さ」に、理由が生まれます。


 この外伝が、本編での彼の行動を少しだけ違う角度で見せてくれたなら、

 それだけで十分です。


 ここから先は、田中が「ようやく自分の足で歩き直す物語」が続きます。

 どうぞ、このあともゆっくりお付き合いください。

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