第三話 初依頼を達成する
依頼人の家に向かう道の中、俺は授業で聞いたビックマウスについての情報を思い返していた。
ビックマウスはその名の通りデカいネズミだ。体長は約60センチメートル程度で、必ず群れで暮らしている。1匹見たら最低でも5匹はいると考えるべきだと言う。
そしてその攻撃手段は鋭い前脚の爪と尖った前歯である。さらにネズミらしく雑菌塗れらしく、爪で引っ掻かれたり前歯で噛まれたりしたら雑菌が必ず付いてくる。そこで役立つのが毒消しのポーションか、神聖魔法のアンチドートだ。俺もアンチドートの魔法は使えるので毒消しポーションを持っていなくても対応は出来るだろう。
ジャイアントマウスはさらにデカいネズミで、体長は約1メートル。こちらも同じく雑菌塗れで爪や歯には注意が必要だ。
ただジャイアントマウスは群れを作らず大抵が1匹で出てくるらしいので、厄介さで言えば群れを作るビックマウスかもしれない。
ただ思い出せないのが討伐証明部位だ。耳だったか尻尾だったか、どちらかだとは思うのだが忘れてしまった。
どちらも魔物ではあるものの、内包する魔石は小さく売り物にはならないらしい。肉も毛皮も素材としては売れず倒しても金にならない魔物だと言う。
ただ比較的街中にも発生するので、一年中討伐依頼は絶えないらしい。金にならない依頼のため、受注する冒険者も少なく、頑張れば一般市民でも倒せるので、増えすぎて困るといった状況には今のところなっていないらしいが、まさしくねずみ算的に増えるため、その数は子だくさんで有名なゴブリンよりも多いのではとの事だった。
とにかく爪と前歯とその数にさえ注意しておけば問題ないだろう。
そんな事を考えているうちに依頼人の家に到着した。
街外れにある一軒家で、比較的裕福な家庭のサイズ感である。豪邸と言っても良いかもしれない。
俺は早速ドアノッカーを叩き来訪を伝える。すると、家の扉が開き年配の男性が姿を現した。
「ビックマウスの討伐依頼でやって来た冒険者だ。依頼主で間違いないか?」
「おぉ!依頼を受けて下さったのか。これは助かる。家の地下室を数匹のビックマウスが占拠しておってな。ワシも歳だから流石に自分で討伐するのも躊躇われてなぁ。困り果てて依頼を出したんよ。」
おじさんと言うよりはおじいちゃんと言った雰囲気の家主が言う。
「一人暮らしなのか?この家には若い男はいないのか?」
「あぁ。ワシは一人暮らしよ。以前はお手伝いさんのような人間も雇っておったのだが、歳を取るとそのあたりどうでも良くなってきてな。みんな解雇してしまった。」
「そうか。ビックマウスはいつ頃から出始めたんだ?」
「もう1ヶ月になるかな。最初は1匹見た程度だったのが、気が付けば数匹に増えておった。地下室には食料などは置いてないんだが、何を喰って生き残っておるのか。さっぱりわからん。」
「ビックマウスは雑食で何でも喰うらしいからな。もしかしたら普通のネズミでも出れば食料にしているのかもな。」
「なるほどなぁ。あぁ、立ち話もなんだから家に入っておくれ。茶でも出そう。」
「あ、いや。こちらの都合で悪いんだがあまり時間をかけていられなくてな。早速地下室に案内してくれないか?」
「おぉ。そうか。では中に入っておくれ。」
そう言われて通された室内は広めの廊下が玄関扉から真っ直ぐ伸びており、左右に部屋が分かれている。廊下の突き当たりが階段になっており、2階に上がる階段と地下に降りる階段が見えた。
「階段を降りて扉を開ければすぐに地下室だ。ただ地下室にはワシもしばらく入っていないから今の状況はわからん。ビックマウスに荒らされていないといいのだがな。」
「わかった。じゃあ早速地下室に向かわせて貰うよ。」
「あぁ。これが地下室の鍵だ。ランタン用の蝋燭は部屋の前にあるから使っておくれ。ワシはこの部屋で待っておるから終わったら声をかけてくれ。」
そう言って玄関から入った右の部屋を指す家主。
「わかった。数にもよるがあまり時間はかけないようにする。」
そう言い残して早速地下への階段を降りると、1枚の扉に突き当たった。
ここが地下室か。預かった鍵を使って部屋の鍵を開けると、部屋の前に置かれた蝋燭に火を付けてランタンにセットして、ランタンを左手に持ち、左腰に佩いたロングソードを抜き放ち右手に構えた。
俺は勢い良く扉を開けると、外にビックマウスが逃げ出さないようにすぐに扉を閉めた。
薄暗い室内、よく目を凝らせば目の前には丸々と太ったビックマウスが1匹こちらを見て固まっていた。突然の侵入者に驚いたのだろう。だが次の瞬間、いきなり飛び掛かってきた。
「うぉ!?」
咄嗟にロングソードを振り抜きビックマウスに斬りつける。
「ジュッ!」
短く鳴いたビックマウスは胸元をザックリと裂かれて動かなくなった。あーびっくりした。突然動き出すとは思わなかった。
と、部屋のあちこちから何かが動く物音が聞こえ始めた。
ビックマウスの断末魔を聞いて仲間が集まってきたようだ。
暗闇に光る2つの光はビックマウスの眼球だろう。その数は十数体分にもなる。
と次の瞬間にはその全てが俺に向かって走ってきた。
火炎魔法で広範囲を焼ければ話は早いのだが室内で火炎魔法を使うわけにもいかない。
室内なら疾風魔法だ。
俺はロングソードを床に突き刺して素早く右腰に吊した短杖を手に取る。
「ウィンドアロー!」
短杖を迫り来るビックマウス達に向けて振るうと杖先に魔方陣が発生し、5本の風の矢が放たれる。
「ジュッ!」
「ジュワッ!」
「ジョッ!」
5本のうち3本は見事にビックマウスの額に命中し、その動きを止めた。残り1本は1匹の腹部を突き刺し、もう1本は1匹の足元に突き刺さった。
これで迫り来るビックマウスが半分近くなった。
「ウィンドアロー!ウィンドアロー!!」
その後も迫り来るビックマウスに向けて風の矢を放ち続ける。
5匹、7匹と数が減っていき俺の元に到達したのは3匹のビックマウス。
俺は床に突き刺したロングソードを引き抜き、1番近い1匹に向けて斬りつける。
「ジュッ!」
床に落ちるビックマウス。残り2匹。すると残った2匹は見事な連携を見せて左右から俺に襲いかかってくる。
右手側のビックマウスに斬りつけるも左から来た1匹の爪に左腕を引っ掻かれてしまった。
「ちっ!油断した!」
俺はすぐさま左側から来た1匹に向き直り横殴りにロングソードを振るう。
「ジュウッ!」
すぐさま腰を落として前方に向き直る。後続のビックマウスはいないようだ。
俺は引っ掻かれた左腕に短杖の先を当てて呪文を唱える。
「アンチドート。」
紫色になっていた傷口がもとの肌色に戻った。
傷を受けた姿を依頼主に見せるのもなんだから続けて最低限の回復魔法を唱える。
「ローヒール。」
傷口が盛り上がり傷を塞ぐ。
さて、あとはこのビックマウスよ屍から討伐証明部位を切り取ればいいんどろうけど、耳だったか尻尾だったか。面倒だ。丸っと持ち帰ろう。
総勢16体にもなるビックマウスの屍を普通に持ち帰るのは大変だ。
だが、俺には空間魔術がある。
「ストレージ。」
これは生き物以外ならなんでも亜空間に仕舞える魔法だ。容量は人によるが俺はなんでも100個までなら仕舞いこめる。いずれ賢者になる者としてそのくらい出来ないと不味かろうと必死に特訓した成果だ。
マジックバックなんかに付与された魔法もこのストレージの魔法だ。マジックバックへの魔法の付与は付与師が行っているがいかんせん付与師の数が少なく、ストレージの魔法を付与するには膨大な魔方陣を書き込む必要がある為、マジックバックはかなり高額で取引されている。それを思えば血の滲むような努力をしてでもストレージの魔法を覚えておいて良かったと思う。
俺はストレージに全てのビックマウスの屍を仕舞いこむと、一応地下室全体を回り残りが居ないことを確認すると、地下室を出て鍵を閉めた。
地上階に上り家主の元へと報告に向かう。
「終わったぞ。全部で16匹居たぞ。」
「おぉ!もう終わったのか?早かったな。」
「一応じいさんも一緒に地下室に降りて残りが居ないことを確認して貰えるか?」
「おぉ。わかった。今行こう。」
こうして家主を伴い再び地下室に降りた俺だが、事前に確認した通り残りのビックマウスは見つからなかった。
「うん。もうおらんな。死骸もないのはなんでだ?」
「死骸は討伐証明の為に持ち帰らせて貰うよ。では依頼達成って事でいいか?」
「あぁ。待っとれ。今依頼完了の書類を書くから。」
暫く待つと家主が1枚の紙を渡してきた。
「知っとるかもしれんが、これをギルドのカウンターに出して報酬を受け取ってくれや。依頼料はすでにギルドに払っておるでな。」
「あぁ。わかった。」
こうして初依頼を無事達成した俺はギルドへと報告に戻るのだった。




