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日々の出来事  作者: Gerbera


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8/8

タスクゼロ

 時間の経過がひどく遅い。

 雑談の声が、どこか遠い夢の国の出来事のように曖昧だ。

 がやがやとしたその声や音を、特に聞くでもなく聞いていた。


 もう、何分経っただろう。

 時間を確認すると、17時34分。

 2分経過、だった。


 ため息が漏れるのを止められない。

 ため息のたびに、時間が1分でもいいから進んでくれないかと思った。

 そうすれば、きっともうじき退勤だろう。


 別に、出社は苦ではなかった。

 たとえ片道90分で、原則リモートであるはずであっても、朝の運動と思えばいい。リモートは睡眠時間の面ではありがたいが、決定的に運動量が不足する。


 それを補えるのであれば、いや、さらに言えば、今月で終わるプロジェクトなのだし、残り少ないチームメンバーと会う機会と思えば、どうということはなかった。


 やることがあるなら、という枕詞がつくが。


 タスクは1時間で終わった。

 残り7時間を、ただPC画面のブルーライトに網膜を炙られて、また90分電車とバスに揺られて帰る。

 それだけ。


 gmailの画面をただ眺める。動きはない。

 なぜか。プロジェクトがもう終わるから。当然、連絡ごともほとんどない。

 PCがスリープモードになったら、すぐにキーを押して画面をつける。


 暗くなる。

       つける。

 暗くなる。

       つける。

 暗くなる。

       ……………………つける。


 これを繰り返すうちに、外も暗くなっていく。

 それだけ。


 時間を確認する。

 17時37分。3分経過。

 ため息が、漏れる。

 痛苦という単語が浮かんだ。


 要するに、やることのない時間、こうしてPCに相対している時間がつらかった。

 気分を変えるべく、開いた画面を何度も行ったり来たりする。

 タブの反復横跳びも忘れない。


 ふと、もう作成した資料を確認する。

 エクセルで作られた資料を眺め、フォントが違う場所はないか確認する。

 あってほしかったが、なかった。知っている。もうとっくに確認したのだから。


 エクセルで作られた資料を眺め、罫線が乱れている場所はないか確認する。

 あってほしかったが、なかった。知っている。もうとっくに確認したのだから。


 提出前の、くだらない確認。

 内容に詳しくない人物は、代わりに体裁が整っているかの確認に神経を尖らせる。

 指摘事項を、そこに見出そうとする。実にくだらないことだが、異論など唱えられない。エクセルデザイナーめ。

 そして結局、何も修正点を見つけられずに『×』を押下した。


 無味だ。

 なんの、なんらの味も香りも、まったくもっての皆無。絶無だった。

 時間を確認する。

 17時41分。4分経過。

 ぁぁ。

 つらい。


 もっと改善できる書き方だが、これを変えてはならない。

 変えたら、「なぜ実績あるこれまでの方法と変えたのですか」がはじまり、「これこれこういう理由で、今までよりこの方法がよいと気づきました」とでも言おうものなら、そして下手に説得に成功しようものなら「ではこれまでのもそうするべきだったはずなので、すべて直しておいてください」という結末が待っている。冗談じゃない。

 「言い出しっぺのあなたがやれ」という暗黙の強制が待っている。なら、変えないし言わない。


 こうして愚痴を吐き出しても、誰と共感できるでもない。

 周りからは、私もまじめに業務に励んで見えるのだろうか。

 それとも、みんな実は私と似たようなもので、カチャカチャとした八方からの打鍵音も、こうして各々の愚痴を記しているのだろうか。

 なんだかそれはおかしくて、すこし気分がまぎれた。


 時間を確認する。

 17時46分。5分経過。

 今日の退勤予定時刻は19時。


 先は長い。

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