通勤
電車に乗るまで少し時間がある。
自販機で水分を補給しようとすると、交通系電子マネーが使えるとあるので、そのようにした。
……反応しない。
渋々財布から、適当な千円札をつまみあげ、自販機の口に突っ込んだ。
……吐き出される。
すこしあった時間的余裕が失われる。
もう一度、今度は丁寧に千円札を入れた。
……吐き出される。
見れば、適当に選んだ千円札は、旧千円札の下位互換たる新千円札だった。
……苛立つ。
また財布を開き、4回新千円札をめくった先に、ようやく旧千円札が見つかった。
対応を未だしていない何者かの怠惰を恨みつつ、今度こそと旧千円札を突っ込んだ。
……快音をたて、商品ボタンがアクティブになる。
いつからか180円になったアクエリアスを選び、小銭を待つ。
……計10回の落下音を、時間を気にしつつジリジリと過ごす。
500円硬貨の期待を裏切られたことに落胆しながら、じゃらじゃらとした10枚の硬貨を財布に放り、折り畳もうとした。
……閉まらない。
肥え太った財布をそのまま尻ポケットに押し込み、ため息と共にアクエリアスを回収する。
それをひと口飲んで、スマホの画面を確認すると、もう走らなければ間に合わないことを諦観と共に認めた。
人目も憚らず走り、ギリギリに駆け込む。
結局摂取した以上の水分を失った。
いつもの通勤の朝。
余裕を持つことを望みながら、過程のどこかでそれを失い、常に焦燥と疲れに付き纏われる。
そんな人生。




