乾いた日々は瑞々しく色付いて
青い空、深い青。
空気にすら、草の青々しさが漂っている。
鼻腔に夏を吸い込む。
田んぼの畦道から見上げた打ち上げ花火を思い出す。少し鼓動が早まるのを感じた。
その気持ちにせかされるように、何とはなしに散歩なんてしてみる。近くに大きな公園があるのは、こういうときに恵まれている。
そこは小さな頃からよく遊んだ公園だった。
並木道を、濃い木陰を辿るようにのんびりと。
ふと、子供の頃を思い出した。
私は木に触れるのが好きな子供だった。
登りたいということではなく、ただ少しだけひんやりとした感じがするのが楽しくて、面白かっただけ。大人になってからは、当然そんな機会はなかった。
それを当然と思いながら、何故なのかは分からない。
楽しかったこと。面白かったことを、なぜか当然にしなくなっていた。
大人になる過程で、こうした"当然"はたくさんあった。そうしてたくさんの物事を、その経験を失ってきた気がする。
ふと、足元に動く気配を見た。
アリだ。なんの変哲もない、白でも赤でもない、黒いアリ。
そういえば、アリを意味もなく手に這わせるのも好きだったっけ。
潰さないように、そっと。
気づけば無意識に、あの頃と同じようにしていた。
…………くすぐったい。
つい笑みが溢れる。
くすぐったかったのもある。大の大人が、こんな道でしゃがみ込んで虫と遊んでいる、なんて状況も確かにある。
けれどそれ以上に、楽しくて、嬉しかった。
そう、楽しかったのだ。
とっくに興味をなくしていた、かつての遊び。心動かされることはないと、当然にみなしていた色褪せた経験。
それが、かつてと変わらない瑞々しさを宿していたと気付いたときの感動と喜び。
私の口角を上向かせたのは、つまりはそんなものだった。
優しく手を払い、純粋な期待を込めて木の樹皮を見つめる。
失ってなんていなかった。楽しいことも、面白いことも、何ひとつ失われていなかった。
それらは変わらずあの頃のままだった。この分なら、これまで"当然に"失ったつもりでいたあれもこれも、変わらない姿で、あの頃の形でそこにあるんだろう。
そんな予想が嬉しかった。
手を伸ばす。指が触れる。ザラついた感触。
触れた木はひんやりしていて、やっぱり気持ちよかった。




