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星の慟哭

作者: 星賀勇一郎





 前に来た時はまだ赤く、冷える前の星で、とても立ち寄れるものではなく、一目見てスルーしたのだが、あれから半年程、この星の時間で言うと数十億年と言ったところだろうか。

 とても澄んだ大気で水のある綺麗な星になっていた。


「どうする立ち寄ってみるか」


 私は横に座るガズルに訊いてみた。


「そうだな。その価値はありそうだ。しかしここまで綺麗な星になるとは、移住地としてはかなり良さそうだな……」


 ガズルはこの宇宙船のキャプテンで、この船での一切の判断を任されている人物でもあった。


 私たちの住む星は大気汚染と人口の増加により、百年くらいの間に移住できる星を探す必要があった。

 大気汚染で北極と南極の氷は溶け、星全体の水位は海岸沿いの大都市を水没させるほどになっている。

 そのために高地へと人は移住し、更に人工的に作った、地上百メートル程の空中都市も出来ていた。

 エネルギーも火力発電などからクリーンエネルギーへの移行を行ったが時既に遅しといった感じで、気温の上昇を抑える事が出来なかった。


 幸い、科学の進歩はめまぐるしく、光の速度を超えて移動できる宇宙船が開発されてもう、百年ほどになる。

 その最新式の宇宙船がこの船で、連邦政府の依頼を受け、我々民間の宇宙船が移住できる星を探している。


「水が補給出来れば嬉しいがな……」


 ガズルはニコリと笑い、目の前の青い星を見つめた。


「データ出せるか」


「ああ、少し待ってくれ……」


 私は操縦席のキーボードを叩く。

 そして目の前の星のデータを大きなスクリーンに出した。


「直径は赤道付近で約一万三千キロメートル、自転の速度は八万六千秒。ほぼ我々の星と同じだ。奇跡だな……」


 ガズルは腕を組んでそのデータを見ていた。


「このサイズでないと生命体が住める星は出来ないのかもしれないな……」


 私は続けてデータを読み上げる。


「大気は窒素が七十八パーセント、酸素が二十パーセント、アルゴンが一パーセント、二酸化炭素が百分の一パーセント、水蒸気が一パーセントから八パーセントって言ったところだな……」


「そのあたりも我々の星と同じだな……」


 ガズルはじっとデータを見ている。


「よし、上陸してみよう。水辺に近い場所が良い。プランを算出してくれ。いいか、外来種を持ち込まない様に気を付けてくれよ。それだけで生態系が狂う事もあるからな……」


 私は他のデータを見ながら、返事をした。


「はいはい……。その辺は十分に気を付けていますよ……」


 ガズルは私の椅子の背もたれに手を突いて身を乗り出す。


「気温はどのくらいだ……」


 私はキーボードを叩き、データを出した。


「赤道付近で約五十度、北極と南極付近でマイナス六十度って感じだね……」


 ガズルは苦虫を噛み潰したような表情をして、青い星の映像を見た。


「出来れば快適な気温の場所に上陸させてくれ……」


 私は微笑んで、キーボードを叩き、快適な場所を探した。


 この宇宙船は完璧な温度調整で、常に十八度くらいの気温を保っている。


 この星も我々の星同様に一つの恒星を中心に連なる星を有する。

 その星のひとつがこの青い星をいう訳だ。

 今まで見てきた生命体がいる星たちはすべてこの形で例外は無い。

 恒星の与える微妙なバランスが、生命体の住む星を作り上げるのだろう。

 そしてその星の一生と言うモノも短い。

 もちろん星自体は数十億年の寿命を持つのだが、その歴史の中で生命体がその星に住める期間は数億年と限られている。


 ガズルがサンドイッチを咥えて戻って来た。


「何だよ、自分だけ腹ごしらえか」


 私はガズルに嫌味を言うと、立ち上がった。


「この辺りならば、この船の気温と変わらない。この辺りでどうだ……」


 私は地図を指差しながら上陸する場所を指差した。


「ああ、問題ない……」


 ガズルは私が座っていた席に座った。


「上陸地点の座標は設定してある。あとは自動操縦でやってくれるさ……」


 私は首のホックを外して、微笑んだ。


「俺も飯食ってシャワー浴びてくるよ」


 そう言ってコックピットを出た。


 食堂に入ると、もう一人の仲間のウォンドが独特のスプーンの持ち方でスープを飲んでいた。


「やあ、レドリー。君の分もスープ温めといたよ」


 ウォンドはそう言ってレンジを指差した。


「ああ、ありがとう。船に乗ると時間の感覚が狂って、腹が減る感覚がないってのは困るな……」


 私はウォンドの向かいに座りレンジからスープを取り出し、テーブルの上のサンドイッチに手を伸ばした。


「上陸だって……」


「ああ、久しぶりに大地が踏める。このフワフワした感覚から抜け出せるだけで嬉しいな」


 私は合成食料で出来たスープに手を付けた。


「俺は早く星に帰って、この合成食からおさらばしたいよ」


 ウォンドはスープを飲み干して言う。


「同感だ……」


 私はウォンドに微笑んだ。


 合成食料とは宇宙を旅するためには絶対に必要なモノで、単純に言うと排泄物に液体化された微生物を混合し、酸素、窒素、電気を使ってそれを分解し、そこからタンパク質や炭水化物、脂質、核酸などを作り出したもので、それを食料として再合成したモノを言う。

 そんなモノが美味いはずがない。飲料水も同じで排泄物を精製し今一度飲料水として再合成するため、少しニオイが残る。

 そのために純粋な水として飲む事は少ない。

 味のある飲料水を主として飲む事になる。


「じゃあ、俺もシャワーを浴びて上陸に備えるかな……」


 ウォンドはそう言って立ち上がった。


「あ、そうだ。エミュの補充頼むよ。それだけはやっておかないと俺たちは本当にクソを食らう事になるぞ……」


 私の言葉にウォンドは手を挙げて答えた。


「わかってますよ。我々がこうやって宇宙船で生きていけるのもエミュのおかげですからね……エミュ様、様だ」


 ウォンドは後ろ手に手を挙げて食堂を出て行った。


 エミュとは液体化された微生物で、我々の排泄物を分解するのに欠かせないモノだった。


 出来れば早く、この宇宙船生活から抜け出し、星に戻って肉や魚を食べたいと常に考えてしまう。

 食に興味の無い私でさえそう思うのだから、グルメと言われる者たちには、耐えられない空間だろうと思う。






 食事を済ませてシャワーを浴びる。

 これは星に降りる際に必ずする事で、外来生物を星に持ち込まないためのルールだった。

 花や草木の種、胞子、もちろん微生物も同様で、その星の進化系に大きく影響してしまう事があるからだ。

 軽い気持ちで持ち込んだ生物によってその星自体が滅亡してしまう事もある。

 我々は星にある生命体への干渉は一切許されない。

 サンプルとして持ち帰る事はあるが、その星に一切の外来種を持ち込む事は許されないのだった。


 シャワーを浴びると、そのまま紫外線の光を浴び、滅菌する。

 そして新しい服を着て、底が滅菌された靴が用意される。

 その後また、外に出るときに紫外線とエアシャワーで一切のモノを排除する。


 私は服を着るとコックピットに戻った。


 ガズルが操縦桿を握り、星の大気圏に突入するところだった。


「座ってくれよ……。少し揺れる」


 ガズルは眉に力を入れながら私に言った。

 私は普段はガズルが座っている席に座りベルトをしめた。

 少し揺れたが、その揺れはすぐに収まり、雲の切れ間から何もない黄土色の大地と青い海が見えてきた。


「ほお……。これは美しい……」


 私は思わず声を上げた。


 我々の星も昔はこんな美しさを持っていたのだろう……。


 正面の大きなスクリーンに正確な大気の情報などが表示された。

 先程、上空から調べたのと同じように何も問題は無く、呼吸も出来そうだった。


「レドリー。水と土壌のサンプルを取る。その準備を頼む」


 ガズルはそう言うと席を立った。


 宇宙船はゆっくりと垂直着陸をしてその乾いた大地に機体を下ろした。


 私はガズルに返事をして正面のスクリーンを見た。

 やはりまだ生命体が生まれる前の大地だった。

 火山が幾つもあり、その火山性の地震が頻繁に起こっている様子だった。


 私も席を立つと、サンプルを取る準備をして外に出るためのエアシャワーと紫外線を浴びた。


 少し風が強かったが、その風さえも久々に浴びる自然の風だった。


 一足先に外に出ていたガズルとウォンドは黙って海を見ていて、私も急いで二人の立つ場所へと向かった。


「綺麗な海だな……」


 ガズルが小声で言う。


「ああ……」


 ウォンドは大きく息を吸いながら答えた。


 今までも綺麗な海だと思い上陸した星はいくつもあった。

 しかし、その海は濃硫酸の海だったり、砒素が溶け込み、生物の住めない海だったりした事もあった。


 私はその海の水を少しすくい、すぐに分析器に掛けた。

 ナトリウムの濃度は少し濃いが、年月を経て、そのナトリウム濃度でも生きていける生物は生まれてくる筈だった。


「この星なら大丈夫だ……」


 私はガズルに言った。ガズルも大きく頷いた。


 私たちはその場所で今日は休む事にした。

 宇宙船の窓からはその星の大きな衛星が見えた。

 丸い月。

 そう、私たちの星の衛星、月と同じだった。

 青白く光るその月は私たちと広い海を照らした。


 生命感の無いその青い海は時折吹く風に水面を揺らして、水面に映る丸い月を変形させる。


 なんて綺麗な星なんだ……。


 私は窓から見える光景にそう思った。

 我々の星もかつてはこんな感じだったのだろう。

 それを文化と科学の発展と共に自然を壊して、人類の住みやすさを追求するあまりに、星の寿命さえも縮めてしまった。

 なんて愚かなのだろう。


 工場から排出される二酸化炭素はその成層圏に穴を開け、星の気温さえも上げてしまい、四季と言われた四つの季節を暑い夏と、寒い冬だけにしてしまった。

 それを人類が反省して同じ過ちを繰り返さないと言えるのだろうか。

 もし、我々がこの星に移住して、この星も我々の星と同じようにしてしまうのではないだろうか。


 星は生きている。

 その生きている星に寄生して我々も生きている。

 星の寿命を縮めるという事は我々の寿命を縮める事と同じ事だ。


 星には星の運命がある。

 その運命を我々の愚かな文化や科学で変えてしまっていいのだろうか……。


 私はこの任務に就いてからずっと、その事を考えてきた。


 星の生態系を変え、環境を変えた我々はその代償を背負う必要がある。

 それは星を捨てて新たな星で生きる事ではない。

 同じ過ちを繰り返す愚かな人類は滅ぶべきなのかもしれない……。

 少なくともこの星を我々の星と同じ道を歩ませるなど、我々が勝手に決めて良い事ではない……。


 この星の行く末は、この星に任せてみようじゃないか……。


 私は大きな月を見て微笑んだ。






 翌日、同じように私たちは調査のために宇宙船を出た。

 今日は宇宙船を中心に三方向に分かれて、水と土壌のサンプルを採る事になり、私たちはそれぞれに分かれて歩き出した。


 ガズルは北へ、ウォンドは東へ、私は西へと歩いた。

 宇宙船から数キロ離れた場所で、私は海の水とその周囲の土を採取して小さな試験管に入れた。


 我々に適した水なのか、土壌なのか……。

 そんなエゴなサンプルを善悪の判断も無く、集めている。

 そんな事を我々は本当にしていいのだろうか……。


 ずっと、そんな疑問が私について回る。


 そう、答えは出ている……。

 この星の運命はこの星に任せる……。


 私はポケットに入れた小さな試験管に入った「エミュ」を取り出して蓋を開けた。

 そしてその中身を海に捨てた。

 その小さな試験管に入った何十億という微生物が今、この星の海に放たれたのだ。

 微生物たちはこの海で進化して、この星に合った生命体に、長い年月をかけて進化していく。

 その進化した生命体と我々人類が共存共栄できるのであれば、この星に移住も出来るだろう。

 しかし、もし、この星で進化した生命体が我々をエイリアンとして捉え、抗うのであれば我々は滅ぶ道を選択するしかないのである。


 私は何も変わらない海を見ながら微笑んだ。

 そしてサンプルを入れたケースを肩から背負い、宇宙船を目指して歩き始めた。

 私が歩いた後に、私の靴の跡だけが点々と残っていた。






 それから私たちは星に戻り、調査した星の報告を連邦政府に上げた。

 早速、政府は大規模な調査団を組み、その星へ向かう事となった。

 

 ガズルは健康上の理由でその調査団には参加せず、私がその調査団を率いて、あの星へ向かう事になった。

 そして副官にウォンドが決まった。

 星では盛大にその事を祝い、各地でパレードが行われた。


 宇宙を旅するのはある意味、時間旅行の様なモノで、我々があの星を調査してから既に何十億年と言われる時間が経過している。

 あの星がどんな進化を遂げて、我々を迎えてくれるのか。

 それが私には楽しみでも恐怖でもあった。


「レドリー艦長……」


 調査団の一員で政府から赴任してきた男が私の部屋の外で私を呼んだ。


「入ってください……」


 私はそう答えるとドアを開けた。


 男は一礼して私の部屋に入ってきた。


 私はゆっくりと椅子に座り、窓の外に見える星の海を見つめた。

 そして微笑むとその男に座る様に促した。


 目の前に置かれたワイングラスに真っ赤なワインを注いで、男に勧めた。


「どうしましたか……」


 老いた私は何十年ぶりかに見るあの星を思いながら、また星の海を見る。


「はい……」


 男は緊張からか口が渇き話し辛そうで、目の前のワインを飲み、口を湿らせる。


「あの……」


 私は自分もワイングラスを取るとそれを飲んだ。


「我々は本当に、その星に移住しても良いのでしょうか……」


 男は静かに言うと、残ったワインを一気に飲んだ。


 私はゆっくりと男の表情を見た。


「我々のエゴで、一つの星の運命を変えてしまっていいのでしょうか……。その星にはその星の運命と言うモノがあり、それを土足で踏み躙るような事をしても良いのでしょうか」


 それは私があの星に辿り着いた時に考えた事と同じ事だった。


「我々は我々の星に生まれ、育ちました。それならば星と一緒に運命を共にする事、それこそが我々の運命なのではないでしょうか……」


 私は苦笑して、男の空になったグラスにワインを注いだ。

 そしてゆっくりと立ち上がり、窓の外を眺めた。


「もし……。もし、今から向かう星で文明が栄え、その文明が我々をエイリアンとして認識し、抗うのであれば、我々は我々の星と共に滅ぶしかないでしょう。しかし、その文明が我々よりも高度な文明となり、我々を迎えてくれるのであれば、共存共栄できる可能性もあります……」


 私は振り返ってテーブルに置いたワインを飲んだ。


「どうでしょうか……。それにかけてみませんか……」


 私は男に微笑んだ。







「間もなく木星付近を通過します……」


 私はその艦内アナウンスに外を見た。

 大きなガスの塊であると言われる木星が見えた。


 いつ見ても、この木星には生命感が無いな……。

 あの美しい星とは大違いだ……。


「まだ木星だな……」


 そう言いながらウォンドが入ってきた。


「ウォンドか……。どうだ艦内の様子は……」


「ああ、平和なモンだ。誰もが綺麗な星に移住できると信じて疑わない……」


 ウォンドは椅子に座った。


「お前もか……」


 私はウォンドの向かいに座った。


「いや……。俺はそんなにウキウキ気分でもない。あの星にはあの星の……」


 ウォンドのその言葉を遮るかの様に私は声を上げて笑った。


「何がおかしいんだよ……」


 ウォンドはテーブルの上にあったワインを開けてグラスに注いだ。


「同じ事を言ってたやつがいたんでな……。ついおかしくて……」


 ウォンドは私の前に置かれたグラスにもワインを注いだ。


「じゃあ、そいつに乾杯しよう……」


 ウォンドはグラスを持ち上げて笑った。






 夢を見た。

 それは途轍もなく長い年月を遡った夢だった。

 微生物が徐々に進化して、魚の様に変化を遂げる。

 そしてその魚はいずれ足を持ち、呼吸が出来る様になり陸に上がって行く。

 その一派は羽を持ち自由に空を飛び、その一派は鱗を皮膚に変えていき、地上を歩き回る。

 それはやがて大きな生き物となり、そしてやがて来る氷河期を迎えて死んでいく。

 その氷河期に耐え生き残ったモノたちはまた進化していく。

 四本足で歩く生き物が二足歩行するようになり、使わなくなった前足で道具を使う様になる。

 火を使えるようになり、狩りをして、そして作物を作り蓄える様になる。

 服を着て、文字を使い、定住するようになると、文明はどんどん栄えて行く。

 蒸気で動く機械を使う様になると、その文明は一気に加速していく。

 愚かな人類同士の戦争などを繰り返し、各国が競うように武器を持つようになる。

 そして宇宙へとその範囲を広げて行く。


 私はそこで目を覚ました。


 どの星も同じような歴史を繰り返す。


 私は目を閉じて、自分の星の歴史を振り返った。

 夢と同じように人類は愚かな歴史を積み上げて行く事しかできない生き物なのだ。


 文明の発達のために、住んでいる星をも犠牲にして、限りある資源は次の世代に残そうとも考えない。

 星を食い散らかし、食うところが無くなるとまた、次の食える星を探す。

 それでは古い人類と同じ事をしているに過ぎない。


 食い散らかされた星は、貝塚の様に遺跡化してしまうだけだ……。


 私は苦笑し、上着を羽織ると部屋を出て、滅多に立たない艦橋へと向かった。


 そろそろ見えてくる筈だ……。






 正面の大きなモニターにはあの青い星が映し出されていた。


「レドリー艦長……。今、呼ぼうと思っていたところだった」


 艦長席に座るウォンドが立ち上がった。

 私はそのウォンドと交代で艦長席に座り、モニターをじっと見つめた。

 そこにはあの青い星の周囲を数百の人工衛星が回っているのが見えた。

 

 ほう……。

 大した文明を持ったじゃないか……。


 私はゆっくりと背もたれに背中をつけた。


「星を拡大できるか……」


 私はじっと目を凝らして拡大表示されていく星を見た。

 その星にはビルが建ち並び、巨大な歴史のある建造物が見えた。


 私は目を閉じた。

 そしてその星の数千年に及ぶ歴史を見ようとした。

 さっき見た夢の様に……。


 大陸に長くそびえる壁の様な建築物。

 広大な平野に描かれた大きな地上絵。

 文明の持つ力を駆使して作られた三角錐の建造物。

 地上数百メートルはあろう近代的な高いタワー。


 どれも我々の星にもあるような文明の印だった。


 そして立ち並ぶ煙突から吹き出す煙。

 同じように星をどんどん汚染している。

 それも同じ道を歩んでいる。


 我々の星のエミュのDNAはそこまで記憶を持っているのか……。


 私はじっとその星を見つめていた。


「艦長……。大変です。人工衛星の一つがこちらに向きを変えました」


 モニターにアップになった人工衛星は形を変え砲台をこちらに向けているようだった。

 そして音も無く、数発のミサイルを放ってきた。

 しかしそのミサイルは当たる事も無く、後方へと飛んで行った。


「威嚇射撃だろう……」


「迎撃しますか」


 ウォンドがモニターと私の顔を交互に見て言う。


「いや……。我々は彼らから見るとエイリアンに過ぎん。残念だが、退却しよう」


 そう言って私は立ち上がった。


「ウォンド。後は頼む……」


 私はそう言って部屋へと戻った。






 私は部屋の椅子に座り遠ざかって行く青い星を見つめていた。


 私の捨てたエミュがここまでの文明を作ったのだ。

 それは素晴らしい事でもある。


「太陽系の第三惑星……。我々の星と同じ道を辿るのだろう。今はまだ美しい星だ……。出来れば同じ道を歩んで欲しくないモノだ……」


 私は目を閉じた。

 その美しい星、地球の姿を目に焼き付ける様に……。








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