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第59話

 アイラさんとビルを出て、ビルの横にあるちょっとした路地裏に入る。


「ごめんね〜呼び出しちゃって」

「…いえ」


 ウェーブのかかった髪をくるくるとしながら、私に微笑みかけるアイラさん。赤い唇が妖しくて少し怖さを感じる。


「あのね、綾城ちゃん。あなたもなんとなく察していることかもしれないんだけどね、言っておきたいことがあって…」


 アイラさんはもじもじとした様子で頬を赤らめて、何かを言うのをためらっている。


 正直、この間でさえ時間の無駄だし、早く終わらせてひなとLIMEの続きをしたいと苛立ってくる。


「あのね……私、紫苑ちゃんのことが好きなの!」


「は?」






 改めて話を聞いてみるとアイラさんは初めてnyanbowでモデルを努めた日から紫苑の魅力にあてられたらしい。以降、紫苑のことを恋愛対象として意識している。

 でも、ずっとこのままは嫌なので恋人になるべく、協力してくれないか。といった内容だった。


 一瞬、なにかの冗談かと思ったが、表情が明らかに恋する乙女の表情だ。


 この内容を純恋さんが知ったら大激怒してアイラさんを二度と雇わなくなるんだろうな。


「そ、それでね…紫苑ちゃんって9月が誕生日よね。だからなにか好きなものとか聞いてほしいなぁって」


「聞くって……アイラさんのほうが付き合い長いじゃないですか」


「うっ…で、でも紫苑ちゃんってあんまり自分のこと話してくれないし…」


 確かに思い返してみると紫苑はあまり自分の好きなものについて話さない。紫苑は聞き上手だからなぁ…。


「うーん……まぁ、わかりました。聞いてみます」


「ほんと?!ありがとう。お礼はちゃんと用意するからね」


 アイラさんはテンションも上がったようでルンルンな様子で私とLIMEのIDを交換してビルに戻っていった。

 一緒に変えるのはなんだか嫌だったので私は一人、路地裏に残った。


 スマホに目を向けるとひなから可愛らしいスタンプで『OK!』という返事が来ていた。

 それに続いて『楽しみにしててね』というメッセージが来ていた。


 ひなのそんなお茶目な可愛さに胸を打たれつつ、アイラさんと紫苑のことが頭をよぎる。


 アイラさんに協力する筋合いは毛頭ないが、紫苑があんな人につきまとわれるのは少し可哀想だ。


 紫苑からアイラさんに対する感情を探りつつ、どうするべきかは考えていこう。

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