第92話
文化祭の準備も進み、よあやくブース全体の構図が決まった。
他の班は段ボールと新聞紙で造形しようとしていたり、テーマに沿った絵をたくさん描いてコラージュにしたりしようとしているようだ。
このクラスは女子も多いし、結構気合いが入っているみたいだ。
もしこれが美術系の学校や工業科なら素晴らしいクオリティになっていたかもしれないが、私たちは普通科である。
もちろん最善を尽くそうとは思うが、限界はあるということを忘れてはいけない。
私達の班はイラストを印刷してダンボールに貼り付け、それらを切り抜き、大きな獅子とヘラクレスの戦闘を表現するというブースにした。
イラストは二人に任せるとして、私達は装飾。
獅子座の獅子が住んでいるという森の雰囲気を表現するのだが、この怪しげな森の雰囲気というのがまた難しい。
各星座のブースにも限りはあり、大体机2〜4個分。まぁまぁのスペースがある。
紫苑とこれまでに決めた内容では、枯れ木を作るというのと獅子が持つお宝たちや、獅子が作り上げてきた死体の山を作ってみてはどうかと話し合っている。
そんなこんなでようやく材料の目安もついてきたところだ。
そんな進捗状況をひなに報告しながら電車を待つ。
ひなの方も描く絵のラフスケッチが終わったようで、その写真を見せてくれた。相変わらずひなは絵が上手いようだ。
ちなみにひなの絵の右下にいるトゲトゲのバケモノみたいなものは鈴木さんが描いた『人喰いの恐ろしい獅子』らしい。
リーダーという役職を誇りに思っているのか、スマホのメモ帳で現在の版の進行状況をまとめている。
ひなは手が小さいので両の手でスマホを持ち、ぽちぽちとゆっくりタイピングしている様子が可愛らしい。
すると丁度そこにメッセージが飛んでくる。
ひなは素早く通知のバナーを消し、再びメモを打ち始めた。だが、私にはどうしてもそのメッセージが気になる。
なぜならば、そのメッセージを送ってきた人の名前が男の名前だったからだ。
見間違えでなければ『正樹くん』という名前が書いてあった。
メッセージの内容までは目が追いつかなかったが、きっと親しい人なのだと考えられる。
LIMEは相手の表示名を自分で変えることができる。『正樹』という男が最初から『正樹くん』とつけていないければこの表示にはならないはずだ。
それにひなは学校では男子と離しているところを殆ど見たことがない。
図書委員の男子には目をつけているが、そんな名前のやついなかったし、クラスにもそんなやついなかった気がする。
もしその『正樹』がひなのことを好きだったら……?好きで近づいていたら………