第87話
ひなが取っていてくれた映画はとてもおもしろかった。
あまり映画は見ないのだが、スパイ者はハラハラ感があって普段映画を見ない私もよく楽しめた。
それにまさか主役のコンビが同性カップルで、見る前はなぜこの映画を選んだのかと思っていたが、ひながこれを選んだのはこのカップルが主役だからだろう。
その証拠に洋画にありがちな濡れ場シーンやキスシーンではこちらをチラチラ見ているのが丸わかりだった。
試しに手を握ってみるとその手はとても暑かったし微かに震えていて、そのシーンを見て緊張しているのだというのがよく伝わってきた。
映画館を出た後も繋いだ手を力強く握っていて、可愛らしかった。
「ま、まだ6時だけどどうしよっか?」
ひなは頬を赤らめて震える声でそういった。
「ん、お腹すいた?空いてるならもう晩御飯でもいいし、空いてないならショッピングでもする?」
私は緊張状態のひなをほぐすように頭を撫でながらゆったりとした口調でそう聞いた。
「わ、私は空いてないかな」
「うん、私も今はまだ。じゃあショッピングにでも行こっか。どうせならおそろいのイヤリングでも買わない?」
私は合流時、ひなにイヤリングを外すように言われたことを思い出し、ならばひなに似合うイヤリングを見繕ってもらおう。
「う、うん!」
ひなも乗り気のようで先程の緊張もほぐれたようだ。
「そういえばひな、さっきキスシーンで私の唇、見てたでしょ」
私は安心しきっているひなを逃さないようにひなの腕を引いて壁際に追い込む。そして自身の唇をなぞってひなの視線を誘導する。
「あ、うっ…そ、それはぁ…」
ひなは先程よりもさらに顔を真っ赤にさせてどうにか言い訳をしようと口を開いては閉じを繰り返している。
「キスしたいならそういえば良いんだよ?私も同じ気持ちだから」
「お、同じ…気持ち」
ひなは私の唇を見つめたままゴクリと喉を鳴らした。
「ふふ、ひなったらムッツリだね。まだお預け♡」
私は自分の指にチュッと音を立てて口をつけるとその指をひなの唇に塞ぐように押し付けた。
「あ、あやちゃ〜ん!」
ひなは瞳を潤わせて私をポカポカと軽く叩いてくる。全く痛くないというのが可愛らしい。
「もうっ……ずるいんだから」
……ずるいのはひなのほうだと思うんだけどな。