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第99話 降伏と杯



そして、辺境伯のあまりの進撃速度に驚いたのは、まだ様子見の中立派の貴族たちだった。


 そんなに素早く進撃できるはずなどない。


 そう侮っていた彼らは、保守派と人類至上派がぶつかり合っていい感じに消耗した時に戦力を高く売りつけるなり、横から殴りつけるなり自分たちに有利になるように動こうとしていたのである。


 だが、それも叶わず喉元まで刃を突きつけられた状況にやる事は一つ。


 


「こ、降伏だ!降伏の使者を出せ!!今なら悪いようにはされないはずだ!!」


 


 そう、それは辺境伯ルーシアへの降伏である。元々中立派の大半はこの国の貴族たちである。それに加えてこの戦力を求めている状況で根切りするほどの余裕はない、と踏んでいるのだろう。


 


「……全く厄介な。もっと早くにするなり遅くにするなりすれば面倒はなかったのに。」


 


 とはいえ、ここで領主の首を切って……。というわけにはいかない。勢力を根切りをするなどもっての外である。


 ここで領主の首を切ってしまっては兵士たちは混乱状態になって再編するのに時間がかかる。まして、根切りをするなどそんな無駄なことはやっている余裕も時間もない。ただでさえ戦力の少ない保守派は彼らの戦力をそのまま吸収するしかなかった。


 普通の貴族ならば、こんな舐められた事をされればそれ相応の報いを受けさせるのが普通だが、状況がそれを許してくれないのだ。


 


「仕方ない。とりあえず最前線に配置して戦力温存用の盾にするか。それと食料物資の徴発は行わせてもらおう。」


 


 そんな風に次々と降伏していく辺境伯ルーシアを余所に、その後ろを歩いているエルや使役竜たちは見知らぬ住民から畏怖の目で見られていた。


 それはそうだろう。巨大な竜や使役竜たちを目の前にして平然としていられる市民や農民たちなど存在するはずはない。


 


『うーむ。さすがに仕方ないとは恐怖の目で見られるのは堪えるなぁ……。変な事すれば石とか投げられたり排斥されたりしかねないからなぁ。どうしよ。』


 


 人間というのは強い自己防衛本能を持っている。これは同じ人間でも見知らぬ自分たちに危害を与える可能性がある人間にも発揮される。


ましてや人外の怪物、竜が大量に存在するならなおさらだ。そこに加えて食料の徴発などはさらに敵意を買うのでは?とエルは思っているが、政治的なことに対しては彼は関与できない。はてどうしたものか、と考えていると、彼の脳天に、こん、と上空から青銅の杯が落ちてきた。そして、一緒の紙に書いてある説明書を読んで、エルはマジか?という顔をする。


 


『あいて。ん?師匠から?なにこれ?竜の魔力を食料に変換する杯?マジで?そんな魔法みたいな物が……うわっ!マジで小麦が出てきた!!なにこれしゅごい。ありがとうマミィに師匠!!』


 


ともあれ、食料を大量に生み出す杯なんてものを勝手に使ったら政治的問題になる。


まずは真っ先に辺境伯に相談に行かないと、とエルは考えた。


 


 

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