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第98話 シュオールの杯

 その頃、エルの母親、シュオールは転移魔術で大迷宮内部のとある場所に籠っていた。そこは特殊な大規模結界が構築できるように地脈の流れなどを誘導して作り上げられた特殊な巨大な部屋……人間体ではなく、竜体で籠れるほどの巨大さである。

 ここ最近……というか百日余りシュオールは大迷宮奥深くのこの部屋に籠って独自の活動を行っていた。


「はー、疲れたのぅ。やれやれじゃ。」


 その内部に離れた大規模結界を解除して、ごきごきと肩を鳴らしながらシュオールは部屋から出てきた。

 彼女の手の中には、青銅で作られた”杯”が存在していた。

 その杯には膨大な地の魔力が込められており、ただのマジックアイテムではないことは見て取れる。


「ふむ、どうやら完成したようですね。無限の食糧を生み出す”シュオールの杯”が。」


 つまり、部屋内部に大規模結界を構築して、完全に外界から遮断して一つの異空間を作り出す。そしてその異空間内部の時間流を極端に加速。

 外界では一日のところを、内界では一年近くになるまで加速し、外では百日程度だが、内界では百年ほどになるまで加速させて、それを利用してシュオールの力を込めた”杯”を作り上げたのだった。

 これはケルト神話で存在する聖杯の源流「ダグダの大釜」のオミット版と言ってもいい。

 ダグダの大釜は無限にダグダの好みである粥を生み出し、ダグダ自身だけでなく他の人たちをも満足させた無限の食糧庫であり、死人すら復活させたというまさしく神器といっても過言ではない。

 大地を司り、豊穣神としての側面を強く持つシュオールも同様に時間さえあれば無限の食糧を生み出す大釜……”杯”を作り出すことができる。

 もっとも、たった百年では死人を復活させるほどの力を籠めることはできない。言うなれば、これは”竜の魔力を食料に変換する変換器”と言った方が分かりやすい。


「外界から遮断しての時間流の調整もクッソ面倒臭いし、加速した時間流を元に戻すのも面倒臭いし、杯を作るのも面倒臭い。はー。世の中面倒臭い事ばかりじゃなぁ。可愛い息子のためじゃなかったらこんな面倒臭い事せんぞワシ。」


 そう言いながら、シュオールはティフォーネにぽーんと手にした杯を手渡す。

 口ではそう言っているが、逆に言えば彼女にとっては「面倒臭い」程度の事で「不可能」ではないのだ。

 その気になれば、この杯をいくつも作り出して、この世界……少なくとも今の人類たちの飢餓を無くす事も不可能ではないだろう。

 だが、彼女からしてみたら、たかが人間ごときのために何でそんなことしなければならないのだ?というのが本音である。

 大地を司る彼女は、大地の豊穣の特性も持っており比較的温厚ではあるが、別段人間に対して好意を持っているというわけではない。

 自然の具現化ともいえる彼女たちにとっては別段人間たちが大量に亡くなったところでそれが何?程度の感覚でしかない。シュオールの息子であるエルがいなければ、人間ごときの争いなど高みの見物を決め込んでいただろう。


「時間がなかったんで、無限と言っても一日に数万人?程度しか食わせる程度の食糧しか生み出せないが、ヒトカスどもの争い程度なら十分じゃろう。」


「現地から食料を強奪するところか、現地民に食料を分け与えながら進軍する軍など、敵からしたら訳わからない存在ですよねぇ。まあ、私たち規格外の存在が肩入れするのですから、この程度は当然でしょう?」


 ふふん、と胸を張るティフォーネ。確かにその通りだが、敵から理不尽そのものだろう。ともあれ、適当なタイミングでエルに渡しておいてくれ、というシュオールの言葉に、ティフォーネは頷いた。

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