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第85話 ティフォーネと辺境伯ルーシア

「では……貴女はこちらに手を貸してくれるということでよろしいのか?」




辺境伯の城の自らの部屋内部。そこで白を基調にしたドレスにも似た服を身にまとっているティフォーネとルーシアは話し合っていた。


この同盟軍のトップともいえる辺境伯ルーシアには話しておいたほうがいいだろうという事で、エルはルーシアにティフォーネのことを伝えてある。


辺境伯からしてみても、いきなりティフォーネの怒りを買い領地が壊滅することを恐れて、きちんと話し合うべくこうして招いたのである。




「貴女たち、というか私が手を貸すのはあの子のためですね。


 私にとっては貴方たち人間も亜人もどうでもいいことです。あくまでも知り合いのために力を貸すだけでしかありません。」




 それを聞いて、むしろ辺境伯は安堵した。人間の身からしてみれば、ティフォーネはまさに人間の形をしただけの荒れ狂う自然そのものである。


 そんな彼女が暴れまわったらどうなるか、国土は荒れ果て、この国が復興できなくなるかもしれない。それはこの国を復興する目的の保守派にとっては恐れるべきことだった。後ろ盾になってくれて力を貸してくれるだけで十分である。




「だがそれはいいのですが……。竜である私たちを後ろ盾にすると宗教方面がうるさいのでは?」




 古代より、竜は自然の象徴であり西洋においては支配されるべき象徴、悪の具現化として位置づけられている。そのため、自然の征服の例えとしての竜退治は非常に多い。この世界においても、神々の肉体を滅ぼした竜は宗教、特に至高神での宗教では好まれていない……というか敵の象徴とされている。


 石頭で有名な至高神の神殿が竜との共存関係を承諾するかは不明である。


 ましてや、選帝侯には、至高神の司祭なども含まれている。そんな彼らが竜と共に戦う彼らをどう思うかは明らかだろう。




「それはそうだが……今はそんなことを言っていられる場合ではない。


 使える物は何でも使わないと戦いには勝てない。少しばかり貴族が入ったからと言ってもまだまだ戦力は足りないからな。」




 その言葉に、ティフォーネは自らの銀髪をいじりながらルーシアに対して言葉を返す。




「ふむ。一応聞いておきますがその貴族たちには私たちのことを?」




「いや、エル様の事は話しており、後ろ盾により高位の竜の存在がいることは話してはあるが。貴女たちの使役竜の事も話してはある。」




「後、竜と共闘関係になるというのは至高神の神殿からは受けが悪いでしょうが、自然と強く結びついている大地母神の神殿からは比較的関連は強いでしょう。


 大地母神の神殿から政治的に切り崩すために貴女やエル様の力を借りるかもしれない。それはお願いしたい。」




 そう言いながら、ルーシアはその金髪の頭を下げてティフォーネに頼み込む。


 自然と豊穣を司る大地母神の神殿は、その権能から豊穣が重要視されており、当然ながら農民が極めて多い。


 その農民たちからしてみれば、大規模な天候操作と豊富な地脈からのエネルギーによって豊作が約束されれば大喜びでこちらの味方になってくれるはずである。


 自然を象徴する竜と、同じく自然を象徴する大地母神の神殿は極めて相性がいい。


 手を組むには最善の相手だろう。ふむ、とティフォーネは小首を曲げて考え込む。




「大規模な自然災害とかならともかく、常に安定な天候を行うというのは天候神でもある私からすれば自然の運行を歪めているみたいでちょっとアレですね……。


まあ、弟子のためなら仕方ありませんか。「しばらく」はいいでしょう。


後は、私の鱗を与えたエルの方にも天候操作の力は渡しておきましょう。他の領地でも天候操作を行いたいのならあの子に頼みなさい。ああ、後天候の安定は全てエルの力だとでも言っておいた方がいいですね。私には人間の信仰などどうでもいい……むしろ煩わしいですが、あの子にとっては大きな力になるでしょう。」




「本当にありがたい。礼を言う。」




ルーシアはティフォーネに対して頭を下げる。


安定した天候が約束されたのなら、豊作も自然と発生してこの地は極めて豊かな土地となるだろう。


(どうでもいいが、ティフォーネの「しばらく」が百年単位であることをルーシアは知る由もなかった。)そんな彼女を見ながら、ティフォーネはふむ、と顎に指を当てながら考え込む。




「ふむ、貴女はヒトカス……いえ失礼、人間にしてはまだマシと言ったところでしょうか。軍を指示するのに指示系統は統一しておいたほうがいいでしょう。


エルからだけでなく、この鱗があれば貴女からも私の使役竜たちに指示を出すことができます。後は私に対してもエルに対しても通信ができますしね。」




そういいながらティフォーネは彼女に鱗を手渡した。それが彼女の信頼の証だった。




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