表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/119

第6話 水源とゴブリンの侵入経路

 そして、エルに従って第三階層に降りるユリアたち。


 空間が歪んだその階層の大部分は大きな水たまりになっており、小さな湖と言ってもいいほどだった。


 これだけの水なら、底が抜けて大量の水が大迷宮に降り注ぎそうなものだが、そこは空間の歪みによって別次元と化しているらしい。


 そこには、様々な魚などといった淡水魚など大量の水産物が存在しており、また怪物たちの飲み水の拠点などと化している。


 元々はエルの飲み水場として作成されたのだが、それに目を付けたゴブリンどもが水に毒を混ぜたりしたこともあるので、きちんと《浄化》の魔術で浄化された水を飲むようにしている。


 


「こ、こんなところにこんな大きな水場が……というかこれもう湖じゃないですか?」


 


《こんなダンジョンの中に小さな湖があるとかどうなってるん?》


《物理法則もへったくれもないな。まあ、魔法とかなら納得か。》


 


 確かに物理法則もへったくれもないが、魔法に慣れたこの住人がそういうこという?と思わずエルは突っ込みいれたくなるが何とか我慢する。


 


『うん、淡水だから流石に巨大イカや巨大タコとかは存在しないけどね。ちょうどいいので、魚を取ろうか。』


 


 エルは水に口をつけると、そこに対して自らの咆哮を上げる。その咆哮は水中を伝わって、水中の生物たちを気絶させて次々とぷかぷかと魚たちがその腹を見せながら水面へと現れる。


 これはダイナマイト漁と同じく衝撃破で魚を気絶させる方法である。


 生態系に与えるダメージも大きいが、魚を捕るなんて俺ぐらいしかおらんし大丈夫やろ、とエルは考えている。


 ユリアたちが罠探知用の棒で魚を集めている中、エルは6mほどの巨体から魔術で1mほどの小型の姿へと変貌する。


 ダンジョンにおいて巨体は有利には働かず、むしろ不利に働くことが多い。


(特に相手を襲うのではなく、探索などにおいては)


 そのため、エルは小型化して彼女たちと一緒に探索するための準備を行ったのである。


 


 《そんなこともできるのか。さすがドラゴン。》


 


 普段から小型化しておけば、燃費は極めて良くなるし長時間人間たちと一緒に冒険はできる。逆に大型化したままなら、どんな事態にでも対応ができ、強大な敵に対しても真っ向面から戦えるが、燃費が激しく長時間の冒険は難しい。


 小型化したままで、戦闘の時のみ大型化するのは、小さくなったということは当然内臓エネルギーも小さくなるため、そのまま戦うとあっという間にエネルギー不足になってしまう恐れがある。どれも一長一短である。


 ともあれ、小型化したエルは、ユリアたちが捕ってきた魚の内臓を捕って、それを焼いて岩塩をかけてみんなで食べる。


 何をするのにもまずは腹を満たさないといけない。特に燃費の激しい竜は普段は休んだりして燃費を抑えるのだが、小型化してもずっと動いていなければならないのなら、エネルギー供給は出来る時に行うべきである。


 


 小型化したエルは爪で魚の腹部を切ると、丁寧に内蔵を取り出し、塩をつけて焼いてもらって次々と魚を貪り食らっていく。何せ竜というのは燃費が悪い。大型化していればなおのことである。燃費温存用の小型化しているうちに、食えるだけ食っておけばある程度、長時間活動は可能なはずである。


 


『とりあえず第四階層だけど……。これから先は我も未知数だからマジで気を付けていこうな』


 


 そして、食事をとった後で第三階層を通り抜けると、次はエルも知らない階層、第四階層である。ここからは恐らくは本格的に罠なども存在しているに違いない。


 


 ユリアの双子の妹、レイアはお約束の6フィート棒を取り出して、床やあちこちを突きながら慎重に先に進んでいる。


 地道な作業ではあるが、罠にかかってグロ映像を魔術ネットに流すよりも遥かにマシである。


 ピクシーを浮かべさせて魔導カメラでそれを中継していくのが、ダンジョンチューバーのお約束ではあるが、こういう地道な作業中に面白おかしくトークをして、視聴者を飽きさせないトーク術こそが、ダンジョン配信者の最大の腕の見せ所である。


 


『ほーん、最近はこういうのを使って中継するんだ。面白いね。』


 


 小型化したエルは魔導カメラに近づくと、浮かんでいるそれを爪でちょんちょんとつついたり、カメラに対して覗き込んでみる。自然と、竜の顔面のドアップが中継されてそれが受信者にダイレクトに送られていく。


 


 《ちょww近い近いwww》


 《ちけぇよwww離れろwwww》


 《女の子のおっぱいならともかく、竜の顔のドアップとか嬉しくないww》


 


 ユリア的には、エルがいるだけで撮り高が保証されているので、それだけで非常にありがたいらしい。


 常に面白いトークを口にして相手を楽しませるのは、非常に疲れるものだ。(天然でそれをできる人間もいるが)


 しかも、突発的な襲撃や戦いなどに気を張りながらトークをするなど、かなり精神力を使う作業である。


 それらが軽減されるとなれば、それだけでありがたいというものだ。


 


 まあ、そんなこんなでレイアを先頭にして罠を警戒しながらと、レイアはふと石作りのダンジョンの床を棒で叩いて妙な感覚を感じ取る。


 片手でユリアたちを停止するように促すと、さらに棒で細かく突いて感覚を確かめたし、石を投げたりして音などを確認する。


 どうやら、典型的な落とし穴の罠らしい。ここを通ればそのまま床が落ちて串刺しになってしまうという罠なのだろう。


 大迷宮の完全な制御権を持つママンがいればこんな罠など起動しないのだろうが、制御権のないエルならば平気で起動してしまうだろう。


 


『ふむ、ちょっと我に任せてもらってもいい?なるほど、そこのタイルあたりか。


 オラッ!『土作成』ッ!!』


 


 そういうと、エルは魔術でその落とし穴のタイル辺りに土作成で大量の土を作り上げる。当然、耐え切れずにタイルが砕け、大量の土は落とし穴へと落ちていく。


 元々、エルは大地を象徴する地帝シュオールの息子である。そのため、土系列の魔術とは極めて相性がいい。


 エネルギーは温存しなければならないが、この程度の魔力消費なら別に問題はない。


 


『『土作成』!『土作成』!『土作成』!!」


 


 連発される土作成によって、落とし穴はすっかり土で埋もれてしまう。


 エルがその積み重なった土の上をぱんぱんと叩いて、通っても問題ないなヨシ!!という顔をすると、配信者たちから思わず突っ込みが入る。


 


《ち、力技~。》


《脳筋すぎて草。》


《漢探知ならぬ漢解除で草&草》


 


 一見スカウトであるレイアを軽視しているように見えるがそうではない。


 ダンジョン内部で常に罠を感知し、解除するスカウトは迷宮内部では常にその精神を擦り減らすことになってしまう。


 彼女だけに任せるのではなく、協力して罠を解除すれば彼女の負担も軽くなるだろう、という考えである。


 職人気質のスカウトだと「余計な手出しをするんじゃない!」と切れそうであるが、レイアの方を見てみると、目をキラキラさせて見ているので、少なくとも悪くは思っていなさそうである。


 スカウトは大事にしなければならないから、負担を軽くするのヨシ!!


 


 そんな感じで、数階は罠などを回避し、何とかそこまでたどり着くことはできた。


 だが、それだけですむはずはない。


 その下を下っていくときに、とある怪物たちが大量に存在するのを見て、エルは思わずしかめ顔をする。


 それは、その階層に入り込んでいる数十匹のゴブリンたちである。


 彼らは、どこからかこの大迷宮に入り込んで、大量に繁殖し自分たちの拠点、巣に変えようとしているらしい。


 エルからしてみれば、自分の家にゴキブリが大量に入り込んでいたようなものだ。絶対に許すわけにはいかない。うぞうぞと大量に蠢いているゴブリンを見て、思わずしかめっ面になってしまう。


 


『……ふむ。ここに人間たちを突っ込まさせるのは多勢に無勢か。お前たちはここで大人しくしているがいい。』


 


 エルは、ユリアたちを避難させ、念のために結界で防御し、保護するとそこで大人しくしていろと指示を出す。


 さて、この大迷宮に巣くうウジ虫どもを踏みつぶさなければならない。エルはそう固く心に誓った。


-------------------------

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ