第52話 投げ銭システム導入
「ううむ……。さすがにいきなり瞳の色が変わるとは予想外でしたね……。なるとなれば、角皮が生えて本物の角になるかとでも思っていたのですが……。」
そのアヴリルの言葉に、視聴者たちは一斉にざわめきだしてコメントが矢のように飛び込んできた。
《おいいいいいい!!どうなってんだよこれ!!》
《ユリアちゃんが傷物になったじゃん責任とれ責任!!》
《どうなってんのこれ!!どうしてくれんの!!》
「ええい黙りなさい!これは彼女自身が選んだことです。安全圏なら好き勝手言えてる貴方たちがどうこう言える問題ではないのでは?」
うっぐ、と視聴者から黙り込む声が聞こえてくるようだ。
これは彼らの痛い所を突かれたのだろう。彼らは思わず黙り込む。
何の代償も得ず、安全圏から彼女たちの戦いを娯楽として眺め、お気楽にコメントをするだけという罪悪感というのは彼らにもあったのである。
「と、いうわけで天才である私は新しいシステムを構築しました。
それは、この魔術通信システムを流用した「体力・精神力の供与」です。
視聴者たちが望むことによって、ユリアさんたちやエル様たちに対して体力、もしくは精神力の供与を行う。これでエル様たちは今までにないほど戦力が強化されるはずです。ユリアさんたちの戦力も強化される、貴方たちの罪悪感も緩和される。
もちろん、嫌なら別にやらなくてもいいですぬよ。」
どこからどう見ても投げ銭システムで元気玉システムです。本当にありがとうございます、とエルは心の中で呟いた。
いやまぁ確かに前線で戦う彼らにとって、金銭よりも体力や精神力の供与は死ぬほどありがたい。これに加えて補充の魔晶石なども併用すれば、今までにないほど戦いが有利になるはずである。
ただ、欠陥としては、投げ銭システムで投げ銭をしてもらうために、常に面白い映像を送らなくてはいけない。
面白さとカリスマ性がなければたちまち飽きられてしまうだろう。
ともあれ、投げ銭システム導入と、ユリアの体をしっかり調べる事で、その場は落ち着く事になった。
アヴリルが見た所、敢えてレベルで表現すると、レベル10ぐらいなのがレベル30ぐらいまで上がったらしい。
(当然人間のレベルと竜のレベルは異なる。)
レベル20アップと引き換えにオッドアイになるとはその人の判断次第だろう。
(しかし、我の血をさらに引いた人間を見て、マミィたちはどう思う事やら。まあ、考えても仕方ないか……。あんまり人間に血を分け与えるのも問題だなぁ。)
そう考えながらも、傷を癒したエルはウトウトと眠りに落ちていった。
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……エルたちが自分たちの根拠地で休んでいる中、とある場所で蠢いている存在がいた。それは冒険者たちを装っている人類至上派のスパイだった。
彼らはまたもや懲りずにスパイを送り込んでいたのだが、今回の彼らの目的は少し異なっていた。
「……よし、警戒は薄くなっているようだな。侵入するぞ。」
「全く、何で我々がこんなクソの山のような所に……。全く忌々しい。」
彼らが潜り込んでいたのは、腐敗竜が封印されている場所のすぐ近く。
ドワーフたちの目を潜り抜け、彼らはここまで潜入しているのだ。彼らは自分たちの特殊術式で縛ってあるゴブリンどもに命令を下す。
「よし、いけゴブリンども。ここに足を踏み入れて腐敗竜のエサとなるのだ。そして、その身は腐敗竜復活の礎になれ。」
ゴブリンに特殊術式が込められた縄と特殊金属のあちらこちらから棘が出ている杭を持たせながら、彼らはゴブリンたちを次々に腐敗沼へと向かわせる。
そして、ゴブリンたちが「何か」にむさぼり食われていくのを確認すると、その縄をこちらへと引き寄せていく。
そこには、極彩色に輝く「何か」の細胞がへばりついているのが確認できた。
これこそが腐敗竜の「細胞」である。人類至上派は、この腐敗竜の細胞を活用して様々な猛毒を持った人造人形やら何やらを生み出そうと企んでいるのだ。
「さて、腐敗竜の細胞が回収できたから最低限の目標は果たせた。触れるなよ。このまま入れ物に入れて封印して拠点地へと持ち帰る。あとはこれで腐敗竜が復活してくれれば辺境伯の背後をついてくれる形になるから、こちらにとっては最善だが……。まあいい。お前はこれを持ち帰れ。俺はここでさらに腐敗竜に栄養を与えてみる。」
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