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第23話 スケイルゴーストドラゴン



 ワームや植物地獄などの階層を潜り抜け、ある程度の深部まで突入してきたエルたち。ここまでくれば単なる素人ではなく、それなりに熟練の冒険者へと変貌したユリアたちを従えたエルは、その階層の広大な空間を見て驚く。


 別に植物が繁茂しているというわけでもなく、怪物が存在しているわけでもないだだっ広い空間。その空間に一つの不可思議な物体がふよふよと浮かんでいた。


 そう、それは『鱗』。ドラゴンの鱗がその空間に一枚、魔力の光に包まれながら浮かんでいたのだ。




『なんだありゃ?竜の鱗か?』




 さすがに罠を警戒して触らずに遠巻きにして慎重に伺うエルだったが、それに呼応するように急激にその鱗の光が輝きだし、言葉を放つ。




『よくぞここまで来ましたね。正直、ずっと上にこもったまま動かなかったらどうしようかと思っていました。』




《し、喋った!?》


《嘘やん!なんで鱗が喋るの!?》


《どういうことだ!説明しろドラゴン!!》




 知るか!!こっちが聞きたいぐらいだよ!どうなってるんだよ!!と叫びたいのをぐっとエルは我慢する。そして、それに答えるように宙に浮かんでいる鱗がご丁寧に彼らに対して説明を行う。




『私は地帝シュオールの鱗から作られた分身体。貴方の力を図るためにここで待機していました。正直、このままずっと出番なかったらどうしよう……と思っていたのは秘密です。』




 我、マミィにとことん信頼されてないな……酷くない?と思うけど、以前の部屋にこもりっぱなしだった事を思い出しては仕方ないのかもしれない。


 ともあれ、分身ということは本体と繋がっているということである。これはチャンスである。


「しっかりと迷宮攻略のために頑張っていますよ~」と母親にアピールできればしばらくは問題あるまい。


 実際、人間たちと協力体制とはいえしっかりと迷宮攻略のために頑張っているのだから、母親から小うるさく言われる筋合いはない。




『ともあれ、ここまで来たのなら貴方の力を測らせていただきます。せいぜい頑張って私を倒しなさい。それが本体の望みでもあります。』




 その言葉と同時に、宙に浮かんでいる鱗の一枚はそのまま膨大な魔力を周囲に放ち、それは魔力で構築された半透明のドラゴンの姿を形成する。


 それは小型の透明なシュオールに似た霊体の竜。『スケイルゴーストドラゴン』とも呼べる存在だった。その半透明な竜は咆哮を上げながらエルたちに対して襲い掛かってきた。




『私の鱗から作られたゴースト・ドラゴン。強さは貴方と戦える程度の弱めてあります。さあ、頑張りなさい!!』




『クソッ!!下がってろ!!《石壁作成》!攻撃防御!!』




 まずはユリアたちを下がらせて、石壁作成で相手の攻撃を防御しようとするエル。だが、霊体で構築されているゴーストドラゴンの爪はその防御用の石壁をあっさりと通り抜けてエルに対して攻撃を仕掛ける。




 《はぁあああああ!?なにそれ!?》


 《ちょっと待って!反則すぎでしょそれ!!》


 《こちらの攻撃は通用しなくて相手の攻撃は通用するとかズルすぎィ!!》


 《多分霊体に直接干渉する魔術とかじゃないとダメだこれ!!それか魔力の塊を直接ぶつけるとか!!》




 こちらの防御をすり抜けて一方的に攻撃を仕掛けるなんてチートだチート!!


 そう思いながら、魔術で石槍を作り出し、それを射出してみるが、やはりすり抜けて攻撃は通用しない。


 一方的に攻撃できるなんて強すぎるだろうが!!いくらなんでもおかしいよマミィ!!と絶叫したくなったが、それをエルは何とかぐっと飲みこむ。


 こういった存在には、精神や魂に直接干渉を仕掛けられる魔術が有効なのだが、あいにくエルはそういった魔術を覚えていない。


 ゴーストドラゴンは、爪を振りかざしながら襲い掛かってくるが、それに対して魔法戦士であるユリアは自らのとっておきの呪文をゴーストドラゴンに対して叩き込む。




「食らえ!!《魔法のマジックミサイル》ッ!!」




 ユリアが飛ばしたマジックミサイルは、ゴーストドラゴンを石槍同様すり抜けるが、魔力の塊にかき乱されたゴーストドラゴンの魔術式によって動きが鈍り、エルはその攻撃を回避することができる。


 鱗からの魔術式によって構築されているゴーストドラゴンは、他者からの魔力の塊をぶつけられると、その魔力によって魔術式が乱れ、動きが鈍る。


 竜と人間では魔術の質・量とも圧倒的に違うが、それでも魔術式を攪乱させ、動きを鈍らせる程度のことはできる。




「ユリア!マジックミサイルをゴーストドラゴンの中で拡散することはできるか!?」




「え、えぇ!?やったことはないですが……やってみます!!」




 彼女は剣を構えなおすと、それを魔法の杖代わりにして意識を集中、再度マジックミサイルの術式を作り出して、それを叩き込む。




「《魔法のマジックミサイル》ブレイクッ!!」




 ゴーストドラゴンの体内?にマジックミサイルが入った瞬間、マジックミサイルが爆散し、その魔術がばらまかれることによって、ゴーストドラゴンの魔術式はさらに乱れ、動きが鈍くなっているのはあからさまにわかる。


 体内で拡散された魔術は、鱗からの魔術式を攪乱させ、その動きは明確に鈍くなっているのだ。まるで油の切れた機械のように鈍い動きをする中、ひゅん!と空中を切る音が聞こえ、何かが高速でゴースト・ドラゴンへと向かう。それは、レイアが放ったクロスボウの矢である。


 無意味に見える攻撃。だが、それはある一点を狙い済ました一撃だった。




 クロスボウの矢は、宙に浮かんでいるシュオールの鱗へと命中し、カァン!とカン高い音を周囲に響かせる。


 その一撃により、今まで無意味だったゴースト・ドラゴンが凄まじい勢いでのたうち回りだした。痛みと苦痛で明らかに動揺しているのが理解できる。




『そうか!!あの鱗か!!あの鱗が弱点!あの鱗がゴーストドラゴンを形成している魔術の核か!!』




 つまり、あの鱗こそがこの術式の核であり、あれを何とかすれば物理攻撃が通用しないゴーストドラゴンを倒すことができるはずだ。


 それもただ物理攻撃ではなく、直接強力な魔術攻撃を叩き込めば完全にその機能を停止させるはずである。


 それを察知したエルは、自らの喉に魔力を収束させ、強力な重力波を発生させていく。周囲の床の小石などが重力異常により、急激に浮かんだり地面に叩きつけられていく。これは強力な重力波による干渉である。




『食らえ!!《重力照射吐息グラビティブラストブレス》!!』




 エルの口前に収束された重力波は、そのまま彼の口から放出され、全てを捻じ曲げて粉砕する強力な重力波は、そのままゴーストドラゴンを作り出している鱗へと命中すると、その漆黒の重力波は、鱗から放出される魔力術式をシャットアウトし、黒い重力波に包まれた後で地面にからん、と落ちる。


 それと同時に魔術式がシャットアウトされたゴーストドラゴンは、そのまますうっと消え去っていく。


 これは、エルが見事に母親の残した試験を突破したということである。




 《うおおおおおお!》


 《やるやん!!》


 《さすドラ。》




 その配信者たちの言葉を他所に、エルは床に落ちている鱗をつんつん、と指でつつく。その鱗は微かな光を放ちながら光化してエルの体内へと潜り込む。


 そして、エルの体内に潜り込んだシュオールの鱗は彼の肉体の中に眠る竜の血を活性化させて、さらに巨大な力を目覚めさせようとする。元々母親という極めて親しい肉親で親和性の高い鱗である。それくらいの無茶は聞く。




『ぬぉおおおお!!体が熱いぃいい!!何か霊的な位階が上がった気がする!それも結構上がったような気が!!する!!』




 簡単に数字化していうと、今までLV10だったのが、一気にLV30程度まで上昇した……ような気がする。


 この世界ではステータスなど出てこないので大まか感覚でしかないが、それでも自分自身が以前より遥かに強くなった気がする。


 シュオールの鱗を取り込んだ事とそれによる身体能力活性化が合わさればそれくらいはいけるだろう。ともあれ純粋に強くなれたことは喜ぶべきことである。やったぜ、とエルは思わずガッツポーズを浮かべた。




 と、そんな中、レイアは何か光ったものを見つけて、罠に警戒しながらそちらの方へと近寄っていく。


 そこにあったのは、1mほどの光り輝く魔力の結晶化した物体、魔晶石である。


ほかにも手のひらサイズの魔晶石も十個ほど転がっていた。それほど巨大なサイズの魔晶石など、レイアも見たことがないほどである。


 これなら高値で売れるだろう、と何とか持ち帰ったが、それを見たアヤはあまりの巨大さに卒倒したのは別の話である。



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