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第19話 冒険者たち、少しづつ大迷宮へとやってくる



  さて、それからしばらくして、大迷宮の入り口も人間の冒険者たちがそれなりに入ってくるようになった。


 これはエルと冒険者ギルドが提携したからである。


 とりあえず、入り口にギルド管轄の事務員を置いて、入場料を購入する。


 とはいうものの、所詮入場料なので死のうがどうなろうが、それは関係ない。あくまで入場料をいただくだけである。


 だが、冒険者というのは強欲なものだ。第一層の大半を占めるエルの居住地に潜入して財宝やら何やら掠め取っていく可能性がある。


 そのため、現れた冒険者たちに釘を刺す必要があるのだ。


 大迷宮に足を踏み入れた冒険者たちは、その広大さ、昼間と変わらぬ煌々としたヒカリゴケの明るさにも驚きながら、一番驚いたのはやはり巨大なドラゴンを間近で見たことである。


 いかに敵対的ではないとはいえ、こんな巨大な存在から見下されるのは、びびってしまうのは仕方ない。




『ふむ、新しい冒険者たちか。いいか。ここ第一階層、第二階層は大部分は我の居住地だ。結界は張っているけど、うかつに手は出さないように。財宝とかないからマジで。こっそり入ったら噛み砕いていいと許可は貰ってるからな。』




「うおでっか……。」




「間近で見るのと配信で見るのと迫力が違うよなぁ。うちらも配信しておこ。」




 こうやって威圧しておけば侵入するバカは減るだろう。実際に、今の彼にとっては財宝よりも居住地や食料生産地の方が大切である。


 これを荒くれ冒険者たちに荒らされたら、流石に彼も切れるので、厳重な結界を展開して防御している。


 これを破って侵入してくるのなら処罰していいとギルドのお墨付きである。


 法もなにもないダンジョン内部では力ある彼こそが法律である。




(しかし、冒険者たちにも拠点は必要だから、ここでバロメッツの肉を食料として売り出すのもいいかもなぁ。そうすればお金も落とすだろうし。)




 今までは人類社会と切り離されていた大迷宮だったが、ギルドや冒険者たちが入り込んでくることによって、人間社会の経済とも無縁ではなくなってきた。


 それなら、自分の優位に立てるように立ち回るのは当然とも言える。


 エルにとって冒険者たちは金蔓でもありライバルでもある。


 冒険者たちに先を越されて財宝を丸取りされないように、こちらも急いでダンジョン深部へと向かっていかなくてはならない。


 そ、そんなエルを呼び止める存在がある。それは冒険者ギルドの支店長であるアヤである。


 失敗は許させない重要な仕事のために、彼女はわざわざここまで来て直々に物資搬入の仕事の指導やらをしているのである。


 もし万が一竜の機嫌を損ねて万が一のことになってしまっては、商売のネタが一瞬で消え去ってしまう。それを警戒してわざわざ彼女自身がここにきているのだ。




「申し訳ありません。少し人目のつかないところでお話が……。」




「まず、開拓村から辺境伯領へときちんとした道はギルドの力である程度行ってもらえそうです。辺境伯との許可も取れました。そちらの言い分をある程度認め、少なくとも今の段階では暴れない限り討伐軍は行わないとのことです。」




 やっ↑たぜ↓エルからしてみれば、辺境伯がこちらに攻め込んでこず、ある程度の自治というか黙認してくれることはありがたいことこの上ない。


 実際はそんな余裕などないのだが、そんなこと言うことは必要なので、わざわざいうことはない。彼にとってギルドや辺境伯とコンタクトを取れるだけで十分すぎる状況である。


 そんな感じでエルがほっとした感じを見せていると、彼女は現状のこの国の状況をエルへと教えていくが、それを見てほっとしたエルに対して、現状の状況を伝えるとたちまち頭を抱えだす。


 人類社会とのコネを作ったのでこれで安心だ!と思いきや政治的闘争に巻き込まれる状況満々となればそうもなろう。




『おぃいいい!せっかく辺境伯とのコネを作って安心と思いきやそんな状況になってるなんて聞いてないよー!!』




 そう嘆くエルを他所に、アヤはさらに言葉を続けていく。




「ともあれ、辺境伯は旧王家にまだ忠誠を誓う「保守派」にいますが、王家の血を引く人間が手元におらず決定打に欠け、「改革派」は今は大人しいですが、亜人弾圧なども行う気満々なので警戒されているようですね。大半は日和見の「中立派」です。


 ここで王家の血を引く人間が出てくれば、大きく状況は変化するのでしょうが……。」




 そこで、アヤはちらっと例の双子を見るが、二人とも不自然なほどの無表情っぷりである。


 探りを入れてみたが、これでは何も探れないかと判断した彼女は、話題を変えるために言葉を放つ。




「まあ、それはそれとして、この大迷宮内部にいろいろな店を置きたいのですがよろしいでしょうか?食料店、武器、防具、アイテム、ドロップ買取店などなど。


 迷宮内部で様々な食糧やアイテムの補給ができれば冒険者たちに極めて有効的なので。当然ショバ代……店の土地代はお支払いしましょう。お金さえ払っていただければ、食料も供給いたしましょう。いかがでしょうか?」




 乗った!というか乗らざるを得ない。これは彼にとって何も損がないところが、得ばかりの案件である。だが、エルはそれだけではなく彼女に対してそれなりにきつい言葉を言わなくてはいけない、とキリッと顔を引き締める。




『うむ、それはそれでいい。……だが、貴様には言いたいことがある。いきなりやってきて美味しい所だけ掠め取ろうとするのは流石にどうかと我思うぞ?特に滅びかけてた開拓村には何もしなかったのに利益の匂いには寄ってきてるんだから、当然心情は悪くなるとは貴様考えなかったのか?別段命を奪うとかそういうことはないが、それなりのペナルティは背負ってもらわぬとな?』




 ぬう、と思わずアヤは冷や汗まみれになる。確かに利益だけを追い求めて心情まで読み切れなかったのは彼女の誤算である。


 もし万が一シュオールが暴走したときに、命などを握っているのはエルなのだから、もっと彼の心境に寄り添うべきだったのだろう。




『まあ、我としては貴様もいなくては困るからそんなにきついことは言わぬ。


 開拓村から辺境伯領までのきちんとした道の整備、そして、開拓村への投資や冒険者ギルドの支部を作ってもらうこと。これくらい言わせてもらってもいいだろう?』




 エルとしては別に彼女に対して気に入らないとかそういう感情はなかったのだが、事情を説明した配信者たちから《気に入らねー》《ある程度ペナルティは負わせるべきでは?》《美味しいところだけかすめ取りはどうかと》という意見をもらったので、舐められすぎないために、引き締めのためにこれくらいは言ってもいいだろうという意見で纏まったのだ。


(お前たちも人間だろうに人類サイドの味方しなくていいの?と言ったら、いや別に我々冒険者ギルドと関係ないですしおすし。という言葉が返ってきた)




「わ、分かりました。確かにおっしゃる通りです。その言葉に従いましょう。」




 ここで彼を怒らせてしまうのは得策ではない。こちらもきちんと自腹を切るべき、と言われれば確かにその通りである。アヤは冷や汗をかきながら彼のいうことに従うことにした。



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