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第18話 辺境伯と冒険者ギルドの支部長

第18話 辺境伯と冒険者ギルドの支部長


 森林に包まれた開拓村を出てしばらく先、大森林の外には、そこには立派な城郭都市が存在していた。


 ここは、フォーサイス辺境伯領。クーデターにより政権がひっくり返ったばかりのアルビオン王国の中で、未だ比較的平穏を保っている辺境域である。


 その城郭都市内部の一画で、ここの冒険者ギルドを統べるアヤと一人の金髪の緩やかなウェーブのかかった豊満な肢体を軍服に纏った女性が会話を行っていた。


 彼女の名前はルーシア・フォン・フォーサイス。この地を統べるれっきとした辺境伯であり大貴族、選帝侯の一人である。


 彼女は、クーデターが起こった王都の情報を得るため躍起になっていた。


 何せ配信で情報は手に入るとはいえ、それは散発的で不確かな物。そのため、冒険者ギルドを通して正確な情報を入手していたのだ。




「そうか……。やはり王都はクーデター軍が占拠を……。王家の人々はほぼ全滅と……。全く厄介な……。これでは内戦勃発必死だな……。」




「そもそも、王家の血を引く人間がいないと対地帝シュオールの神器『神弓ミストルティン』が発動できないではないか!あいつら何考えているんだ!アホじゃないのか!これでどうやって地帝シュオールを抑え込む気だ!まあ、シュオールはどこかに姿を消したらしいのが幸いというものか……。」




 神々は、自らの肉体を滅ぼしたエンシェントドラゴンロードが暴走する際に対して、人類を守護するためにこの地に『神弓ミストルティン』を与えた。


 しかし、(比較的)賢い王家の源流の人々は、神々に依頼してミストルティンにとある「枷」をつけた。


 それは弓神の血を引く「神血」を引くものではないとミストルティンは起動できず、その燃料として「神血」が必要となるということである。


 つまり、王家の純血に近い人を生贄にしなければミストルティンは起動できないということである。


 これによってミストルティンを使って周辺諸国の侵攻を行い、大帝国を作り上げるという人類の暴走を防いでいるのだ。ちらり、と彼女はアルビオン王都で配信中の空中に浮かんでいる「それ」を目にやる。




 それは全長200mほどの巨大すぎる弦のない『弓』そのもの。否、弓型の巨大な空中要塞そのものだった。


 弓の裏側部には、推進用のスラスターが複数装備されており、これにより自在に空を飛行することができる。


 その弓状の巨大な物体が王都近くの空を浮かんでいるのは、まさにこの国ならではの威容といえる光景だった。


『神弓ミストルティン』。これこそ神から直々に与えられた地帝シュオールから人類を防衛するために要である。それは人類からしてみれば、200mを超える弓の形をした空中要塞そのものであった。ここから放たれる神力で構築された巨大な光の矢、神力レーザーこそがこの国を守護する防衛の要であった。


 最も、これを発動させるということは、王家の誰かを犠牲に捧げるという事。


 そのため、外部侵攻用には用いられず、帝都に攻め込んでくる敵を迎撃するためにのみ使用が行われていた。




「だが、俗にいう「人類至上派」が暴走。クーデターを起こした挙句、王家の人々を失いミストルティンを起動できなくなるとはお笑い草だ。……逃げ出した王家の末裔は見つからないのか?」




 王家の人間、神からの直接の血を受け継ぐ直系の『神血』を受け継ぐ人間でなければ、ミストルティンを起動することはできない。


 そして、王家の人間というのは、大抵銀髪、緑目をしているが、直系ではなく分家の人間から派生した人々はこの国にはいくらでもいる。それだけで王家の人間であるかどうか判断するのは困難である。


 正確にいうなれば、人類至上派は王家の人々を捕えて、神弓ミストルティンを操作し、自分たちの思い通りの国、亜人や竜族を打倒して人類のみの選ばれた国を作り出そうとしていたのだが、それを良しとしない王家の人々の大半は自害してしまい(自分たちの死体を焼く処置をするほどの念の入れよう)彼らの目論見は半ば頓挫してしまったのである。




「さすがに銀髪、緑目だけでは……。王家の分家は結構いますが、ミストルティンを完全に制御できるほどの純血持ちはそうそういないでしょうからね。」




 現在、このアルビオン王国では三つの勢力が入り待った内戦状態へと突入している。


 一つはフォーサイス辺境伯を中心として旧王家に忠誠を誓い続ける「保守派」


 クーデターを起こし、王都を占拠して共和制と人類至上主義を唄う「革命派」


 そしてどちらにも属さないいわゆる日和見派「中立派」である。


 だが、保守派は肝心要の王家の血を引く人間を確保できておらず、革命派は王都を占拠して支持は広めているが、亜人弾圧を進めている彼らに諸手を挙げて賛同している人々は少ない。亜人たちも王都から大規模な避難を開始し、周辺の貴族たちは大迷惑しているという状況だ。


 そのため、必然的に中立派が多いということになってしまう。この中立派を何とかして保守派に引き込んで対抗するか。それが彼女の目下の課題である。




「了解した。それはそのまま頼む。辺境伯としても、大迷宮がいつ爆発するか分からない厄介な場所ではなく、我々に利益を齎してくれる場所になるのなら大歓迎だ。


 今や対地帝シュオール兵装『神弓ミストルティン』はまともに起動しないしな。」




 そういうと、ルーシアは大きくため息をついた。この辺境伯領にまで亜人たちが安全を求めて避難してきているのだ。それだけ大騒動になっているとうことであり、彼女は正直辺境伯領と保守派を纏めるだけで手一杯である。


 そこに無自覚とはいえ、大迷宮の件まで襲い掛かってきてはたまったものではない。そのため、そちらのほうはアヤに交渉してもらうことで二人の間で話が纏まっている。




「そもそも大迷宮は無尽の魔術資源の宝庫!人類からしてみても宝の山!ともいえる存在です。そこに対する利権を手にいれれば一生左団扇どころか、一族がみな永遠の繁栄を約束されたも当然です。クーデター軍である人類至上主義たちもこの大迷宮を支配して自分たちの物にしたい気満々でしょうね。」




「しかし、流石にそんな事をしたらあの地を統べる地帝シュオールがどうなるか分かりません。それに一部でも運営などに噛ませていただければ、それだけでも膨大な利権になり、人類社会に多大な利益を与えるでしょう。とりあえず、私たちの最善の手段としては、シュオールの息子の竜を説得して、こちらの味方に引き入れて、共存共栄関係に引き込むことですかね。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」ではありませんが、「人類社会よし」「竜よし」「世間よし」の三者に利益を与える状況になれば、地帝シュオールもこちらに対して攻撃は仕掛けてこないでしょう。」




 確かにアヤの言う通りだ。大迷宮は極めて巨大な魔力資源の宝庫。


 これを人類の物にできれば、それこそ人類は大きな飛躍を遂げるだろう。


 だが、ここで最も恐れるべきところは、元自分の支配領域であった大迷宮を好き勝手にされたと判断した地帝シュオールがこちらに襲い掛かってくることである。


 そうなれば、辺境伯も人類至上派も関係なく、この国全てが灰塵へと帰すだろう。これが彼女たちにとってもっとも避けなければならない状況である。


 そして、それを避けるために、何としてもエルと共存関係にならなければならない、というのがアヤと辺境伯との共通意識である。




 だが、そんなものを人類至上主義派どもが放置しておくわけがない。それをかぎつけてくれば、侵攻を開始してくるだろうが、向こうもこの王国の全権を握っているわけではない。




「どこかに王家の血筋でもいればいいのですが……。どこにいるのやら……。」




 そう言っているアヤではあるが、実際心当たりがないわけでもない。最近ギルドに入ってきて、スカウト技術や戦闘技術を身に着けて、運よく竜とパーティーを組んだあの双子。王家において双子は忌み嫌われた存在と聞く。王位継承権の低い者なら人目につかず幽閉されていて、それが逃げ出しても不思議ではない。




『我々人類こそが神々によって選ばれた、この世界を支配する権利を有する種族である!!我らが元に来たれ同胞たる人類よ!君たちこそが選ばれた種族である!!


 亜人たちも我々の元で活躍すれば名誉人類としての権利を与えよう!!怪物どもに脅かされない、平和で穏やかな世界を我らの手で作り上げるのだ!!


 立ち上がれ人類!!人類万歳!!人類万歳!!』




配信で繰り返し流される人類至上派のプロパガンダ演説。


配信技術がそれなりに普及はしているが、まだまだ彼らは情報化社会や情報リテラシーに慣れていない。そんな素朴な人々の中にこんな自尊心をくすぐる演説を聞いては、一気に流されてしまうのも不思議ではないだろう。


人類至上派はこうして自らの戦力を拡大していっているのである。




「まあ、こんな綺麗事を言っておきながら、ミストルティンを起動させるために王家の分家の人々を捕えて、無理矢理近親相姦で”交配”させて純血の神血持ちを生み出そうとしているんですから笑わせますね。それを限定して流して資金集めをしているとか……。趣味の悪いことです。」




 それは人間牧場じゃないか!!人類至上派が聞いて呆れる!!と辺境伯は叫びそうになったがぐっと我慢する。そう叫んでも何の意味もないからだ。


 分家の人々を無理矢理近親相姦させ、しかもそれを限定配信して金を持った貴族たちから資金を大量に獲得する。


 そして、恐らくは、魔術で無理矢理孕んだ子たちを成長させて誕生させ、さらにその子たちを近親相姦させてさらに純血に近づけているのだろう。


人類至上派を謳っておきながら、彼らには人倫というものが全く欠けている。


 目的のためなら手段を選ばない。それが彼らという存在である。


 


「我々は自分自身を守るためにより戦力を整えていかなければならない。そのためになら竜だろうが喜んで同盟を結ぼう。その辺は頼んだぞ。」

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