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第17話 ワームとの闘い


 ユリアたちの服を乾かし、エルも戦いで使用した体力の消耗を回復するため、必死になって荷物の中にある干し魚や干し肉を食べて自分の体力を補った後で次の階層へとむかった。


 次の階層は、その床には小型の穴が無数に空いている奇妙な階層だった。


 恐らく、これは床を踏んだらそこから槍が射出して相手を貫くという罠だ。


 大型な機械式であるため、解除は難しく正しい床を踏んでようやく通り抜けることができる。できなければ串刺しという罠だろう。


 だが、それより遥かに簡単なことがある。それは魔術を使うことである。




「あ、あのぅ~竜様。ここは下手に罠解除をするより、竜様の魔術で解決したほうが遥かに早いのではないかと~」




『ふむ、了解した。《石壁作成》ッ!!』




 エルは石壁を作り出すと、にょきっと生えた石壁を体当たりして倒して、床を塞ぐ。


 いかに床から槍が射出する形でも分厚い石壁を貫けるほどの威力はない。


 槍の先が石壁に当たってガッ!ガッ!と音はするが、上に乗れば問題なく行くことができるだろう。




『よし、このまま続いていくぞ。《石壁作成》!《石壁作成》ッ!!」




 石の壁を足場……というか橋代わりにしたパーティはそのまま床を乗り越えていく。


 槍といえども石壁を貫けはしない。わざわざ罠を解除しなくてもそのまま渡っていけばいいだけの話である。




《石壁つぇえええ!!》


《これからずっと石壁で全部解決しようぜ!!》


《流石ドラゴン!そこに痺れる憧れるゥ!!》




 ふふん、とエルはドヤ顔して石壁を足場にしながらそのまま向こうへと渡っていく。


 いかに槍だろうと、石壁を貫けるほどの威力は持ち合わせていない。


 そのまま石壁を足場代わりにずんずんと進んでいくエル。


 そして、次の階層に繋がる階段の前に白い巨大な物体が横たわっているのが目に入る。そのぶよぶよした白い蛇体の存在。眼球なども退化し、牙の生えた口と蛇体のみの存在。それは俗に言われる「ワーム」と言われる存在だった。


 エルより多少小型の4mだが、まともな冒険者が正面から殴り合うにはきつい。だが、こちらにはドラゴンが存在する。真正面から十分に殴り合えるはずである。




『むぅ!この階層の守護者はワームか!下がっていろ!お前たちではきつい!!援護を頼む!!』




 そう叫ぶと、エルは彼女たちを作り出した石壁の後ろに退避させ、自らは元の姿6mものドラゴンの姿に戻り、白いイモムシのようなワームをけん制するべく吠える。




『グァアアアア!!』




『ゴァアアアアア!!』




 お互い吠えて牽制しあうワームとエルの姿を配信で見ている配信者たちは、それこそ大盛り上がりになって、コメントの速度も速くなる。




 《か、怪物大決戦じゃねーか!!》


 《むっちゃ迫力あるぅ~!!幻覚じゃなくて生だぜ生!!》


 《録画しておけ!!高く売れるぞ!!ユリアちゃんの収益にするんだ!!》




 ぶよぶよした白い肉体で口だけのイモムシのような姿をしたワームは、吠えながらエルへと絡みついていく。


 それに対して、エルはワームに対して噛みついてその肉体を直接引きちぎっていく。


 傷口から体液を大量に吐き出しながら、ワームはその口から猛烈な毒気をまき散らす。だが、並の人間なら苦しむその毒気も、強靭な肉体を持つ地竜であるエルにとっては利きが悪いことは明白だった。




『我がその程度の毒気でくたばるかボケ!!」




 受けた毒気を無視しながら、エルは鋭いカギ爪をさらに振るい、ワームの白い肉体を縦横無尽に切り裂いていく。そして、切り裂きながらもさらに色々考えていく。




(眼球がないということは、ダンジョン内部で視界を必要としないから退化したにちがいない。そうなれば、代わりの感覚器官がどこかにあるはずだ。それは……これか!!)




 エルはワームの口の中に手を突っ込むと、その舌を引きずり出し、それを無理矢理力づくで引きちぎる。


 これこそがこのワームの探知器官、蛇のピット器官と同様の器官である。それを無理矢理引きちぎられたのだからたまったものではない。盲目同然となったワームは舌から体液をまき散らしながら暴れ狂う。


 それに対して、ワームは怒り狂って襲い掛かろうとするが、その横にユリアたちが射撃したクロスボウの矢が突き刺さる。


 機械でクロスボウを巻き上げて、さらにどんどんと矢がワームの肉体へと突き刺さっていく。




 そんな中、エルはワームの口の上部あたりを鉤爪で真横に切り裂く。そこから出てきたのはワームの退化した複眼、「眼球」だった。


 元々地中で暮らすワームたちは眼球があるものの、暗闇に適応するために複眼を退化させ、蛇のような舌先のピット器官を進化させたのだ。


 退化して不必要になった眼球が露わにされ、ダンジョンのヒカリゴケの真昼のような光でも、ワームにとっては凄まじい激痛になって襲い掛かる。




『グギャアアアアアアア!!』




『今だ!食らえボケが!!』




 激痛にのたうち回っているのを見て、エルは一気に首元に鋭い牙で深々と噛みついて、そこを引きちぎながら、さらに鉤爪でワームを縦横無尽に切り裂いていく。


 そして、退化した眼球に爪が叩き込まれた後でワームは悲鳴と体液をまき散らしながら地面に倒れ伏す。


 だが、倒したエルの方も別に意味でピンチであった。


 それは、自分自身のエネルギーの問題、すなわち空腹である。


 普通の体から小型化するには何の問題もない。だが、小型化から元の体に戻るのは、ただでさえ小さな体でエネルギー総量が少なくなっている。


 その上で大暴れなんてすればエネルギーを使い果たして当然である。




『ぐ、ぐぅうう……。お腹減った……。パワーが出ない……。小型からいきなり大型になるとこういう欠点があるからなぁ……。』




 巨体であればあるほど、当然ながら巨大なパワーを必要とする。小型から大型化して戦えば膨大なパワー、エネルギーが必要となるが、小型化しているときにはそこまで大きなエネルギーは大きさ的に蓄えられていない。


 そのため、小型化から大型化して戦うとエネルギー不足に陥るのが欠点であった。




『……ワーム、食うかぁ!!!』




「た、食べるんですか!?芋虫ですよこれ!!しかも毒を持ってるし!!」




『こういう生き物は毒腺を持っているから、そこさえ食べなきゃ何とかなるだろ。


 それに小型化しているからごく一部でいいし。とりあえずワームの肉体を切って肉をもってきて。』




「本当にやるんですか……?マジで……?」




 芋虫だって食べる文化風習のところだってあるやろ。


 ユリアたちはナイフを使って恐る恐るワームの肉を切り取り、それを細かく四角の肉片に切り分けて、水や保存食の干し肉などと共に鍋に入れる。


 干し肉だけでよかったんじゃ……?というセリアの視線を感じるが、それだけでは到底カロリー、エネルギーが足りない。何としてももっとカロリーを取る必要があったのだ。




『《食料浄化》《調理》ッ!!』




 エルがそう唱えた瞬間、瞬時に干し肉やらワームの肉やらが魔術で調理され、簡単なシチューへと変化する。


 エルはよろよろになりながら、そのシチューへと口をつける。


 食料浄化をかけているため、例えワームの肉に毒があったとしてもそれも問題なく浄化されているはずである。


 酷い飢えに苛まれているエルはそのワームの肉入りのシチューをガツガツを瞬時に食らいつくす。




『ぐぁああ!肉がぶにぶにしてマズッ!!ぶにぶにして歯ごたえがなすぎる肉がこんなに食感がマズいと感じられるとは予想外だった!!』




えぐえぐと泣きながらエルはそれに口をつける。ワームの肉を混せずに干し肉だけでシチューを作るべきだった、と半泣きしながらエルは何とかそれを食べていく。


(前世のネットで)芋虫はクリーミーで美味しいっていたじゃないですか!やだー!と彼は心の中で叫んでいた。




「あ、あの……。一応念のため燻製した魚を持ってきましたので、これをどうぞ。あとは口直し用にドライフルーツとかも……。」




それをあまりに見かねたのか、ユリアは自らの荷物からドライフルーツなどをエルに対して差し出す。彼女にとってもこれはある意味切り札だったのだろう。




『あ……ありがてぇ!ありがてぇ!』




エルはえぐえぐと泣きながらドライフルーツなどを口直しに食べていく。


その味の素晴らしい事!やっぱり果物は最高や!と彼はその味を噛み締めていた。






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