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第15話 地帝シュオールと空帝ティフォーネ



 ―――大迷宮より遥か遠く。竜が開いた国家である『竜皇国』


 亜人や人類たち、竜人たちが共存し、竜がトップに立つこの国は他国からは怪物が統治する国とされ、他の国からは白い目で見られていたが、それでも何とかそれなりの一定の地位を治めているには至った。


 かつての昔、光と闇の主神たちの神々の戦いのさい、お互いに敵対する神々を滅ぼす生体兵器として召喚され、逆に神々の肉体すら滅ぼしてこの世界から放逐した、この世界自体が産み落とした火水地風を司る4柱のエンシェントドラゴンロード。


 空帝ティフォーネ、地帝シュオール、炎帝イェンディー、水帝ミィマイェネィ。


 主神すら滅ぼした彼女たちに支配欲があれば、この世界は竜が統治し、人間たちは、竜の奴隷になっていたかもしれない。だが、そんな事に無関心な彼女たちは、自らの役割である自然界のバランスを整えるため、各地に潜んでいた。で、そんなエンシェントドラゴンロードたちが何をしているかと言えば……人間の姿になって優雅にお茶を飲んでいた。少なくとも、ここに存在している二柱は。




「……それで?貴女も息子を一人立ちさせたと?まあ、どこも大変ですね。私と一緒で単為生殖で生んだ子でしたっけ?」




 竜皇国の街内のカフェで悠々と足を組みながらカップに口をつけている純白の絶世の竜人の美女。竜人でも見惚れるような巨大な翼、見事な角、純白の立派な尻尾をもつ彼女は、この国を統べるリュフトヒェンの母である、風を支配するエンシェントドラゴンロード、空帝ティフォーネである。


 息子も事実上一人立ちした状態の彼女は悠々自適に食道楽の日々を過ごして好き勝手生きている。


 そして、その前にいるのは、どことなくティフォーネと似た容貌の茶褐色のロングヘアを緩やかなウェーブにしている、緑色の瞳をした美女、彼女こそエルの母親である地を支配するエンシェントドラゴンロード、地帝シュオールの人間形態である。


 彼女は机にふっつぷし、頭を抱えながら言葉を放った。




「うむぅ。心配なのじゃ心配なのじゃ~。あの出不精の息子がきちんと一人立ちできるかどうか……。お主のいう通りにぽーんと放り投げてみたけど大丈夫かのう。」




「貴女は息子にダダ甘なんだからそれくらいでちょうどいいのでは?


 まともに一人立ちするために何年か訓練を積ませてきちんと一人立ちするなんてことしてたら「可愛い息子を独り立ちなんて~!!」なんて云々言い出すと思いますよ?」




 優雅にティーカップを口にするその姿はまさに絵になる姿だったが、彼女は面倒くさいといわんばかりに、ティーカップを置き、傍にある大型のティーポットを手にすると、そのままビールよろしく直接口をつけてゴクゴクと一気飲みする。


 そして、ゴクゴクと飲み干した後で、ドン!とテーブルにそれを置き、ウェイターに注文を頼む。




「この程度では足りませんね。後十杯ぐらい持って来てください。もちろん、この大容器で。」




 周囲から異常な目で見られながらも、そういうところじゃぞ、と思いながらも、ぐぬぅとシュオールはカエルが潰れたような声を出しながら、だらしなく机の上に顔を乗せる。確かにティフォーネのいう通りである。


 本来はしばらく独り立ちのやり方を教えて自立させるのが普通ではあるが、ティフォーネのいう通りになりそうな可能性もあったので、ここは思い切ったのである。




「まあ、とはいえちょくちょく面倒を見たり、陰ながら支援するのには問題ないのでは?私もちょくちょくあの子の面倒は見ていましたし。それならどこにも文句は言われる筋合いはありませんから。」




 竜にとって一人立ちは重要ではあるが、別段親が陰ながら力を貸すことまで禁じられてはいない。そもそもそんな細かいルールまで定められていない。


 それなりの力をつけて、独り立ちして力を誇ることができれば別に問題なのでは?というのが竜族の考え方である。




「私から正直に言わせてもらえば、貴女は何事につけて甘い。国の3つや4つ滅ぼすなり、人間たちを数千人血祭りに上げて、我々の武威を示す時では?


 かつて闇の主神にブラックホールキャノンブレスを叩き込んだ時の威勢はどこにいったんですか?ああ、あれは実に痛快でしたね。闇の力なら我が制御できる!と言いながら闇の主神がまともにブラックホールキャノンを食らった顔は実は見ものでした。」




 くっくっく、とティフォーネは珍しく愉快そうに下を向いて笑いを押し殺しながら笑っているのを見て、シュオールは(何億年前の昔の話しとるんじゃこいつは。)という顔になる。この世界の風を司る空帝ティフォーネは、気性が荒い暴風神としての側面が強い。古来より暴風神は気が短く、喧嘩っ早く、気性が荒いと相場が決まっている。荒れ狂う自然の具現化とも言える彼女には、人間の命など文字通り嵐の前の塵のような物だ。


(当の本人も人間の命など欠片も価値を覚えていない)


 彼女たちは、言うなれば自然界の化身そのものであり、主神クラスの力を誇る。その気になれば大災害を起こして人類社会に大きなダメージを与えることができるだろう。




「お主そんなこと言っていいのか?そんなことやったらお主の息子から大抗議が来て勘当されかねないぞ?人間の命などどうでもいいお主でも実の息子に嫌われるのは困るじゃろ?」




 びしっ、と指先を突き付けられて、ティフォーネも、む、と彼女にしては珍しく眉を顰める。


 この竜皇国を作ったのは、ティフォーネの息子のリュフトヒェンであり、ティフォーネが好き勝手暴れまわれば、当然そのしわ寄せは息子に降りかかる。


 いかに天上天下唯我独尊である彼女でも、息子に負担をかけるのは本意ではない。




「む、確かにそうですね。それに別段こちらに危害が与えられない限りやりませんよ。人間はどうでもいいですが、彼らの作り出す物……料理などには私も価値を認めています。それがなくなるのは面白くありませんですしね。……むやみに暴れると息子から怒られるし。」




「それで、そちら……大迷宮の近くでも確か我々に対抗する神器が存在していましたっけ?全くあんなデカブツごときで我々を抑止できるとは笑止の極みですね。貴女が本気を出せば人類の国ごと木端微塵に粉砕できるでしょうに。まあ、私のところにもありましたが、面倒だからやりませんでしたが……。」




 肉体が滅んでしまった神々だが、それでも、エンシェントドラゴンロードである彼女たちを抑止するために『神々の武器』を与えて人類たちを守る武器とした。大迷宮に潜む地帝シュオールを抑止するために、神々は自らの武具を移動させて近くの人間たちに与えて、それをきっかけにその地域に王国が誕生したのだ。


 人類至上派にとっては崇めるべき絶対的力を持った神々の武具だが、彼女たちにとってみれば「警戒すべき対象」でしかない。


 だがまあ、彼女たちにとってどうでもいいことである。それらを使って自国の勢力拡大を行っている国もあるらしいが、彼女たちからしたら「何やってるんだあいつら?」である。




「ま、とはいえいい気分転換になったのでは?相談ぐらいなら乗りますよ。


 私たちは世界に4体しか存在しない仲間なんですから。……水帝と炎帝は何やってるか知りませんけど。」




 優雅にぐびぐびと紅茶を飲むティフォーネに対して、シュオールは、はぁ~とため息をつきながら頭を抱えてる。




「全く一番気ままで気まぐれなお主とは連絡が取れて、比較的常識的な水帝と連絡が取れぬとは。どうせその辺の大海でもウロウロしてるんじゃろうが。炎帝も切れると一番やばい奴じゃから放置はまずいと思うんだが……。ああもう、お主のお気楽さが羨ましいわい。」




「そんなの好き勝手にやらせればいいじゃないですか。私たちを縛る法律やルールなんてどこにもないんですから。むしろ自然の具現化である私たちが大人しくなっているだけ人類は私たちに土下座して平伏してもらいたいですね。」




 彼女たちはこの世界の四大元素の具現化であり、同時にそれらを統べる存在であり、自然界のバランスを整えたり、浄化したりそれぞれ活動している。


 もし彼女たちが一柱でも滅んだらこの世界は真っ先に滅亡へと向かうことは間違いない。もちろん、人類至上派などはそんなことは知る由もないだろうが。




「はぁ、ともあれ愚痴ってすっきりしたわ。それじゃまだ来るからな。ワシがいない間暴走するんじゃないぞ?それじゃあの。」




 はあ、とため息をつきながら、シュオールはパン、と両手を合わせ、それを放つと両掌の間に漆黒の球が浮かび上がる。


 時空間を歪め、それによりこの世界のあらゆる場所に転移できる能力。彼女たち皆が持っている能力だが、彼女は重力子を操り、空間を歪める事により世界のあらゆる所に瞬間転移できる。


 彼女はこの力を使用して、別大陸に存在するこの国へと瞬間転移してきたのである。瞬時に姿を消したシュオールを見ながら、そこに一人残ったティフォーネは、再度ティーポットを一気に煽って飲み干すと、ドン!とテーブルの上に置いて、ふむ、と腕を組んで考え込む。




「ふむ……。シュオールの息子となれば他人ではありませんし、面白そうですので、ちょっかいをかけてみるのも面白いかもしれませんね。ちょっと試してみますか。」




 それだけ呟くと彼女も同様にシュン!と瞬間転移で姿を消していった。


 そして、彼女の座っていた場所には、代金代わりの大ぶりの宝石がころり、と転がっていた。




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ティフォーネ「私たちが実在してるのに人類至上派とか頭がおかしいとしか思えませんね。これはとりあえず国を2,3個滅ぼして人類に”分からせ”が必要でしょうか?」←彼女(竜)からの視点





お読みいただきありがとうございます。




面白いと感じていただけたら、☆☆☆やフォローをいただけると嬉しいです。




モチベにも繋がりますので、できましたらよろしくお願いいたします。

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