第108話 ミストルティン対ティフォーネ。
ゴウンゴウンと後方に存在するスラスターを放出しながら、ゆっくりとミストルティンは進軍していく。
本来はもっと早く動けるのではあるが、その威容を愚民どもに見せつけて、彼らの逆らうなどといった意識をへし折るのがその目的である。
数百メートルにも渡る巨大空中要塞がゆっくりと飛行するだけで、猛烈な威圧感が下にいる市民たちを押しつぶさんと影で包み込んでいく。
市民たちはそれを不安げに見上げているしか手段はない。
強大な力によって叩き潰されないか祈るしかないのだ。
しかもわざわざそれぞれの都市の上を威圧するようにゆっくりと飛行しているのだ。
《うわぁ………。こいつはすげぇや。空飛ぶ城塞都市じゃん………。》
《あんなもんが飛ぶとは神の力は凄い。》
《中立派の村の近くに雷撃を落としたり威嚇してるんだっけ?あんなもので威嚇されたらそりゃ腰抜かすわ。》
本来は中立派の村など叩き潰したかったのだが、あくまでも威嚇で済ませたのは教授の言葉である。彼の考えからすれば、一つ裏切り者どもの村を叩き潰しただけで十分。あとは威嚇で済ませればいい、という考えだったのだが、文字通りの【神の力】を手にしたノインはまさに絶頂状態を迎えていた。
「教授も弱気な!!逆らう者たちは全て踏みつぶして屍の山を作り上げればいい!全ての人類を私より不幸にしてやる!!幸福にするのは難しいが、不幸にするのなら簡単だ!皆不幸にして皆公平な人生にしてくれる!!」
しかし、そうは言う彼女も教授のいうことには逆らえない。適当に魔術による砲撃を中立派の村や街近くに放ちながらどんどん前へと進んでいく。このまま後は火力で辺境伯軍を吹き飛ばして殲滅すればいい。
何なら辺境伯領に何発が主砲を叩き込んで自分たちの愚かさを思い知らせてやる。
辺境伯領に叩き込むのなら上層部も教授も文句はいうまい。私が手にした神の力を思う存分振るってやる、とノインは心の中で舌なめずりした。
と、そんな空を我が物顔で飛行している空中要塞であるミストルティンの前に、それを妨げんと、一人の竜人が翼を広げて浮遊しながら腕組みをしながら待ち構えていた。
巨大な空中要塞ともいえるミストルティンの前では、たかが人……竜人ごときハエ、いや、それ以下のコバエ以下の存在でしかない。
だが、その純白の腕組みをしながら浮遊している竜人を見て、ミストルティンの内部の全レーダーがそれを感知した瞬間、機体内部で、緊急事態を示す警報を鳴り響く。
機体内部の全ての警報が鳴り響く中、担当者が声を上げる。
「……前方に超高出力の魔力体出現!!機体内部に目標データあり!!
目の前の存在は……エンシェントドラゴンロードです!!」
それと同時に、腕を組んでいる竜人の女性、ティフォーネはにぃいと不敵に微笑みながらミストルティンと対面することになった。




