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超短編集〜雫のかたち〜

作者: 今河

十和子のはなし


 木の枝にひっかかった風船が、自身と重なった。


 保育士を続ける十和子は、結婚12年目になる。

 子どもはいない。


 何で私だけ…。

 同級生の出産祝いを届けた後、ふと公園に立ち寄った。


 「あれを誰かがとってくれたら、吹っ切れそう」


 二時間後、十和子は街中を歩いていた。


 赤い風船を片手に。


 ………………………………………


友紀子のはなし


 姥捨山の風習は、友紀子の村にも存在した。


 瀬田家から寄贈された書物に記されていたのだ。


 「資料館の目玉にしよう」


 学芸員として胸が躍ったが、ハッと手を止めた。


 滲んだ墨から伝わる無念さ。


 そこには息子から母への思いが詰まっていた。


 友紀子は、書物をそっと開かずの保管庫にしまった。


 ………………………………………


奈津子のはなし



 昼下がり、奈津子は保健室で本を読んでいた。

 ここだけが心の拠り所だ。


 「熱心だね」


 仕切り越しに男子が話しかけてきた。


 「ただの読書だし」

 「それも勉強さ」


 会話が弾みかけると、先生が戻ってきた。


 「誰かいるの? 」


 空のベッドの側で、いたずらに風がカーテンを揺らしていた。


 ………………………………………


武志のはなし



 塀から出て目に飛び込んだのは、刺すような空の青だった。


 武志は幼少期から暴力に明け暮れていた。

 その度に金で保釈されてきたが、遂に途絶えた。


 親への殺人未遂で捕まったのだ。


 刑務所は、虐待が当然だった家庭よりずっと豊かだった。


 空を見上げると、口笛がこぼれた。


 真の自由を祝って。


 ………………………………………


貴也のはなし



 爽やかな朝に反して、貴也の家は騒々しかった。


 また妻がパンを焦がしたのだ。


 仕方ないから米を炊いた。


 「全く俺がいないと何もできないって…保護者じゃねぇぞ」


 そうつぶやくと貴也は出社した。


 暫くして、妻が気づいた。玄関にはぽつんと弁当が一つ。


 「全く私がいないと何もできないんだから」

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