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【完結】龍馬が愛した打ち上げ花火  作者: 上下左右


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第四章 ~『幸せになった未来』~


 坂本が亡くなってから十年が経過し、僕は二十六歳になった。非社交的な僕がまともな社会人になれるか心配だったが、剣道の推薦のおかげで大学へ進学し、そのまま母校で高校教師になった。


「才谷先生、おはようございます。今日も表情が暗いですね」

「おはよう。それと暗い顔は生まれつきだ」

「ふふ、それは失礼しました」


 女子生徒が廊下を走り去っていく。その元気な背中はまるで坂本を想起させた。彼女もまた周囲に笑顔を振りまいていたからだ。


「さぁ、授業しないとな」


 僕は教室に入ると、教卓の前に立つ。僕の担当は日本史だ。といっても、勉強が苦手だった僕だから、教えるのは正直得意じゃない。


 でも生徒たちには好評だった。実体験してきたような記憶を元にエピソードを語るので、リアリティを感じるのだそうだ。


 生徒の成績が上がれば、僕のボーナスも上がる。記憶を追体験する能力も役に立つものだと、自分の才能に感謝した。


 定時を授業で終えると、放課後は剣道部の指導者としての時間だ。


 全国から集まってきた剣士の卵たち。彼らに僕の剣を叩きこむ。才能の原石は磨かれ、剣道部は全国トップクラスの成績を収めていた。


「才谷くん、いるかい?」

「立川さん! 来てくれたんですね!」


 剣道部の指導にはOBも力を貸してくれている。立川を始め、杉田や大崎などの先輩たちが熱心な指導をしてくれるのだ。


 母校の日本一の座を不動のものにする。高校を卒業しても、その熱い想いは変わることがなかったからだ。


「才谷くんの指導のおかげで、今年の剣道部は仕上がっているな。これなら海王高校に後れを取ることもないか」

「油断はできません。なにせ海王高校の指導者はあの藤田ですから」

「君の永遠のライバルだからな」


 高校三年間、僕は藤田と闘い続け、すべてに勝ち続けた。だが彼は僕への勝利を諦めることはなかった。選手としての時間が終わっても、指導者として闘いを挑んできたのだ。


「でも負けません。藤田には生涯、勝ち越し続けると決めていますから」

「才谷くんも変わったな」

「かもしれませんね。これも坂本のおかげです」


 悔いのない人生を過ごして欲しい。坂本の残した遺言は、僕を強くしてくれた。藤田への勝利に固執するのも、きっと一度でも負けると悔いが残る。そうならないようにするためだ。


「変わったと言えば、小泉の進路を聞いたかい?」

「エリート人生をまっしぐらですよね」


 高校を卒業した小泉は、その要領の良さを生かして、東大に合格した。そのまま上場企業に就職し、勝ち組としての人生を謳歌している。


「その話じゃない。小泉の恋人の話だ」

「高校の時は女子大生の恋人がいると聞きましたが、それ以降の話はなにも……」

「その女子大生とは破局したそうだ。その後、知り合った看護師と結婚したそうだが、君も知っている、村田という女性だ」

「え!」


 小泉が年上好きだとは薄々気づいていたが、まさか村田と結婚するとは思っていなかった。世の中は意外と狭く、運命的だと感じさせられた。


「その小泉夫妻だが、今夜花火を見に来るそうだ」

「一年に一度の牡丹花火ですからね」


 今年の龍馬記念杯も優勝を果たすことができた。その成果として、今夜も花火が打ちあがるのだ。


 村田はどんなに忙しくとも、一年に一度の花火の日だけは忘れない。それは僕も同じだ。今夜だけは僕のスケジュール帳も埋まっている。


「じゃあ、僕はいつもの場所へ向かいますね。剣道部は頼みます」

「任された」


 指導を切り上げた頃には、夜の帳が落ちていた。肌寒さを我慢しながら、恒例の場所を訪れる。


 そこは坂本が眠る墓地だ。毎年、この日になると僕は彼女の墓の前で打ち上げ花火を鑑賞する。まるで彼女が傍にいるかのような感覚を覚えながら、夜空を見上げる。


「坂本さん、君の願い通り、僕は幸せになれたよ」


 僕は平凡な人間だ。だから龍馬のような偉業を成し遂げることはできない。でも自らの幸せを掴み取ることはできた。


 坂本がいてくれたから、内向的な性格を変えることができた。おかげで大学も就職も果たすことができた。それに結婚も。


「あなた、ここにいたのね」

「君が来るのを待っていたよ」


 僕は坂本の友人の山崎梨花と結婚した。


 仲良くなったキッカケはありきたりなものだ。坂本の墓参りに訪れていた僕らは話す機会も多かった。おかげで意気投合し、恋人関係となったのだ。


 最初は坂本への負い目があった。新しい恋人を作ってもいいのかと悩んだ。でも僕は遺言に残された君の願いを信じることにした。奥さんと子供に囲まれて幸せに暮らす。僕は君との約束を守ったんだ。


「牡丹、私こいつと結婚しちゃった。親友から恋人を奪うなんて酷い女だって怒るかな?」

「坂本さんなら祝福してくれるさ。なにせ僕が世界で一番愛した女性だからね」

「あら? なら私は?」

「二番だね」

「正直ね。でも許すわ。なにせ相手は牡丹だもの」


 梨花も僕と結婚したことに負い目はない。彼女は胸を張って、僕と生涯を共にすることを誓ったのだ。


「そうだ、私たちの新しい家族を牡丹に紹介しないとね」

「だね。坂本さん、聞こえているかな。僕たちの間に赤ん坊が生まれたんだ。名前は君から貰って、牡丹にしたんだ」


 梨花が胸に抱いている赤ん坊はスヤスヤと眠っている。きっと将来、坂本のような優しくて美人の女の子に育つに違いない。


「そろそろ花火が打ちあがる時間ね」

「だね」


 時計の秒針が打ち上げ時刻に迫っている。僕が上を見上げると、夜空に牡丹花火が咲いた。


「綺麗ね」

「もちろんさ。なにせ坂本さんの愛した打ち上げ花火だからね」


 空を彩る景色を僕は目に焼き付ける。きっと天国の彼女も、この光景を見ているに違いない。僕はそう信じていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

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