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【完結】龍馬が愛した打ち上げ花火  作者: 上下左右


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第四章 ~『火葬場と遺言』~


 日が落ちるのが早くなっているせいか、外は肌寒くなっている。空も薄暗く、火葬場では煙突から白煙が天に昇っていた。


 次は坂本の番かと思うと、しんみりとさせられる。彼女の肉体がこの世にいられる時間はもう残り少ない。


 僕らは火葬場の中へと案内される。


 ここの火葬場では台車式と呼ばれる、棺と台車を一緒に焼く方式が採用されていた。火炉の中に坂本の遺体は吸い込まれ、僕らは火葬が終わるまで、目を閉じて待ち続ける。お葬式で泣いたおかげで涙はでないが、胸の苦しさは止まることがなかった。


 数分後、台車が引かれ、焼かれた遺骨が僕らの前に並ぶ。その瞬間、無意識のうちに目尻に涙を溜めてしまった。骨壺に収められていく坂本の骨は美しく、生前の彼女の白い肌を想起させたからだ。


 火葬を終え、僕らは外に出る。少しの時間しか経過していないはずなのに、肌寒さと薄暗さが増していた。寒さに耐えるために身を縮めていると、見知った人物から声をかけられる。


「才谷くん、ちょっといいかしら」

「村田さん……」


 坂本の担当看護師だった彼女もまたお葬式に招待されていた。目が真っ赤に充血しており、先ほどまで泣いていたのだと分かる。


「牡丹ちゃん、亡くなっちゃったね……」

「看護師の村田さんでも人の死は特別ですか?」

「妹みたいに可愛がっていたからね。もっと長生きして欲しかったなぁ」

「ですね」


 何度も願ったことだ。しかし祈りが届くことはなかった。非情な現実を二人でしっかりと噛み締める。


「実はね、才谷くんに手紙があるの」

「村田さんからですか?」

「馬鹿。私じゃないわよ。牡丹ちゃんに決まっているじゃない」

「坂本さんから……でも僕は最後まで一緒にいましたよ」


 わざわざ手紙で伝えなくても口頭で伝えればいい。そう口にすると、あきれ顔が返ってくる。


「女の子はね、恥ずかしがり屋なの。口で伝えられないことだから、手紙で残してくれたのよ」

「なるほど。村田さんに預けていた理由もそれですね」


 坂本自身で手渡すのが恥ずかしから、代理を頼んだのだ。僕は手紙を受けとり、中身に目を通していく。そこには懐かしい坂本の字が並んでいた。


『これは私からの最後の手紙です。遺言だと思って読んでください』


 無意識の内に手紙を持つ指に力が入る。一言一句見逃さないように注視する。


『私はこの世から去ります。死ぬのは怖いですが、才谷くんがいてくれるから勇気が湧いてきます……だから私、平気な顔で死ねたでしょ?』


 死を恐れない人間なんていない。だが坂本は心配させないために、微塵も恐怖を表に出そうとはしなかった。改めて立派な人だったと実感する。


『私は幸せでした。でも才谷くんはどうですか? どうせ君の事だから幸せになんてならなくていいと、ひねくれたことを言うかもしれません。ですが、どうか私のために幸せになってください。これは私との約束だから、破っちゃ駄目だからね』


 一方的な約束だが、坂本らしいと笑みが零れる。坂本は亡くなる直前まで僕の幸福を願ってくれていた。病気で苦しいはずなのに、僕のことを想ってくれる彼女は、心から優しい人だった。


『それと悔いのない人生を過ごしてください。龍馬や私のように途中で亡くなるのは駄目だからね。健康で安らかに生きて、子供や奥さんに囲まれて暮らしてください。でも……たまには私の事を思い出してね。天国からちゃんと見張っているから。絶対だよ』


 僕なんかを好きになってくれた女の子のことを、忘れられるはずがない。墓参りだって欠かすものか。


『最後に、私は才谷くんを愛せて幸せでした。きっと君も同じ気持ちだったと信じています。だから……今までありがとう』


 手紙は感謝の言葉で絞められていた。僕の目尻から零れ落ちた涙が手紙を濡らす。死を直前にしても、僕の心配ばかりする彼女のことを好きになれて本当に良かった。


「ありがとうございます、村田さん。この手紙は僕の宝物にします。そして……僕は幸せになります」


 僕は煙突から空へ昇っていく煙を眺める。夜空に向かって舞い上がる白煙は、まるで花火のように美しかった。



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