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【完結】龍馬が愛した打ち上げ花火  作者: 上下左右


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第二章 ~『坂本と家族風呂』~


 坂本に連れられて、寺田屋近くの家族風呂がある宿を訪れる。受付でお金を払い、さっそく風呂場へと向かう。


「坂本さん、ここまでで大丈夫だよ」

「ん? どうして?」

「どうしてってさすがに男女が二人、一緒のお風呂に入るわけにいかないだろ」


 僕たちは恋人同士でもなければ、家族でもないのだ。一緒のお風呂に入れるはずもない。


「え~、才谷くんだけズルいよぉ」

「なら君が先に入りなよ。僕は君が出てから入ることにするよ」

「何を言っているの。一緒に入るために来たんだよ」

「まさか……」


 君は痴女なのかと、僕は喉まで上がってきた言葉を飲み込む。


「もちろんタオルで隠すし、才谷くんには目を閉じて貰うけどね」

「そういうことか。でも目を閉じてのお風呂は危ないと思うよ」

「大丈夫。私が君の手を引いてあげるから。それに才谷くんほどの剣の達人なら心眼を使えるでしょ」

「僕を一体何だと……あと心眼を使えたら見えちゃうでしょ」

「心眼なら特別に許可します」


 これほど意味のない許可もない。


「分かった。僕の負けだ。君に従うよ」

「才谷くんの最後には折れてくれるところ、私、大好きだよ♪」


 やれやれと、僕は坂本の強引さに負けて、服を脱ぐと、全身をタオルで隠す。目を閉じて、彼女の方を振り向く。


「才谷くん、私、まだ着替え中だよ」

「目は閉じているから問題ないよ」

「心眼で見えてない?」

「さっき許可は貰ったでしょ」

「タオルで隠しているならともかく、さすがに裸は恥ずかしいからね」


 坂本は準備ができたのか僕の手を引いて風呂場へと向かう。真っ暗闇だが顔を湿らせる湯気が風呂場に入ったのだと教えてくれる。


 かけ湯をして二人はお風呂に入る。暖かい湯が全身を包み込んだ。


「良いお湯だねぇ」

「そうだね」

「それにしても才谷くん、よく躓いたりしなかったね?」

「達人だからね」

「さすがは龍馬を経験した男だね」


 他愛のない会話。視界を閉じているせいで、周囲の景色を伺えないが、代わりに他の五感が鋭くなる。肌を流れる温泉の心地よさが普段以上に染み渡った。


「温泉に入るのも、これで人生最後かも……まさか男の子と一緒のお風呂に入る日が来るなんて夢にも思わなかったよ」

「それは僕の台詞だよ。女性と一緒に、しかも坂本さんと一緒に入るとは思わなかった」

「私だと何か特別な意味があるの?」

「それは……」


 君のことが苦手だったとはさすがに答えられないので、上手く言い訳を頭の中で捻出する。


「坂本さんは人気者だろ。僕のような日陰者とは住む世界が違うからね」

「それは……私と一緒だから一層嬉しいってこと?」

「まぁね……そうなのかも……」

「煮え切らないねぇ」

「それが僕の個性だからね」

「ふふふ、確かに才谷くんらしいや」


 坂本は小さく笑うと、僕に肩を寄せる。目を閉じていたために触感が鋭くなっているからか、彼女の体温がしっかりと感じられた。


「才谷くん、知っている? 坂本龍馬も鹿児島の霧島温泉に新婚旅行で訪れたんだって」

「知っている。確か日本で初めての新婚旅行なんだよね」

「霧島神社の参拝とツツジの咲く光景を楽しんだとか……私ももっと長生きできたら、才谷くんと一緒に霧島温泉に行ってみたかったなぁ」


 湯船に水滴がポトポトと落ちる。それが坂本の涙だと、僕は震える肩から察する。


「君は……本当に死ぬの?」

「もちろん」

「それにしては嘘なんじゃないかってくらい元気だね」

「でも死ぬの。来年のこの時間、私はこの世にいないんだよ……」

「…………」

「死にたくないなぁ」

「僕も君には生きていて欲しい」


 どうして苦手なはずの坂本にこんなことを口にしたのか自分でも分からなかった。二人の間に静寂が流れる。彼女は僕の肩に頭を乗せた。


「ねぇ、才谷くん、これから君が経験する寺田屋事件はどうして起きたか知っている?」

「幕府の敵である長州と、強大な戦力を持つ薩摩に手を組むよう暗躍していたのが龍馬だったからだね」

「薩長同盟のために頑張っていたのに可哀想だよね」

「うん。だけどその頑張りは幕府にとって不都合だった。だから彼を殺そうと幕府が龍馬に刺客を送り込んだんだよ」

「え? なら龍馬の記憶を追体験している才谷くんも危ない目に遭うんじゃ……」

「それなら大丈夫さ。僕はあくまで意識だけ龍馬の人生を体験しているだけだからね。それに龍馬が死なないことは歴史が証明しているから、何も心配いらないよ」

「…………」

「ならそろそろ行ってくるよ。僕の身体を頼んだよ」


 僕は能力を発動させ、意識を記憶の世界に飛ばす。次なる坂本龍馬の人生へと意識が移り変わるのだった。



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