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王と王太子の秘密会談

少し短めです

グランチェスター侯爵が王の部屋を辞去すると、ゲルハルトは深く安堵のため息を吐いた。


「アヴァロン王、こたびの件の対応に深くお礼申し上げます」

「いや、こちらとしても貴国との衝突は避けたい。これは最善策であろう」

「公の場で証言される前に、お呼びいただけて良かった」

「ゲルハルト殿からの報告を考えれば当然だろうな」


実はゲルハルトが秘密裡にアヴァロンに訪れたのには理由があった。それは、国内の一部の貴族たちが、王位継承権を放棄して公爵となった第三王子を担ぎ上げる動きがあるせいだ。


「本来であれば公爵に王位を継いでいただきたかったのですが…」

「やはり兄弟を手にかけたことを悔やんでいるのかね?」

「兄弟というより、事件に罪のないものを巻き込んでしまったことが原因のようです」

「派閥の粛清ともなれば、巻き込まれてしまう者がでるのも致し方ないだろう」

「それに、彼が王位を継ぐことを正妃様も反対されました」

「実の母親に? そもそも正妃の母国の立場を考えれば、公爵に継いでもらいたいと思うものなのだと思うのだが。もしかしたら母国からの干渉を止めさせるため、正妃が賢明な判断をしたのやもしれぬな」


それ以上の事情をゲルハルトは詳しく語らなかった。ただ、ロイセンの不穏な動きに呼応し、いくつかの小国が怪しい動きをしていることを警告しつつ、アヴァロンにゲルハルトを支持するか、さもなくば中立な立場をとって欲しいと依頼したのだ。


結果としてグランチェスターへの侵略行為はロイセンとは無関係であることを示すことができた上に、アヴァロンとロイセンの関係も良好なまま維持する方向で合意できた。


ゲルハルトへの支持まで取り付けることはできなかったが、代わりにゲルハルトはアヴァロン王に『正妃となる女性を紹介して欲しい』と依頼した。彼の正妃は数年前に病死しており、側室も持っていない。そこでアヴァロンの王族、あるいは有力な貴族の娘を迎え入れることで、アヴァロンの支持を取り付けるつもりであった。


ゲルハルトの亡くなった正妃は、政略結婚で嫁いできた幼い妻であった。まだ12歳という年齢から正式な床入りは先送りされていたが、それでもゲルハルトは彼女のために側室を置くことはなかった。


王弟の息子が王太子となることに不満を抱く貴族は多く、そうした勢力を抑えるために迎えた妻であったが、それなりに仲睦まじく過ごしていた。ところが15歳を目前に、彼女は流行り病でこの世を去り、以来3年ほどゲルハルトは独身である。


「とはいえ、ロイセンのこれからを考えれば、私は正妃様の母国以外から姫を娶らねばならないでしょう。やはり他国からの支持は必要ですから」

「若いのに気苦労の多いことだな」

「恐縮でございます」


アヴァロン王はゲルハルトに言質を与えることを躊躇していた。


「それにしてもグランチェスターか…」

「アヴァロン王?」

「いや、10年前に騒動の原因ともなったレベッカ嬢は、いまグランチェスター領に滞在しているのでな」

「それは…なんとも因縁深いことですね。非常に美しい方だと伺っておりますが、まだ独身でいらっしゃるのですか?」

「彼女は妖精との友愛を結んでいるから、見た目は成人したばかりの女性だよ。おそらく10年後もそう変わらないだろう」

「なんとも羨ましいことですね」

「妬む女性も少なくないがね」

「それは物凄く怖いですね」


王はしばし考え込むような様子を見せた後、顔を上げてゲルハルトと視線を合わせた。


「ゲルハルト殿」

「はい?」

「晩秋にはグランチェスター領で狩猟大会が開催されるはずだ」

「今回襲撃された箇所ですね?」

「そうだ。ロイセンを騙られたという名目もあることだし、参加してみないかね? 噂のレベッカ嬢も見れるぞ」

「ロイセンの王子は見たくないと思われるのでは?」

「そこまで狭量な女性ではないぞ。もう10年経つからな」

「そういうものでしょうか」

「ゲルハルト殿にも新しい出会いがあるかもしれんぞ。なにせアヴァロンの主要な貴族家が集まる大掛かりな狩猟大会だからな。ロイセンに嫁ぎたいと希望する女性がいれば、後押しするのは私としても吝かではないぞ」


王はニヤリと笑ったが、ゲルハルトは、爽やかな微笑みを浮かべるに留めた。


「私がアドルフ王子と同じ轍を踏むとは思われないのですか?」

「ふぅむ…ゲルハルト殿であれば、アドルフのような無理強いはしないだろう」

「恋とは儘ならぬものといいますからね」

「若いのぉ」

「恋に年齢は関係ないそうですよ?」

「なるほどな。確かに私はいまだに王妃に恋をしているな」

「それは羨ましい限りです。私もそういう方に早くお会いしたいものです」

「では決まりだな」


こうして今年のグランチェスターの狩猟大会には、とんでもない火種が放り込まれることになった。

サラ:せっかく火災から復活したのになんで火種よ!

西崎:恋の火花ってヤツかと

サラ:いらんわっ

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― 新着の感想 ―
嫌な予感……
[気になる点] 二の轍を踏むは誤りでは?同じ轍を踏む、二の足を踏む。
[一言] いかん。ヘタレよ、ここが踏ん張り時だぞ。下手すると国外に去られて、たまに会うことすら叶わなくなるぞ。
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