狩猟場の後始末 3
「そこまでやっても、非難する貴族家はいますよね」
「そうだな」
「祖父様は、そうした方々を抑える自信ありますか?」
「できるとは思うが…当分は五月蠅いだろうな」
「グランチェスターの敵は多いのですね」
サラと侯爵は顔を見合わせ互いに苦笑を浮かべた。
「狩猟場はどうしましょうね。火事があったことは報告すべきですが、狩猟大会には支障がない程度には整えないとダメですよね」
「まぁそうしてもらえると助かるな」
「レベッカ先生が、妖精に頼むフリをしてくれるそうなので、明日にでもちゃちゃっと終わらせます」
『木属性の魔法で育成してもいいけど、ポチに相談してみようかな』
「ちゃちゃっとなぁ…。サラは相変わらず非常識だよね」
「ロブ、失礼でしょ。サラさんはグランチェスターのために頑張っているのに」
「まったくだ。ロバートよ、お前も一緒にいってこい」
「はい。父上」
ロバートはばつが悪そうな表情で首肯した。
「ジェフリー」
「はっ」
「お前は敵国の兵士の護送の準備をしておけ。尋問を始めても構わんが、どうせ王都の連中が出張ってくる。無駄な手間はかけずともよい」
「承知いたしました」
「明朝、私は馬で王都に向かう。護衛を何名か選抜しておいてくれ。ただしお前はここに残れ。残党がいるかもしれん。警戒を怠るな」
「少人数で王都にお戻りになるおつもりですか!?」
「馬車よりも馬の方が速い。今回の報告は急がねばならん」
「危険です。それこそ残党が潜んでいるやもしれません」
「それでも行かねばならぬ。心配するな。サラほどではないが、私もそこそこ戦えるぞ」
『なんで私を引き合いに出すかな!』
「サラお嬢様、いっそ護衛の任に就かれますか?」
「何を仰ってるのですか!」
「「冗談だ(です)」」
侯爵とジェフリーは揃って豪快に笑っている。
「伯父様もそうですが、ときどきグランチェスターの男性はたちが悪いですよね」
「「「「お前(お嬢様)が言うな(ことではありません)」」」」
グランチェスター男子3人の声が見事に揃った。
「サラさん、それは男性に限った話ではないと思うの…」
レベッカの指摘は至極もっともであった。
晩餐のテーブルでは、グランチェスターの4人とレベッカ、そしてウォルト男爵とその娘が顔を合わせた。侯爵はベンジャミンも誘うつもりだったそうだが、男爵が『文官の癖に職務を放棄した挙句、森林火災を引き起こす原因になるなど。あのような愚かな甥に気遣いは不要』と誘いを断ったという。
男爵令嬢の怪我はすっかり回復しており、治療をしたレベッカに深く感謝の意を示した。そして、何故かレベッカの隣にいるサラをうっとりと見つめていた。
「ソフィア様とおっしゃるのですね…。本当に女性でいらしたのですね」
「はい。動きやすい服の方が良いかと男装しておりました」
「そのドレスもお似合いですが、いっそ騎士服をお召しになっても素敵だと思いますわ!」
『あ、これは、タカ〇ヅカの男役を見る目だ!』
思わぬところでファンを増やしてしまったようだ。
『ジェフリー卿もロブ伯父様もカッコいいのに何故?』
更紗の視点ではジェフリーやロバートは魅力的なイケメンではあるのだが、来年成人を迎える男爵令嬢からすると、2人は少々歳を取り過ぎであった。
実は父親のウォルト男爵の方は『どちらかが娘を気に入ってくれないかな』くらいの希望をもっていたが、娘の様子を見てあっさりと諦めた。娘に無理強いをしない点でいけば、貴族らしくない父親と言えるかもしれない。
「狩猟場の一部はレベッカ嬢の友人の力を借りて早々に回復することとなった」
「それは素晴らしいことですが、一部だけというのは?」
「今回の顛末を国に報告するには、森林火災について触れぬわけにはいかぬ。しかし、狩猟大会のことを考えると放置というわけにもいかんのでな」
「然様でございますか」
男爵は納得した表情を浮かべる。
「明日から狩猟場の回復を始めるそうなのだが、万全の状態に整えられるよう狩猟場に詳しい其方からレベッカ嬢とソフィアに指示を出してやってくれぬか」
「承知いたしました」
サラとレベッカは男爵に軽く会釈し、にこりと微笑んだ。
「今回の件は他国からの侵略行為であることが明白であるため、拘束している犯罪者たちの取り調べは、王国騎士団に引き継がれることになる。そのあたりの対応はジェフリーに任せるが、護送に必要な準備には手を貸してもらいたい」
「承知いたしました。ところで猟師たちの処遇はいかがすればよろしいでしょうか」
「暴徒に加わった者たちを赦すわけにはいかぬが、それ以外の者のことか」
「はい。普段から木こりへの不満を口にしていた者も多いため、火種を残しかねません」
「なるほどな」
侯爵はしばし考え、ロバートへと視線を移した。
「ロバート、其方に一任する。代官として収めよ。おそらく私は王室との交渉で手一杯になるだろうからな」
「わかりました。精一杯務めさせていただきます」
ロバートは侯爵に頭を下げたあと、ちらりとサラに目を遣った。同様に侯爵とジェフリーもサラを見ている。
『あー。この前の提案を実行する気満々っぽい』
ここにくる直前に、執務室で暴徒たちへの対応を問われた際、サラはいくつかの施策を提案したことを思い出した。おそらく侯爵もサラの提案をロバートにやらせるつもりなのだろう。
『手伝わされそうな予感しかしない。私は一刻も早く商会の仕事したいのに!』
サラはこっそりと嘆息せずにはいられなかった。
こうして晩餐は終了し、サラとレベッカは明日に備えて早めに部屋へと引き上げた。