お金の力で無双しろ
「サラお嬢様、妖精を呼んだ方が説明しやすいのではありませんか?」
不思議そうに首を傾げた武蔵を見て、グラツィオーソがサラに提案する。
「そうね。そこから説明しないとダメよね」
「妖精?」
サラは少しだけ目線を上げて妖精たちを呼んだ。
「みんな、出てきてくれるかな。どうせ近くにいるでしょ」
「いるわよ」
ミケが空中から腕だけをにゅるっと出して振った。
「悪いことをしたわけでもないのに、随分と控え目な登場ね」
「そこのヘンなのと距離を取ってるのよ。サラの魔力を注いでいるのはわかるけど、なんか濁った色をしてるわ。不愉快になるの」
するとポチがちょっとだけ顔を出した。明らかに警戒心剥き出しである。
「そいつからはイヤな臭いがする。淀んで腐った水の臭い」
「あらまぁ。武蔵ったら嫌われてるわね」
「なんで初対面なのにこんなに嫌われるんだ? ぬいぐるみが臭いってどういうことだよ」
「前世の業が深すぎて、魂が穢れてるんじゃないかしら。どうせこっちでも王様に憑いてロクなことしてなかったんでしょ。妖精に好かれる要素があるとは思えない」
「サラが大丈夫でオレがダメな理由がわからないんだが」
「本当に失礼なくまねぇ」
もしかしたら浄化できるかもしれないと、サラは武蔵に光属性の治癒魔法をドバっと注ぎ込んだ。
「うわっ。アチチ。いきなりなにすんだよ、めちゃくちゃ熱い。ちょっと失礼なことを言われたくらいで燃やすなよ」
よく見ると武蔵のお腹からぷすぷすと煙が上がっており、焦げたような臭いが漂っている。
「あらまぁ、光属性の治癒魔法を使うと焦げちゃうのね。おかしいなぁ。ガイアはあなたの魂を入れる器を光属性と水属性の魔石から作ってたはずなんだけど」
「サラ、くまの魂を取り巻いてる汚いモヤモヤが燃えたみたい」
「うんうん。臭いも少しマシになってるよ」
サラは武蔵を持ち上げて矯めつ眇めつしたところ、ぬいぐるみ本体は燃えたり焦げたりしている様子はない。
「身体の方は燃えてないみたいだし、ピンポイントでモヤモヤだけを焼却したのかしら」
「でも、まだ残ってるよ。内側からモヤモヤが滲みでてきてるみたい。多分、器に閉じ込めきれてないんじゃないかな」
「ガイアが作った器だから、たぶんわざと隙間を空けてるんじゃないかなぁ。このモヤモヤを浄化しつつ、魔力を注ぐ必要があるのかも?」
サラが手を翳すと、武蔵はジタバタと暴れてサラから逃げ出した。
「やめろよ。すげー熱いんだよ」
「でも、放っておくと魂が穢れ過ぎて消滅しちゃうかもよ?」
「せめて量を加減してくれ」
「面倒なこと言うなぁ……」
仕方ないので今度は光属性の治癒魔法と水属性の冷却魔法を混ぜ合わせるようにして、ゆっくりと武蔵の中に注ぎ込んだ。先程より魔力量を減らし、水属性を混ぜることで熱さを軽減できるかもしれないと考えたのだ。
「お、おぉ、なんかいいぞ。温泉に浸かってる感じだ」
「なんか一気に快適度が上がってるなぁ」
「ちょっとサラ! もやもやがそいつから離れて空中に漂ってる。ものすごくイヤな臭いがする!!」
ポチが猛烈に抗議し、ミケも耳を伏せて毛を逆立てていた。彼らの目線の先を追うと、空中に空気の淀みのような塊が見える。
「ゆっくりやると分離するのか。ハッキリ見えてるわけじゃないけど、何処にあるのかはなんとなくわかった」
サラは空気を淀ませている不吉なモノを炎属性の魔法で浄化するイメージで燃やし、残った灰のようなナニカを土属性の魔法で作った小さな銀の箱に詰めて空間収納に放り込んだ。
「なんだか使用済み核燃料を封じ込めた気分だわ」
「オレを何だと思ってるんだよ!」
「詐欺師で犯罪者で……この世界では悪霊ってことになるのかな。そう考えると、武蔵って、本当に酷い存在よね。ガイアに頼まれたんじゃなかったら、とっとと除霊して終わりにしてたと思う。ところでポチ、臭いはどう?」
ポチは武蔵に対する敵意を剥き出しにしたまま、サラの質問に返答する。
「ひとまず強い臭いは消えたけど、まだまだソイツからはイヤな感じがする」
「今のなんだったのかしら?」
「わからない。だけど、とっても不快なモノだった。絶対に取り出さないでね」
「その方が良さそうね」
警戒モードを解除しない妖精たちをじっと見つめたグラツィオーソは、彼らの前にコトリと小さなカップを置いた。
「これはなぁに?」
「アメリア様お手製のハーブティです。秘密の花園で採取したハーブを使用しておりますので、妖精の方々もお楽しみいただけるかと。リラックス効果があるそうです」
「それはありがとう」
ミケとポチはぽわんっと人間の姿に変化し、用意されたハーブティに口を付けた。
「な、なんだ? 妖精ってこんなに美人で可愛いのか??」
「ふふん。ヘンなヤツだけど見る目があることだけは認めてあげてもいいわ」
ミケが不機嫌そうに答えると、ポチは鼻に可愛らしく皺を寄せた。
「多少マシにはなったけど相変わらず臭いわ。まぁサラが側に置いているなら、仕方がないわね」
「ごめんねぇ。ちょっと前世の世界の神に頼まれちゃったから、武蔵の魂を預かってるのよ。ミケとポチがイヤなら、無理に仲良くする必要はないわよ」
「えー、なんでだよ。こんなに可愛い子たちなら紹介してくれよ。君らもオレたちと一緒に仲良くやろうぜ」
人間の姿の妖精たちが気に入ったらしい武蔵は、新入生をサークルに勧誘するチャラい大学生のような態度になっている。
「あんなに嫌われてるのにめげないわね。そのメンタルは見習うべきなのかしら」
「サラ、こんな奴を見習わないで」
「そうよ。なんかキモチワルイ」
「安心していいぞ。オレは無害なくまだからな」
「絶対安心したらダメなヤツの典型ね」
ふと、サラはこの場にセドリックが居ないことに気付いた。
「そういえばセドリックがいないわね。いつもなら真っ先に出てきそうなのに」
「いるわよ。空間の裂け目からこっちを覗いてるわ。だけど、セドリックはソイツだけじゃなくて、マギの方も警戒してるから姿を見せないのよ」
「なるほど。それは賢明な判断ね」
「情報を司るセドリックとは、一度ゆっくりお話しをしたいです。是非とも我らとお話しをするよう説得してください」
「あー、うーん……それは少し考えさせて。私の中でセドリックとマギは混ぜるな危険って気がしてならないのよ」
「マギはサラお嬢様に敵対しませんよ?」
「それは理解してるつもりだけど、マギは私の知らないところで勝手なことはやってそうだとは思ってる」
「否定はいたしません」
「やっぱりね」
サラは深いため息をつきつつ、武蔵を膝の上に抱えなおした。隣に座らせようかとも思ったのだが、チャラい武蔵が妖精たちに突っ込んでいくことを懸念したのだ。
「ひとまず小麦の備蓄の話をしたいから、ポチはそこの花を小麦にしてもらえるかしら」
「わかったわ」
ポチは武蔵の目の前で、テーブルの上に置かれた花瓶に一輪だけ挿してあった冬薔薇を黄金色の小麦へと変化させた。
「うおっ!?」
武蔵は驚きの声を上げながら、サラの膝の上で軽くのけぞった。
「驚くよね。ポチは植物を司る妖精なの。植物を別の植物に変える力があるわ」
「すげぇ……王族が妖精を求める理由がわかったよ。ロイセンの初代は、この力を要らないってよく言ったな」
武蔵は身を乗り出して、花瓶に挿してある小麦の穂を見つめた。称賛されたことで、ポチはちょっとだけ気を良くしたらしい。
「すべての妖精が私と同じ力を持ってるわけじゃないわ」
「じゃぁポチは特別な妖精なんだな!」
「そ、そうかも?」
『うーん。ポチはチョロいな』
サラは少しばかりポチのことが心配になったが、武蔵や妖精たちとは長い付き合いになりそうなので仲良くなる分には歓迎すべきだろうと考えて何も言わなかった。
「私の魔力量が多いことは武蔵も知っているでしょう?」
「そうだな」
「私ね、いろいろ考えすぎて倒れちゃったことがあったんだ」
「知恵熱か?」
「そんな感じね。でも、その時に身体が危険を察知したらしくて、凄い勢いで魔力を貯めこもうとしちゃったのよ」
「サラは魔力暴走をおこしかけてたのよ」
ポチが答えると、ミケも横でうんうんと頷いている。
「え、サラの魔力暴走って国が滅びないか?」
「放置したらそうなってたかも。だから私たちは魔力を吸い出して、いろんなことに使いまくったの」
「小麦を作ったってことか」
「うーん。"作った"っていうより"変えた"の方が正しいと思う。私は開拓地まで飛んで、雑木林を大量の小麦に変えたの。それでもなかなか追いつかなくて、最後の方は広大なエルマ畑まで作っちゃった」
「な、なるほど。それで、怖くて聞きにくいんだが、サラが保有してる小麦の量は……」
サラはにっこりと微笑んで小さな声で呟いた。
「向こう数年間、小麦が不作になってもアヴァロンの国民が飢えずに済むくらいには持ってるわよ」
「聞くんじゃなかった」
サラとポチの説明に耳を傾けつつも、武蔵は脳内……ではなく魂の器の中で検討し始めた。何しろ武蔵の頭部にはおがくずが詰まっているだけで脳味噌が無い。
「ブレインストーミングってことだから、まずオレの想像と予測を話すよ。おそらく商業ギルドのジジィどもは、ソフィア商会の運転資金が尽きるのを待ってるんだろう」
「でも、ソフィア商会は貴族の贅沢品を高価で販売しているし、そう簡単に資金は尽きないことくらい気付いてると思うんだけどな」
「まぁそうなんだが、さっきも言ったように、備蓄できるとはいえ小麦も農作物だ。あちらの世界のように安定して長期保存ができるわけじゃない」
「確かに前世みたいな保存期間ってわけにはいかないわ。だけど、グランチェスターは比較的寒い地域だし、冬場の雪を利用した貯蔵施設もあるから数年は大丈夫よ? ネズミが入り込むことはあるけど」
ソフィアと武蔵の会話に、グラツィオーソが参加する。
「お二人の仰る前世の小麦貯蔵方法には興味をそそられますね。グランチェスター領の貯蔵庫でも、小麦は少しずつ劣化していきます。数年後でも食べられないことはありませんが、味は明らかに劣化しています。私たちゴーレムにとって味は重要ではありませんが、人間はそうじゃないですよね。商品価値が下がると言えるのではありませんか?」
「味が劣化するのはダメだな。飢饉だったら、こだわってもいられないだろうが」
「グランチェスター領の貯蔵庫のことは、おそらく商業ギルドの方々もご存じかと思われます。だとすれば、貯蔵可能な容量もご存じでいらっしゃる可能性が高いとマギは予測します」
涼しい顔でグラツィオーソが話した内容は、サラの思考に刺さった。
「マギが言いたいのは『今年グランチェスター領で収穫されたすべての小麦が貯蔵庫に入るはずがない』と思われてそうってこと?」
「その通りです。当然他の地域で貯蔵する必要性がでてきますが、グランチェスター領以外の地域ではカビや害虫のせいで廃棄されることも少なくありません」
「なるほど。常識的に考えたらその通りよね。こういうとこも含めて始祖の優秀さを感じるわ」
人の姿になっているミケとポチは、二人で顔を見合わせてニンマリと微笑んだ。
「そんなカズヤの優秀さを超えるのが、サラの非常識だけどね!」
「時間の止まった空間に貯蔵してるなんて想像もしないよね」
二人は嬉しそうにハイタッチして、きゃっきゃとじゃれあっている。普段から犬と猫の姿でじゃれあうことが多いが、人の姿になっていると倒錯的に見えないこともない。
「二人とも、はしたないから人間の姿でじゃれるのはやめなさい」
「いやいやサラ、これはなかなか眼福だ」
「このくまサイテー」
「キモっ」
ハーブティも飲み終えたので、ミケとポチは猫と犬の姿に戻った。
「で、サラの持ってる小麦は劣化しないところに貯蔵されてるってことでいいのか?」
「あはは。時間を止めた空間収納の中に保管されてるからねぇ」
「そんなことをあのジジィどもが知ってるはずねえし、どうせ『気まぐれに小麦に手を出した小娘が、在庫を抱えて右往左往してる様子を見物しておこう』とか考えてるはずだ」
「それはお気の毒様としか言えないわね。私に喧嘩を売るからよ」
「向こうからしてみたら、ソフィア商会がいきなり喧嘩を吹っ掛けてきたようにみえるんじゃねーかな。ジジィどもは、小娘からいきなり小麦の入った袋で殴打されたと思ってるんだよ」
「えー、そんな野蛮なことは、ちょっとしか考えてないのに」
「ちょっとは考えたのかよ。美少女なのに本当に残念なヤツだなぁ。だが、このままいけばチキンレースはサラの一人勝ちだ。市場の混乱は不可避で、多くの民が小麦を口にできずに飢えるだろう。豊作の年だっていうのにな」
「そんなつもりはないのに……」
「だが、サラが抱え込んで放出しなければそうなるのは必然だ。そして、ジジィどもはこれみよがしに『ごうつくばりのソフィア商会が小麦を買い占めて値段を吊り上げた!』って喧伝して回るだろう。ソフィア商会は否定できないよな」
「売り渋ってるわけじゃないわよ。筋を通せば売るって言ってるし、買いに来ないのは向こうじゃないの」
「小麦の流通を妨げた原因がソフィア商会にあることは紛れもない事実だからな。そのあたりは自覚すべきだ。適当なところで次の手を打たないと、そう遠くない将来に暴動が起きかねない」
「武蔵、あなた為政者みたいな発言をするのね」
「9年もこの国の王と一緒にいたんだから、そうなるのは当然だ。王はオレに影響されて性格が変わったと思われてるだろうが、オレの方だって王の考え方に影響されてるんだよ」
「くまの僭王ね」
「無礼だぞ残念美少女」
サラはくすっと笑い、武蔵は腹を抱えて爆笑した。
「私としては、小麦は本来の流通に乗せられるよう動くつもりでいたわ。おそらく沿岸連合の商人たちが先を争って買うだろうから、価格が高騰したところで、さらに小麦を市場に投入して、相場の暴落を狙っていたの。『あまりにも高値で買い過ぎた!』って相手が気付いた時には手遅れのはず」
「小麦を買い付けた沿岸連合の連中を殺すつもりか?」
「物騒ねぇ。破産はするかもしれないけど死なないわよ」
「いや、そんなやり方をしたら本当に人が死ぬんだよ。小麦のような大きな市場では、自己資金だけで投資ができる奴はほんの一握りだ。大抵は投資家を募る。ちょっと損をしたくらいなら補填も可能だろうが、そんな勢いで大暴落させたら、大勢が資金を調達した投資家から私刑で殺される。仮に逃げ切れたとしても、家族が無事では済まないだろう」
「そんなに酷いことになるの?」
「お前なぁ。戦争に発展してもおかしくないんだぞ」
「武蔵こそわかってないわ。既に戦争状態なのよ。グランチェスター領の横領事件の背後にはアイツらがいるし、横領に関係した文官は全員殺されてる。そして、暴動を起こした上に、グランチェスター領の小麦を焼こうとしたのよ。もし、成功していたらそれこそ民が飢えてたわよ。向こうはグランチェスター領に小麦の備蓄がないことを知っていたんだから」
「確かにそうだな」
「お金のために他人が死んでも構わないというのなら、自分たちもそうなるかもしれないと知っておくべきだわ。大好きなお金に殉じればいい」
「筋は通ってるが、サラがわざわざ手を汚す必要はないと思うぞ。中身は残念でも、お前はまだ子供だろうに。……いや、そうじゃないな。大人になったとしても、こんな方法は止めた方がいい。サラは前世のオレみたいになるな。魂が穢れてしまってからでは遅い」
「武蔵……」
「それだけのチート能力があるなら、真っ当に商売するだけでいい。下手に相場を操作しようとするな。これまでの商習慣がお前を縛ろうとするなら、金の詰まった袋を明後日の方向に投げつけてしまえ。ジジィどもは犬みたいに追いかけていくはずだ」
「ちょっと失礼ね!」
ポチが武蔵の発言に反論する。
「いや、お嬢さんは妖精で、犬じゃないだろう?」
「犬は賢いから、金の袋を追いかけたりしないわ!」
「それは失礼。犬にも劣るジジィどもは、金の臭いに釣られるって言いたいだけなんだ」
「武蔵って性格だけじゃなくて口も悪いのね」
「ミケさん……辛辣ですね」
「でも、サラの魂を守ろうとすることは素直に評価してあげる。魂の穢れが早く浄化されることを祈ってるわ」
「おう、ありがとうよ」
武蔵も妖精たちと"少しだけ"仲良くなったようだ。
「とはいえ、小麦の流通路を確保しないことには話にならないわ」
「素直に王室を頼る方が早いぞ」
「どういうこと?」
「期間を定めて小麦の価格を国に統制するよう進言するんだ。そして、今年必要になる小麦をすべて王室に買い上げさせろ。取引はすべて手形で、換金までの期間を長期に設定すれば王室は断らないだろう。ただし、ソフィア商会の儲けはあまり期待しないでくれ」
「元々、小麦で荒稼ぎするつもりは無いわ」
「ジジィどもはソフィアに下げる頭は持ち合わせていないが、王になら平伏してみせる。おそらく言い値で買い上げるだろう」
「なるほど」
「ロイセンに適正価格で小麦を輸出することを条件に、値段を少し下げれば王室も喜んで食いつく。無理に政略結婚なんてしなくても、両国に利があれば通商条約は締結できる。サラならロイセンにある資源を商売のネタにできるんじゃないのか?」
「……まだちゃんと調べてないけど、多分できると思う」
「サラ。『百戦百勝は善の善なるものにあらざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり』だよ」
「孫子の兵法はわかってるけど、すでに向こうから仕掛けられてるのに……」
「なおさらだよ。真っ向から戦うんじゃなく、相手が見える場所に堂々と金の山を積み上げろ。戦う前に戦意を消失して、お前に尻尾を振ってくるはずだ」
「逆に金を根こそぎ奪いにくるかもしれないわよ?」
「そこまでの愚か者が相手なら是非もないな。だが、それでも相手に合わせて無理する必要はない。真っ当に商売して、お前は金の力で無双すればいい」
「むぅ」
「考え方を変えろ。さっきお前自身が言ったじゃないか。お前が潰そうとしている相手は、将来お前の顧客になるかもしれない。あるいはビジネスパートナーかもな。お前は商人なんだろ。もっと強かかになるんだ。右手で握手を交わしながら、左手は金袋で相手を殴打していても不思議じゃないってだけのことだ。サラの利き手がどっちか知らんけどな」
武蔵は疲れたように、ぽすっとサラのお腹に身体を預けた。
「そんな風に考えられるのに、どうして前世は詐欺師だったのよ」
「オレにとっても、王と一緒にいた9年間は短い時間じゃなかったんだよ」
「なるほど。間接的にソフィア商会が陛下にお世話になったわけね。ここは、陛下のハゲを治療すべきかしら」
「喜ぶだろうが……周囲のジジィも黙ってないと思うぞ。それに、そろそろ王太子もヤバいんだ」
「あはははははは。それは大変だわ」
西崎:果たしてタイトル詐欺にならず、お金の力で無双できる日は来るのか!
ミケ:サラなら火を吹く!
ポチ:嵐が吹き荒れる!
セドリック:焦土と化した荒野を歩く一人の美少女……
サラ:きーみーたーちー
武蔵:オレ……いいこと言ったはずなのに……




