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セキュリティ対策

保護者やメイドたちと合流する頃には、日が傾きかけていた。思いのほか東屋にいた時間が長かったようだ。


「皆さま、お待たせしてしまってごめんなさい」


レベッカが謝罪すると、保護者たちは一斉に恐縮する。


「レベッカ先生、時間もあまりありませんし、この後の予定を決めませんか?」

「そうね。今日は突発的な出来事が多すぎたわ」


サラは今後の予定について、しばし脳内で検討した。


『祖父さまのおかげで執務の予定は大きく変わったけど、ある意味では正常な状態に戻すいい機会かもしれない。だとすれば、執務室メイドはしばらくこっちの塔で書類整理の仕事をしていてもらう方が良さそう。そういえば、乙女たちが塔に越してくるのは確定なのかしら?』


「ところで、伯父様からの許可がでたら、3人は塔に住み込みで働くことは決定なのでしょうか? 保護者の方は反対されていたようですが…」


「私は秘密の花園の植物を調べ、まとめる仕事をしたいです」とアメリアが言えば、アリシアも負けじと「できれば私もパラケルススの資料を整理して、研究を引き継ぎたいです」と発言する。

テレサは「私は蒸留釜をメンテナンスしなきゃならないので、自分の工房に戻る必要があります」と述べつつも、「ですが、可能であればここから工房に通いたいです。それに本格的にお酒を蒸留するなら、もっと大きな釜を作りたいです」と続けた。


サラは少しだけ逡巡した後、保護者たちに向かってペコリを頭を下げた。


「大事なお嬢さん、妹弟子さん、助手さんであることは承知しておりますが、塔の内部の用意ができましたら、こちらの乙女たちを当家でお預かりしてもよろしいでしょうか?」


さすがに領主家のお嬢様に頭を下げられては、保護者たちも否とは言いにくい。不承不承ではあるが、住み込みを許可してくれた。


「明日以降、メイドの方々の勤務場所については、戻って伯父様から状況を確認しなければなりませんが、おそらく執務室に復帰するには少し時間がかかると思います。それまではこちらの塔の掃除や整理をお願いできますか?」

「承知いたしました。おそらくロバート卿も否とは仰られないと思いますので、まずはお三方のお部屋を準備いたします。2階の客室で宜しいでしょうか?」


するとアメリアが慌てて「いえ、客間なんてとんでもないことでございます。どうか私には使用人部屋をお与えください」と声を上げた。

「ですが、お嬢様方は専門家でいらっしゃいますので…」とイライザが意見を述べると、アリシアも「私も貴族の客間は落ち着かなくて眠れないと思います」とアメリアに賛同する。よく見ればテレサも、うんうんと頷いているではないか。


『なるほど、確かに貴族用の客間は平民には落ち着かないかもしれないなぁ』


「では日当たりの良い、広めの使用人部屋を3つかしらね。イライザ、お願いできるかしら」

「承知いたしました」

「今日はみんなでこのまま戻って、キリの良いところまで掃除と整理を進めましょう。明日以降については、部屋の支度ができるまでは乙女たちも通いね。支度が出来次第、引っ越ししてきて構わないわ。急ぎで私に伝えたいことがあれば、イライザに伝えておいてもらえるかしら」

「「「はい」」」


保護者たちは心配そうにこちらを見ているが、この国では16歳で成人なので、3人は既に成人女性である。「一人暮らしが心配」や「まだ独立するには早い」といった理屈は通らない。


また、領内在住の平民にとってグランチェスター城の仕事は憧れである。しかもロバートが許可した彼女たちの報酬は、ギルドから派遣される錬金術師、鍛冶師、薬師と同じ金額に設定している。要するに、正式にギルドに登録できない彼女たちにとっては、望みうる最高の職場なのだ。


「私とレベッカ先生は、授業があるため午前中は来られません。午後からはなるべく顔を出すようにするつもりですが、毎日は無理だと思います。細かく報告は欲しいとは思いますが、可能な限り自律的に作業を進めてください」

「「「「承知いたしました」」」」


「フランさんには、別のお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「大事なお嬢さんたちを預かるので、防犯面を一から見直したいの。玄関扉や鍵を新しいものに換えていただけないかしら。使用人用の裏口なども含めて、塔に出入りできるところをすべて見直してくださらないかしら」

「承知しました」

「イライザ、この件は家令か執事に通しておく必要はある?」

「はい。ございますが私が手配しておきます」

「ありがとう。それとフラン、いろいろお願いして恐縮なのだけれど、秘密の花園の門扉も新しく作っていただけないかしら。フランが窓口になってくださるなら、他の仲間に依頼しても構わないわ。たぶんあれは錬鉄だと思うの」

「大丈夫です。塔の出入口と一緒に、まとめてお引き受けいたします」

「良かったわ。よろしくね」


「かかった費用の請求は、イライザ経由で良いのかしら…?」


するとテオフラストスとアレクサンダーが口を挟んだ。


「出入口の費用を含め、塔の修繕費用については錬金術師ギルドが負担いたしますので、どうかパラケルススの資料を錬金術師ギルドにも公開していだけないでしょうか」

「薬師ギルドでも花園の門扉の修繕費を持ちますし、花園内部を整備する人員も手配いたしますので、優先的にあれらの植物を薬師ギルドに卸していただけませんか?」

「ごめんなさい。私の一存では決められないわ。伯父様と祖父様に相談してからお返事でもいいかしら?」

「「はい。お待ちしております」」


ひとまず今後の手配をしたところで、今日のところは全員で撤収となった。テレサとフランは大きい方の蒸留釜を分解し、今日のうちにテレサの工房へと運ぶことにした。洗浄と修理の予定はフランの他の仕事と調整してからスケジュールを決めるという。


『薬草や資料公開は思わぬ収入につながる可能性がある…? ダメでも修繕費や整備費が賄える? いっそギルドを頼らずに資料や薬草を競りに掛ける手も……』


サラは手元にある資産をどのように運用すれば、最大の収益を得られるかを真剣に考え始めた。現金が不足している今のグランチェスター領であれば、ここで何とか現金を得ておきたい。


『とはいえ、パラケルススの資料も薬草もグランチェスターの資産だから、祖父様に隠してコトを運ぶことは無理だわ。ここは伯父様の協力は不可欠ね。ふぅ…考えることが多くてイヤになっちゃう…』


本邸へと帰る馬車の中で、サラは深いため息をついた。

いつも誤字の報告ありがとうございます。

見直しているつもりなのですが、見落としがいっぱいです (;'∀')

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― 新着の感想 ―
持ち帰ってくれて良かった 公開するのは内容を確認してからにした方がいいかと 修理代じゃ割に合わない物があるかもだし、世に広めたら危険な物もあるかもしれないので
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