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乙女たちは恋バナを咲かせる

自分も妖精と友達になれる可能性があることを聞いたアメリアは、真剣な表情で「魔法の発現方法を教えてください」と言った。あとの二人も同じように頷いている。


「魔法の発現は、属性の本質を知ることなの。人によって本質の捉え方が違うから、教えることはとても難しいわ。サラさんも経験したからわかるわよね?」

「はい。でも、アドバイスはできる気がします」


『たぶん身近で起きる現象と結びつけるイメージがあればいいと思うのよね』


「アリシアさん、錬金術師として水をどのようにイメージしていますか?」

「そうですね…氷、水、水蒸気など状態変化をイメージします」

「ではそれぞれを作り出すことをイメージできますか?」


アリシアが目を閉じて「氷・水・水蒸気…」と呟き始めると、アリシアの近くにいた魚の妖精がアリシアの手元に移動して、右の手首の周りをぐるぐる回り始めた。


1分ほど経過し『ちょっと違うイメージを与えた方が良いかな?』とサラが考え始めたとき、アリシアが「あっ…」と声を上げ、指先からパラパラと小さな氷の粒を落とした。


「アリシアさんの妖精が手伝ってくれたからだと思います。えっと、一度発現してしまえば、いろいろイメージするだけで魔法を使えるようになりますが、使いすぎには気を付けてください。私が魔法を発現した日は、魔力枯渇で数日寝込みました」

「はい。ご教示いただきありがとうございます」


その後、テレサには炉の炎のイメージ、アメリアには薬を作る際の蒸留工程をイメージさせて無事に魔法を発現させることに成功した。


「どうやら全員発現できたようですね。サラさんは私よりも魔法の先生の素質があるかもしれません。では妖精とお友達になりましょう。両手を前に出して掌を上に向け、自分たちの妖精に掌に乗るように声を掛けてみてください」

「私とはやり方がちょっと違いますね」

「サラさんは魔力が多いので、お友達以外の妖精の姿もはっきり捉えられますが、普通は自分のお友達以外はぼんやりとした光にしか見えないものなの」

「そうなんですね」

「それに、この秘密の花園は妖精がとても多い場所なの。だから彼女たちのお友達も見つけられたわ」


レベッカに言われて周囲を見回すと、あちこちで小さな謎生物が飛び交っている。どうやらここは特異な空間らしい。


しばらくすると、アメリア、アリシア、テレサの順番で「見えた!」という声が聞こえ始める。しかし彼女たちの持つ魔力量は思いのほか少なく、妖精に名付けることはできないという。


「それでは妖精の恵みは受けられないということですか?」とサラが言うと、レベッカは「そうなりますね。魔力量は成長期に少し伸びますが、成人してしまうとなかなか増やせないのです」と答えた。


妖精の恵みを持つ仲間が増えると期待したサラは、しょんぼりと3人を見つめた。


「ごめんなさい。がっかりさせてしまったでしょうか」


そんなサラにアリシアは、明るく笑って見せた。


「サラお嬢様、私はがっかりなんてしていません。まさか妖精とお友達になれるなんて思ってもみませんでした。ありがとうございます」


これにはアメリアとテレサも同意する。


「妖精から植物のことを教えてもらえるんですもの。物凄く嬉しいです!」

「炉の火を妖精が安定させてくれたり強弱を調整してくれるそうなんです。それって鍛冶師としては最高にラッキーですよ」


「とにかく無事にみんなお友達を持ててよかったわ。でも、このことは私たちだけの秘密にしておきたいのだけど、できるかしら?」

「「「もちろんです!」」」


「せっかくですから、サラさんとお嬢さんたちを、『秘密の花園の乙女たち』とでも呼びましょうか」

「それならレベッカ先生もでしょう?」

「私は乙女という年では…」

「女性はいつまでも乙女でいいのです!!」


中身アラサーでも『乙女』でいいのかという自問自答をぶった切り、開き直ったサラであった。


妖精のお友達をもつ乙女たちは、お互いの秘密を守ることを固く誓い、東屋から引き返した。もちろん帰り道もモーゼのごとく植物の間を抜けるのだが、妖精の姿が見えるようになったサラは、植物を動かしているのが妖精であることを理解した。


先頭で指揮をとっている妖精がレベッカの友達のフェイで、この花園に長く住む妖精たちはフェイの指示に従って植物を動かしている。なお、今のフェイは犬の姿を取っているが、普段は人の姿になることも多いという。


元の場所に近づくと、それぞれの保護者達が心配そうにこちらの様子を伺っていた。


「皆さん、大切にされていらっしゃいますね」

「父は過保護すぎるんです」

「フランも普段からうるさいんですよね。もう別の工房で働いてるくせに、いつまでも兄弟子風を吹かせるんです」

「アレクサンダー様は、どなたにも親切ですので…」


アメリアの発言に、テレサがくるっと振り向く。


「アレクサンダーさんは、アメリアさんのことが好きみたいに見えますけど」

「え、まさか! たまたま家が近所で、子供のころから兄のようにお世話になっているだけですから。それよりテレサさんの方こそ、フランさんとお付き合いしているのでは?」

「し、してませんっ。ただの兄弟子と妹弟子です!」

「えー、私は前からテレサとフランはアヤシイって思ってたけどなぁ」


すかさずアリシアも恋バナに参戦する。


『うーーん、とっても乙女たちにふさわしい話題だわ』


秘密を共有して恋バナまでした乙女たちは、お互いに顔を見合わせてくすっと笑いを交わした。

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― 新着の感想 ―
妖精の恵みを貰わなくても話し相手になってくれたり、知識を教えてくれたりするんですね、頼めば物見などもやってくれそうかな?助かりますね。 老化自体も遅いし見た目は自由なんですね、魔力しだいらしいですが。…
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