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いつか王子様が…御免被る

「サラ、そのくらいにしておけよ。リヒトさん困ってるじゃないか」


少しだけ大人びた態度でスコットがサラを制止した。


「あ、ごめんちょっと興奮したかも」

「僕たちみたいにサラに慣れてるわけじゃないんだから、無茶ばっかり言うなよ」


リヒトはサラの興奮状態をあっさり収めて見せたスコットにちょっと感心した。


「スコット君、なんか凄いね」

「まぁ、僕らは慣れてるんで」


横でブレイズも頷いている。


「君らはいつもこんな感じで振り回されているわけか」

「いきなりとんでもないこと始めるんで、そろそろ驚き慣れしてますね」

「それがサラの面白いとこでもあるけどね!」


ふうっと息を吐きだしたリヒトは、困った子を見るような顔をしながらサラを見つめたが、暫くすると自然に笑いがこみ上げてきた。


「欲望に忠実な外見詐欺の美少女? しかも本物の王子に絡まれたり美少年と美青年が取り巻きにいるとか。まさかこの世界って乙女ゲームだったりしないよね? サラって実は悪役令嬢に転生してたりする?」

「私は前世で乙女ゲームやって無いから知らない。それに、この設定のラノベもコミックスも知らないとだけ言っておくわ。それより、なんで私が悪役令嬢の方なのよ。この状況ならヒロインかもしれないとか考えないの?」

「いや、サラは可愛い系というより美人系だからね、ヒロインって感じの容姿じゃないよ。それに、その年齢でお金の力を持ってるなんて悪役令嬢としか思えないでしょ。なんで商会経営してるかな」

「資金力は重要でしょ。記憶が戻ったせいで、お金がない庶民の生活に耐えられる気がしなかったのよ。トイレとかお風呂とか食事とか!」

「なるほど。欲望に忠実なサラらしいね」

「否定はできないわ。あ、シャワー付きトイレ欲しいかも」

「だから、ちょいちょい知識チート出してくるのやめようか」

「ウケると思うけど」

「だろうね。だからこそ、サラはこの世界の歴史を転生者の目で見つめなおしてみた方が良い。ところどころで違和感を覚えるはずだ。その違和感の中心には高確率で転生者がいると思う。歴史の中にいた転生者たちが、何をしてどんな風に消えたのかをサラはちゃんと知るべきだ」


そしてまたリヒトは遠い目をする。初めて会う人のはずなのに、リヒトのこんな目を見ると何故かサラの胸は締め付けられるように痛んだ。


「リヒト…」

「オレは転生してから初めて出会った同じ転生者と簡単に別れたくないよ。きっとオレが何を言ってもサラの暴走は収まらないんだろう。多分、そんな性格のサラだから選ばれたんじゃないかって気もするしね。だけど、そんなに急がないでくれ。これから君にはとても長い時間が残ってる。オレたちは前世の記憶のせいで酷くアンバランスな子供時代を過ごすけど、決して大人として生まれてきてるわけじゃないんだ。まぁ大人ってのが何なのかは350年生きてても未だにわからないけどね」

「それは前世の時にも同じこと思ってたわ」

「だけど確実に言えることは、今の君は頭の良い大人びた子供でしかないんだ。オレもそうだったからわかるけど、欲望のままに暴走するのは子供が駄々を捏ねるのと同じだよ。今は足下を確実に固めておく時期だと思った方が良い。既に悪目立ちしているらしいけど、暫くはやらかしてしまったことの後始末に専念すべきだ。そのために必要な協力はするが、暴走の後押しは御免被る」

「うっ」

「しかも、サラの暴走はオレの子孫も巻き込んでるからねぇ。おじいちゃんとしては、玄孫を苦労させたくない」

「……ごもっともです」

「え、私はとっても楽しいですけど!」


アリシアが相変わらずキラキラした目でリヒトに訴えた。


「同じ研究者としてアリシアの気持ちはわかるけど、研究の成果を安易に外に出したり商品化したりしては駄目だ。どうしてその発見や発明に至ったのか説明できないものは特に注意が必要だ。オレがどうして資料を実験室だけに置いておいたのかを理解してくれ。オレが自宅に資料を持ち帰ったら、オレの孫たちが外に出すことはわかりきってる。我が家は錬金術師が多すぎるんだ」

「弟子もいっぱいいますしね」

「まったくだ。ロクなものではない。錬金術師なんてものは、自分の研究費を捻出するためなら悪魔にでも魂を売る生き物だ」


リヒトはため息をついた。


「リヒト、それじゃ私の曾祖父様が悪魔だったみたいじゃない!」

「ある意味では、ギルも十分悪魔だったと思うが」

「なんでよ」

「あの男は、オレの知識をすべて記録しておくことにこだわった。塔の中の資料室を見て変だと思わなかったか?」

「凄い図書館だよね」

「ギルはオレに研究に必要なモノを手当たり次第に与えた。そして、オレの研究資料はすべて明文化して保存することを徹底させた。あいつは『他の研究者が来た時に、わかるようにすべてを残せ』と言ったんだ。てっきりオレは同僚が後から雇われるのだと思ったが、何年経ってもそんな気配はなかった。もしかしたら、ギルはサラみたいな転生者がグランチェスターに現れることを知っていたのかもしれない。今となってはわからないけど」


『うーん。始祖が転生者だったから不思議ではないけど、私が転生してくることを予想してたとは思えないなぁ』


「そして、ギルはオレの研究成果が外に持ち出されることを嫌った。特にアカデミーに流れることを避けてるような気がしたな」

「でも、成果を外に出さないと、タダお金が出ていくだけよねぇ?」

「実際、オレは無駄飯食いだったと思う。研究成果が誰にも評価されることなく、ただ埋もれていくんだ。他の研究者との交流もないから意見交換もできない。薬学でもそこそこ発見があって、オレは領民の間に流行していた熱病に効果がありそうな新薬を作ったんだ。オレは苦しんでる領民に与えることを提案し、実際に新薬は効果を発揮した。オレは他領にも研究成果を知らせてアヴァロンの民を救うべきだと思ったが、ギルは国民を救えるかもしれない可能性ごとオレの提案を握りつぶした」

「え、どうして? それで民を救えれば曾祖父様の功績になって、グランチェスターにも利益があるはずなのに」

「わからない。だけど、オレはそんな日々に少しずつ疲弊していった。最後の頃は、アカデミーで他人のフリをしていた頃よりもキツかったかもしれない」

「だから眠りに就いたの?」

「正確に言うと違うかな。オレはずっと魂の同胞を求めてたんだ」

「転生者ってこと?」

「必ずしも転生者である必要はなかったんだと思う。ただ、同じ目線で語り合える相手が欲しかった。オレの最初の奥さんは転生者じゃなかったけど、生粋の研究者だったよ。女性だから自称錬金術師だったけどね。ちょっとアリシアに似てるかもしれない。オレの研究パートナーで、気が付いたら伴侶になってて、子供たちの母親になった。そして、オレを残してあっさり逝ってしまうくらい薄情だった」

「それは普通の人なら仕方なかったんじゃないの?」

「シルヴィアを見たらわかると思うけど、オレと一緒に生きて行くこともできたんだ。でも、彼女はそれを望まなかった。彼女は最期に『創造神に与えてもらった分だけで十分幸せだった』って言ってた」


そこでリヒトは少しだけ黙り込んだ。泣いているわけではなかったが、サラはリヒトが今でも喪った人を想って哀しんでいることに気付いた。


「彼女が亡くなった後に書置きが見つかってね、その中に書いてあったんだ。『私はあなたの伴侶になれて幸せだったけど、あなたの同胞じゃなかったことがとても残念だったわ。あなたはこれから本当の同胞を見つける旅に出るのよ』って」

「シルヴィアさんも同胞ではないの?」

「正直言うと、シルヴィアは亡くなった奥さんにちょっと似ているんだ」

「最初の奥様も美人だったんですね」

「凄い美人だけど、笑っちゃうくらい変わり者の自称錬金術師だったね。残念美女って言葉がぴったりくる感じだ。シルヴィアのことは、娘か孫みたいで放っておけなかったんだよね」

「なるほど」

「本当は旦那や子供と幸せに暮らしてほしかったんだけど、彼女の旦那は死んじゃったからね。オレはシルヴィアを無事に助け出して子供を無事に産ませたかったんだ」

「だからって結婚までします?」

「それくらいの名分が必要になるくらい、当時のシルヴィアはモテモテだったんだ。別にオレと結婚じゃなくても良かったんだけど、シルヴィアに不埒な感情を持たない男を探すのは骨だしね。独身のまま放っておくのは危険過ぎたんだよ」

「確かに凄い美人ですもんね。不〇子ちゃんかと思いましたよ」

「ははは。確かにそんなタイプだね。実際、彼女は子供がある程度大きくなると、本来の恋多き女性に戻っていった。オレはいつでも離婚に応じるから、好きな男と暮らしても良いと言ったんだが」

「だが?」

「それがさぁ『私は恋だけで十分。結婚までしたいとは思わない。それに、あなたと別れたら年取っちゃうじゃない』って」

「な、なるほど。わかりやすい理由ですね」


『やるなぁシルヴィアさん』


「まぁそんなわけで、オレは魂の同胞を探す旅路の途中だったわけだ。だけど、ちょっとばかり待ち草臥れてたところに職場のストレスが重なってね。ある日、シルヴィアに指摘されたんだ。『王都にいた時より身体は若くなってるのに、表情が老人になってる。疲れてるなら少し休んでも良いんじゃない?』って」

「なるほど。それが眠りに就いた理由なのか。シルヴィアさんも40年も休むとは思ってなかったでしょうけどね。それにしても、『同胞』って言う意味なら私は多分同胞なんだと思うけど、”魂の”って言われると自信ないなぁ」

「まぁそうだよね。サラのことは、旅行先で出会った人が、たまたま同じ地域の出身だったくらいの感覚でしかないや。同胞っていうより同郷って感じかなぁ。でも、テンションは爆上がってるから、暫くは寝ないで済みそうだ」

「そういう事情ならシルヴィアさんの家に長くは住みにくいか。住居を用意した方が良さそうだね。下手にアリシアの実家に行ったら、大勢の錬金術師に取り囲まれて酷い目に遭いそうだし」

「うん。そうしてもらえると助かるよ」


「Thanks a lot. You're my lucky girl. I'm glad to have met you. (どうもありがとう、君はオレのラッキーガールだよ。会えてよかった)」

「I'll act like it until the one you're really waiting for shows up. (あなたが本当に待っている人が現れるまでは、それっぽく振舞うわ)」

「That's great. But are you OK with that? (そりゃいいね。ありがとう。でも、君はそれでいいの?)」

「Of course. Why do you worry? (もちろん。何で心配するの?)」

「Maybe one day a prince will come your way? (いつか君のところにも王子様が来るかもしれないよ?)

「The Crown Prince, the Prince! I'm sick of it. I hope I don't run into any more of them. (王太子、王子!もううんざりよ。これ以上会わないことを祈るわ)」

「You're funny. Aren't girls usually waiting for their prince? (君は変わってるよね。普通、女の子は王子様を待ってるものじゃないの?)」

「That's prejudice. At least I'm not. (それは偏見。少なくとも私は違うわ)」

「I'll keep that in mind. (覚えておくよ)」


二人にしかわからない言語で、サラとリヒトはニヤリと笑い合った。そして、リヒトはサラの近くにいるトマス、スコット、ブレイズの三人を視界に捉えた。


敢えてサラにしかわからない英語でリヒトが会話したのは、サラを囲む三人の若者の様子を見たかったからだが、リヒトが想定した以上にトマス、スコット、ブレイズは焦燥感を覚えたらしく、余裕のない表情を見せた。


『うーん、どの子も本気度が高いなぁ。けど、個人的な推しはブレイズ君かなぁ。あの二人の子供だしねぇ。幸せになって欲しいよね』


などとつらつらと考えた。今の容姿はともかく、リヒトの中身がおじいちゃんなのは、確かなようである。


そして想定外の出来事としては、アリシアとアメリアがリヒトと会話するために新しい言語を習得したいと思ったことだろう。既にゴーレムがある程度まで異世界の言語を解析しているため、以降、彼女たちは積極的に言語を習得していくことになる。


そして、このことがさまざまな転生者の功績を発見する事にも繋がっていくのだが、この時点でそのことを想像できている人物は誰もいなかった。

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― 新着の感想 ―
まあ、自立した現代日本人女性の感覚からすると、王子様なんて多少性根が良くてもナチュラルに傲慢な権力者でおまけに側室とか第二夫人とかありなら公式愛人認められてるクズ候補だし全く魅力的ではないですよね。 …
リヒトの実子とシルヴィアの実子とパラケルスス(本物)の身内が作中出てきますが、結局パラケルススの子孫を名乗ってるアリシアらはどこの流れの子孫か全然読み取れませんでした。 名前を継いだ関係で(本物)の子…
「いや、サラは可愛い系というより美人系だからね、ヒロインって感じの容姿じゃないよ。それに、その年齢でお金の力を持ってるなんて悪役令嬢としか思えないでしょ。なんで商会経営してるかな」 条件にぴったりの…
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