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天使はいつか羽ばたいていくだろう - SIDE レベッカ -

私の生徒サラ・グランチェスターは、私の想像を遥かに超えた存在だ。


ロブから数年ぶりに手紙が届いたとき、私の妖精は『待ち人からの手紙だね』と囁いたが、私は別にロブからの手紙を待ったりはしていなかった。用事でもなければ手紙をよこさない男などに用はない。


封を開けて中身を読むと、予想通り用件だけを書いた味気ない内容で、貴族の手紙として如何なものだろうかと思わざるを得ない。


「ねぇフェイ」名前を呼ぶと、「なんだい?」と私の妖精はくるくると私の周りを飛び始めた。


「私にアーサーの娘のガヴァネスをやって欲しいんですって」

「アーサーって、馬から落ちたロブの弟かい?」

「彼は馬から落ちたのではなくて、馬車が崖から落ちたのよ」

「それは知ってるさ。だけど、ぼくたちが出会ったときも、あいつ馬から落ちて気絶してたじゃないか」

「ふふっ、そういえばそうだったわね」


私はずっと昔、ロブとアーサーと3人で遠乗りした日のことを思い出した。あの日、アーサーが落馬したおかげで、私はとっさに光属性の治癒魔法が発現し、光の妖精のフェイにも出会ったのだ。


「レヴィがとんでもない魔力で乱暴に光属性の魔法を使おうとするから、木の上で昼寝してたぼくはびっくりして落っこちそうになったんだよなぁ」

「だって、魔法の発現は初めてだったのだもの。そこは許して欲しいわ」

「怒ってるわけじゃないさ。レヴィに会えてぼくは楽しいしね」

「それは良かった」


フェイはくるくると回るのをやめ、レベッカの右肩に腰かけた。


「ガヴァネスってことは、そのアーサーの娘の先生になるってことだね」

「そうね。アーサーは駆け落ちして平民として暮らしていたから、その子もずっと平民として育ってたはず。たぶん、グランチェスターの家は居心地悪いでしょうね」

「ロブがその子に意地悪してるのかい?」

「ううん、侯爵閣下とエドワード一家が住んでる王都の邸にいたんですって。これからグランチェスター城に来るらしいわ。たぶん、王都の邸から体よく追い払われたんじゃないかしら」

「あいつら、ヤなやつばっかりだからなぁ」

「まぁロブなら安心でしょ」

「そっかー。でもレヴィの生徒になる子の方がクソガキで、手に負えなくて邸から放りだされたのかもしれないよ?」


私はその可能性を少しだけ考えてみたが、即座に否定した。


「アーサーが生前くれた手紙では、いい子だって書いてたし、そもそもアーサーとアデリアが育てた娘が悪い子になるとは思えないわ」

「ふーん。じゃぁ、ぼくがちょっと見てくるよ。妖精の道を通ればすぐだしね」


するとフェイは何もない空間に裂け目を作り、その中にスルスルと潜っていった。どういう仕組みなのかさっぱりわからないが、これが妖精しか通ることのできない妖精の道だという。


ここは王都の郊外にあるオルソン邸で、王都のグランチェスター邸まで馬車で半日ほどの距離があるのだが、フェイが妖精の道を使えば10分で往復できるらしい。


1時間ほどすると、先程と同じような裂け目が開き、フェイが慌て気味に顔をだした。


「レヴィ大変だ。あの子は全属性だ」

「えっ!」

「すでに水魔法は発現してるみたいだったよ」

「でも、あの子は王家の血筋じゃないはずよ。そりゃグランチェスターにお輿入れした王女様も昔はいたはずだけど…」

「うん。顔はアーサーとアデリアそっくりだから、あの2人の娘なのは間違いない」

「それはさぞかし美少女ね」

「そうだね。妖精のぼくからみても、まちがいなく美しい子だった。それに魔力の輝きが半端じゃないんだ。あの子はきっと妖精たちにも愛されるよ」

「それは…その子にとって幸せなことなのかしら」

「失礼だなぁ。レヴィはぼくが友達なのが不満なのかい?」


フェイが憤慨したように、私の頭の周りをすごい速度で回り始めた。


「やめてフェイ。目が回っちゃいそう。私はフェイとお友達になれて、とても幸せよ。だけど、それは私の周囲が、私を守るために能力を隠してくれているからでもあるわ」

「ふむ」


回るのをやめたフェイは、レベッカの目の前で停止し、足を組んで椅子に座るようなポーズを取った。


「フェイのおかげで私は緩やかに年を重ねるわ。でも、それって他の貴族女性から妬まれることでもあるのよね」

「バカバカしい」

「人間ってそういう生き物だと思ってちょうだい。それに私は貴重な光属性の魔法の発現者で、治癒魔法の使い手でもあるわ」

「いいことじゃないか」

「そうね。だけど王室や教会からしてみれば、"長い年月に渡って治癒魔法を使い続ける貴重な人材"ってことになるわ」

「人間の大好きな聖女ってやつだね」

「そうそう。でも、私は聖女なんて興味ないし、王家にも教会にも囲い込まれたくない」

「利用されたくないってことだね」

「そういうこと。だけど、アーサーの娘…名前はサラっていうのだけど、彼女は平民育ちだから王家や教会から自分がどう見えるかを知らないはず。それにエドは、きっとサラを自分のために利用するわ」

「あー、あいつならやりかねないな」


グランチェスター三兄弟とは長い付き合いだけど、正直エドワードだけは仲良くなれる気がしない。いつも上から目線でジロジロと私を眺めまわし、嫌味しか言わないいけ好かない男である。


「私はこの依頼を引き受けることにするわ。アーサーの娘だもの、守ってあげなくちゃ」

「ロブに会いたいからじゃなくて?」

「まぁ久しぶりに会いたいなぁとは思うけど、それだけよ」

「ふーん。レヴィは素直じゃないね」

「ちょっと!」


数日後にグランチェスター城で会ったサラは、とても聡明な子だった。丁寧な言葉遣いはおそらくアーサーが教えたのだろう。少し直せば侯爵令嬢として恥ずかしくないレベルになるだろう。貴族的な言い回しはできないまでも、ウィットに富んだ会話の選び方は教養を感じさせる。


しかも天使のような優れた容姿をしており、数年もすれば微笑みを浮かべるだけで王都の貴公子たちを骨抜きにしてしまいそうだ。


数学的な才能にも驚いたが、そんなことより実務をコントロールする能力の高さには舌を巻いた。私やグランチェスター三兄弟など足元にも及ばないだろう。もしかすると、侯爵閣下よりも高いかもしれない。


そして極めつけは魔法の授業だ。サラは魔法の授業初日に複数の属性を発現させ、それらを組み合わせた魔法を次々と披露する。中にはレベッカが見たこともないような魔法もたくさんあった。しかも、普通の子供であればとっくに魔力が枯渇しているはずなのに、そんな気配すら見せずに嬉々として魔法を打ちまくっている。


「ねぇフェイ、私は何を見せられているのかしらね」

「ぼくに聞かないで欲しいね」

「あの子、自分のまわりにたくさんの妖精が集まっていることにいつ気付くかしらね」

「それほど時間はかからないだろうね」

「フェイはいかないの?」

「ぼくはレヴィの友達だからね」

「ん。ありがとう」


サラには能力を持つことの危険性をじっくりと教えるつもりだったが、ちょっと警告をしただけで、あの子はすんなりと理解した。おそらく私が手を貸さなくても、自分で理解して対処していくことができるだろう。


魔力が枯渇し、訓練室の床に大の字になって伸びているサラを見ていたら、ふとした予感が過った。


『あぁ、この子はグランチェスター領だけにおさまることはできない。この国ですらこの子には狭く窮屈な存在になってしまうだろう。いつかサラは、この狭い世界から飛び立っていくのでしょうね』


そしてレベッカは、部屋の外に控えていたメイドたちを呼んでサラを運ばせつつ考えていた。


『だけど、きっと私たちは一生の友人になるわ。今は生徒と教師だけど、まるで同世代の友人みたいに感じるもの』


そして、その通りになったことを何十年も経ってから気付くことになる。

西崎:見た目は天使でも中身はおっさん

サラ:失礼だなぁ。否定できないけど。

西崎:同世代ってか年上だよねぇ

サラ:妖精の恵みで長生きする予定だし誤差じゃね?

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妖精の恵みがない時点でおっさんだったから誤差でしかない
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