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ゴーレムから告げられる衝撃の事実

朝食後、サラは自室でゴーレムのユニットを取り出し、ゴーレムのソフィアを造った。


「今日はソフィアで本店に出勤するということでしょうか?」

「ええ、お願い。私は乙女の塔に行かないといけないのよ。今日はグランチェスターの子供たちが集まってお勉強することになってるの。28号と一緒に執務を片付けてもらえるかしら」

「ソフィアが本店の執務室に居ると周囲に認識させることが大事ってことですか」

「理解が早くて助かるわ。でも、執務の手は抜かないでね」


サラはゴーレムのソフィアに業務指示を出していく。


「手を抜けと指示されない限りは普通に処理します。来客はどうしますか?」

「今日は貴族家の使用人しか予定に入って無いはず。普通に注文を受けて頂戴。バックオーダーが必要な物もあるかもしれないけど、対応は問題ないでしょう?」

「それは大丈夫ですが、無茶な要求があるかもしれません。あるいは予定されていない来客があるかもしれません」

「困ったことがあったらマギを通して、乙女の塔のゴーレムに連絡もらえるかしら?」

「承知しました。それにしても…サラお嬢様は、パラケルススと同じ時代に日本に居たんですよね?」

「正確な年代はわからないけど、多分そうだと思うわ。私は仕事で海外に居たことも多いけどね」

「なのにどうしてPCやスマートフォンを作らないんですか?」


突然、ゴーレムのソフィアが爆弾を落とした。


「は? ちょっと待って。作れるの?」

「まったく同じものでは無いでしょうが、近い性能のものは作れるのではないかとマギは主張しています。そもそもマギと魔力的に接続している私たちゴーレムを見れば、近い性能の物が作れることくらいサラお嬢様ならお気付きでしょう?」

「うーん。深く考えたことは無かったけど、確かにそうね」

「どこかで時間を作って、アリシア様やマギと検討されることを推奨いたします。これからは情報と資金力の戦いになるはずです。有利に戦いを進めるためには必須のデバイスになることはサラお嬢様なら理解できるでしょう」


『いや、できそうな気はしてたけどさ、さすがにやり過ぎだって思ったんだよ。この世界にそんなもの持ち込んで良いのかなって。パラケルススもそう思ったから実際にマギを造らなかったのかなぁ?』


だが、既にマギシステムを作り、ゴーレムと接続している時点でかなり手遅れである。


「それより、いつの間にパラケルススの資料をそこまで学習したの?」

「乙女の塔で書類の整理に小型のゴーレムをアリシア様がお使いになられているのはご存じですよね?」

「私が作るんだもの。知らないはずないじゃない」

「あのゴーレムは夜中に図書室の中身を読み込んで、マギに蓄積しています」

「え、なにそれ、怖すぎる」

「グランチェスターの本邸にある図書館の中身も、あちらにシードルやエルマブランデーを持ち込んだ時に取り込んであります。マギは小型化したゴーレムにステルスモードを搭載して、アカデミーに忍びこめないか検討しています」

「伯父様とかトマス先生みたいなOBが持ち込めばいいんじゃないの?」

「いま、アカデミーにグランチェスターの関係者が入ったら大騒ぎになると思いますよ? 先日の騒ぎ忘れてしまいましたか?」

「う、確かに」


『確かにアカデミーに近づいたら、錬金術師たちが大騒ぎするに違いないわ。だけど、あのクソジジィどもはどんな処分を受けるんだろう? アンドリュー王子の顔を立ててこちらは何もしなかったけど、このまま放置するようなら対応を検討しないとな』


「おそらくスコット様やブレイズ様も普通の入学は難しいでしょうね」

「え、私のせいで彼らが入学できなくなっちゃうの?」

「逆です。乙女の塔というかグランチェスターの機嫌を取るために、どんな成績でも入学できてしまうのではないかと」

「あらぁ。それじゃアダムも合格させてもらえそうね。ちょっとイラつくけど」

「その可能性は高いですね」

「まぁアダムには教えないで頑張らせましょう。コーデリア先生と頑張る気になってるみたいだし」

「その方が良さそうですね。まぁあちらの図書館を取り込む方法はもう少し検討します」

「ねぇ、そんな勢いでデータを集めて、情報を蓄積する媒体は溢れないの?」

「今のところスカスカです。もっともっとデータ欲しいです!」

「あっそ」


サラは少し頭痛がしてきた。


『ちょっと…パラケルスス、一体どんな資料を書いたのよ。長く生きてると考えることが多いのかしら』


「でも、ディザスタリカバリについては真面目に検討したいので、大きな魔石を用意していただけませんか?」

「なんで異世界に転生してまでDRの話することになるのかなぁ」

「え、でも、いきなり戦になってマギが破壊されてしまったら、大半のゴーレムたちの活動が停止しますよ? 今は本店の地下にあるんですから、真っ先に攻撃されそうな場所ですけど大丈夫ですか? ここまで学習した知識が全部失われてしまいますけど」

「ゴーレムたちがいないと仕事にも支障が出るわ。なるほどBCPね」

「はい。事業継続計画は大切だと思います」


『なんだろう…ここ異世界だよね? 私転生してるよね?』


「ちゃんと検討しないといけないってことはわかるんだけど、その辺りは一般的な知識しかないのよ。パラケルススは理系で詳しかったかもしれないけど」

「じゃぁ、パラケルススを呼ぶしかないですね」

「何十年も前に行方不明なのに、どうやって呼ぶのよ。生きてるかどうかも分からないじゃない」

「え、生きてますよ? 起こしに行けばいいじゃないですか」

「はぁぁぁぁぁぁ!? 彼がどこにいるか知ってるの?」

「もちろんですよ。彼自身が資料の中に書いてますから」

「ちょ、ちょっと待って。彼は自分の意思で姿を消したのね?」

「そうです」

「で、その場所を資料の中に書き記している、と?」

「そうです」

「なんで誰も気づいてないの?」

「うーん。マギには”まだ”人の機微みたいなものを理解できないので、サラお嬢様に資料を実際に見てもらって判断して欲しいそうです」

「乙女の塔にあるの?」

「はい。場所は図書館にいるゴーレムから聞いてください」

「わかったわ」


『さっきからとんでもないことを聞かされてる気がする…』


まだ朝だというのに、既にサラの頭はかなりズキズキ痛んでいた。


その時、サラの部屋のドアがノックされた。サラの身支度を整えるためにマリアがやってきたのだ。


「入っていいわよ」


入ってきたマリアは、サラとゴーレムのソフィアを見比べて暫し考えた。


「今日のゴーレムはソフィア様みたいですね」

「わかるの?」

「よく似ておいでですが、サラお嬢様とは表情が微妙に違いますので。それに、今朝のサラお嬢様は、頭が痛いのを堪えているような表情を浮かべていらっしゃいます」


マリアはさらりと答えた。


「うーん。マリア最高ね。正解よ」

「そうですか…表情ですか…」


ゴーレムのソフィアが鏡に自分の顔を映して百面相し始めた。


「あ、私のゴーレム専用にアリシアがユニット調節してくれるらしいから、今のソフィアの仕様なら十分じゃないかな。出掛ける時に他の人にも聞いてみましょう」

「そうですね」


マリアはサラの髪の両サイドを緩く編み込んで全体をハーフアップに纏めていく。


「今日の魔石の属性はどれにしますか?」

「ドレスの色に合わせるなら火属性かしらね」

「承知しました」


これは髪飾りを決めるやり取りである。マリアはサラのハーフアップ部分に火属性の魔石をあしらった髪飾りを留めた。


「次はソフィア様の髪もやりますので、お座りになってください」

「あら、このままでは駄目?」

「美しく纏まっていますが、きっちりし過ぎです。サラお嬢様の雰囲気に近づけるなら、隙があるように見せなければ」

「実際にサラお嬢様に隙なんて無いのでは?」

「抜かりがない性格はしていますが、意外と隙もお見せになりますよ。まぁ殿方の前で意図的にそうしている部分もありますね。ですが、こっちは営業的な仕草なので、よく見るとバレバレです。それに迂闊ですし」

「わかったわ。もうちょっと観察が必要ってことね」


『こっちでも私を観察してるってわけね。お母様みたいに駄目出しされそう』


「ねぇ、本人を前にして分析しないでくれないかな。ちょっと凹む」

「でも、こちらのソフィア様を本物に近づけることが大切なのではありませんか?」

「確かにそうだけど…」


釈然としない気持ちを抱えながら、サラとソフィアの身支度は終わった。


「ではお二人とも行ってらっしゃいませ」

「マリアは本邸に戻るんだっけ?」

「はい。本日は侍女教育を受ける予定です」

「マリアの侍女デビューも近いわね。でも、そうなったらメイドを新たに決めないとね」

「ちょっと寂しいですけど必要でしょうね」


階段を降りながら、サラはゴーレムのソフィアに提案した。


「ねぇ、このまま二人とも無表情でいたら、どれくらいの人が私たちに気付くと思う?」

「事情を知っている人たちということですよね?」

「ええ」

「マリアに見破られているので、あまり自信は無いんですが…」

「私の予想だと、気付くのはブレイズだと思うの。スコットはギリギリかなぁ。ダニエルは多分気づかないと思う」

「昨夜あんなにベタベタとエスコートしてたのに気付かないんですか?」

「そんな気がしてる。どうせ玄関で問い質すような真似はできないんだから、そのまま出勤すると思うの。もし、あなたがゴーレムかどうか聞いてきたら、こんな風に言って欲しいんだけどいいかな?」


サラはゴーレムのソフィアにごにょごにょと耳打ちした。


玄関にサラたちが到着すると、既にスコット、ブレイズ、ダニエル、そしてサラの護衛である騎士たちが待機していた。


「ごめんなさい、お待たせしてしまいましたか?」

「まだ時間前だから大丈夫だよ」

「護衛の皆様、本日もよろしくお願いいたします」

「畏まりました」


サラはいつも以上に無表情ですました顔をして挨拶した。


その一方で、ゴーレムのソフィアは微笑みながらダニエルに挨拶した。


「おはようダニエル。今日もお願いね」

「おはようございますソフィア様。本日も美しいですね」

「ありがとう。今日はサラお嬢様のメイドのマリアさんに髪を整えてもらったの。そのせいかしらね」


サラの護衛騎士たちも微笑んでいるソフィアに目を奪われ、ダニエルを羨ましそうに見ている。


その様子を見ていたサラは、内心で『あぁ、やっぱり気付いてないな』と思った。





乙女の塔に到着したサラたちは、アリシアとアメリアに迎え入れられた。少し時間が早いせいか、まだ他の人は到着していないらしい。


乙女の塔は許可のない男性は立ち入り禁止であるため、子供たちが学習している間、護衛騎士たちは騎士団本部に戻る。ゴーレムに守られているため、騎士団が周囲を警戒する必要も無いと判断されている。


騎士たちが塔から離れると、ブレイズが話しかけてきた。


「ねぇ、サラ。舞踏会とかはともかく、ゴーレムでソフィア商会の仕事ができるの?」

「え、サラの方がゴーレムじゃないの?」


『おっと、スコットは騙されてるな』


「スコットよく見ろよ。こっちが本物のサラだよ」

「いや、でも表情が人形みたいだよ?」

「なんでわかんないかなぁ。ってかサラもそろそろ無表情でいるの疲れない?」

「ブレイズが正解! 凄いねマリアしかわからないかと思った」

「おい、ブレイズなんでわかるんだ?」

「纏ってる雰囲気が違うだろ」

「全然わからないよ! くぅーー、なんか負けた気分だー」




一方、馬車でソフィア商会の本店に到着したゴーレムのソフィアは、従業員たちに挨拶の声をかけつつ執務室に到着した。すると、サラの予想した通りにダニエルが声を掛けてきた。


「確認しておきたいのですが、ソフィア様は本物ですよね?」

「ここで執務するのに確認が必要かしら」

「で、ですよね。ゴーレムに商会の仕事を任せるはずないのに。変なことを聞いて申し訳ありません」


そこに28号が入室してきた。


「それは聞き捨てならないですね。私はちゃんと仕事してますよ?」

「や、そうだけどさ」


すると、ゴーレムのソフィアがくすくすと笑い始めた。


「ダニエル様、騙されてましたね。私はゴーレムです」

「え!?」


ゴーレムのソフィアから正体を聞かされたダニエルは顔色を失った。その様子を見ていた28号もダニエルに声を掛ける。


「やはりダニエル様には見分けられなかったようですね。サラお嬢様が予想した通りです」


にっこりと微笑んだゴーレムのソフィアは、サラに言われた通りの台詞をダニエルに伝えた。


「私を見分けられなかった時に伝えるようにと、サラお嬢様から伝言がございます。『私とゴーレムを見分けられないような男が、私を口説いたりするものではないわ。昨夜はエスコートしてもらったから大目に見るけど、次に護衛の立場を逸脱するような行動を取ったらクビにするからね。私が8歳ってこと忘れてるわけじゃないわよね? それとも幼児性愛者だったりする? だとしたら超キモい』だそうです」

「え、断じて違います!申し訳ございません!」


ダニエルはその場で膝をついて項垂れた。ソフィアの姿、ソフィアの声で言われるのだ、ダニエルが受けたダメージは計り知れないほど大きい。


だが28号は容赦がなかった。


「そんな大きな身体でそこに居座られると業務の邪魔です。そもそも謝罪はゴーレムのソフィア様ではなく、ご本人にすべきではありませんか?」

「はい…」


ダニエルはしょんぼりと肩を落とし、いつもの待機場所へと引き上げた。

自分で書いておいてなんですが、なんともいえずダニエルが不憫(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
作者様 ダニエルはちっとも不憫では有りません。サラが言っていることが常識(!?)です。 知らないなら兎も角、ソフィアの本体が8歳の少女であると知っていてあの舞踏会での態度は正直気持ち悪かったです。 そ…
ブレイズやスコットがとにかく気持ち悪い…
[一言] ブレイズくんの「理解のある彼」ポイントがどんどん貯まっていく…!
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