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鉱山と薬草と討伐報酬

「情報の共有方法については、別途改めて検討いたしましょう。実は討伐依頼を出したい理由は、魔石鉱山だけではないのです」

「というと?」

「その周辺で薬草も採取できるのです」

「なんと!」


ギルド関係者たちは互いに顔を見合わせ、アレクサンダーは慌てて地図を覗き込んで魔石鉱山の位置を確認する。


「これは薬師ギルドでは確認できていない情報ですね」

「錬金術師ギルドでも同様です」


これについては、カストルが説明する。


「この魔石鉱山が発見されたのは、ごく最近なのです。いまのところ少量の火属性と土属性の魔石を採掘できていますが、どの程度有力な鉱脈なのかはまだわかっていません。周囲には魔物が多く出没するため、調査があまり進んでいないのです」

「ふむ」

「鉱夫たちは採掘時に怪我をすると、周辺の薬草で治療するのだそうです。些細な怪我であれば山を下りる手間をかけられないというのが理由ですが、結果として多くの鉱夫が薬草の知識を持っています」

「それは興味深い話ですね。薬師ギルドも鉱夫の方々と交流すべきかもしれません」


どうやらギルド関係者たちも、情報共有や連携の重要性を理解してきたようだ。


「この魔石鉱山は採掘を始めたばかりで採掘量が少ないため、鉱夫たちの収入はあまり多くありません。そのため鉱夫は収入を補うため、周辺に自生している薬草を採取し始めたのです。中には妻や子供などの家族を連れて山に入り、自分が採掘している間に薬草を採取させる鉱夫もおります」


これにはサラが反応した。


「待ってください。鉱夫の方々は採掘した鉱石の分しか収入がないのですか?」

「はい。領内の鉱山から採掘した鉱石や魔石は、すべて領政府が買い上げます。それが何か?」


カストルには、サラが何に疑問をもったのか理解できない。


「それでは鉱夫の方々は、採掘量の多い鉱山にばかり集まってしまうのではないかと」

「ああ、そういうことですか」と、カストルは納得して解説した。


「それぞれの鉱山で採掘できる鉱夫は、明確に定められています。鉱山ごとに採掘できる鉱夫の人数は定められており、領からの認可を受けた鉱夫以外の採掘は違法です。採掘権は毎年見直されますが、前年の更新が優先されるため、採掘権をもった鉱夫の人数が減らない限り新規に参入はできません。そのため新たな鉱山が発見されると、その採掘権を求めて領の内外から鉱夫たちが殺到します」

「なるほど」

「しかし、実際にどの程度の埋蔵量があるかは、掘ってみなければわからないため、博打のようなものですね」

「最低補償はないのでしょうか?」

「新たな鉱山では埋蔵量も明確ではないので、鉱夫を集めるために最低賃金を補償することはあります。今回の魔石鉱山にも補償はありますが、微々たる金額です」

「つまり生活に困窮するほど少ない、ということですね?」

「仰る通りではありますが、あまり高く設定してしまうと、働かずに補償された賃金だけを受け取る不届き者もおり…」

「なるほど理解しました」


『そういえば前世でも給料泥棒としか思えないヤツがいっぱいいたなぁ。あの上司とかあの上司とか…』


「とはいえ、女性や子供が命の危険も顧みずに薬草採取をしなければならないとは、魔石はそれほど少ないのでしょうか」

「どうやら、かなり固い岩盤にあたったらしく、採掘に苦労しているという報告はうけております」

「採掘に使用する道具などに工夫はできないのでしょうか?」

「基本的に採掘に使用する道具は鉱夫の私物で、どのような道具を使うかも鉱夫に任せています。こちらで用意することはありません」

「それは道具を買うことすらままならない人は、鉱夫になれないということですか?」

「道具を有料で貸し出す業者はおります。新たに鉱夫になった者、あるいは道具を破損してしまった者は、こうした業者から道具を借り、お金が貯まったら新しい道具を購入します」

「ちなみに、借りた道具を壊してしまった場合は?」

「一般的には破損した道具を業者に返して、あらかじめ業者に預けておいた保証金をそのまま業者に支払う形になりますね。保証金は業者や道具の状態によっていろいろですが、ひと月分の使用料くらいが相場のようですね」


『固い岩盤か…魔法で解決できたりはしないのかしら…』


「ところで魔石鉱山近くの薬草とは、どのような種類があるのでしょうか」


サラが沈黙して考え込んでいると、しびれを切らしたようにアレクサンダーがカストルに向かって質問を投げかけた。


「一覧はこちらにあります。これまでの採取量が多い順に記載しておりますが、実際にそれぞれの薬草がどのくらい自生しているのかの調査はできておりません。採取した薬草の一部をこちらにも用意しておきました」


カストルがメイドの一人に声を掛けると、メイドは薬草が入った小さな木箱をテーブルの上に並べ始めた。


「こ、これほどの質とは…」


それぞれの薬草を手に取りながら、アレクサンダーとテオフラストスは感心しきりである。


「それは今朝採取した薬草です。鮮度の良い状態を確認していただきたかったので、取り急ぎ騎士団に依頼して馬で運んでもらいました」

「これだけの薬草が領内に自生していたとは驚きです。中には外国からの輸入に頼っているものもありますので、大発見と言っても過言ではないでしょう。すぐにでも薬師ギルドから採取依頼を出して薬づくりをしたいところですね」


カストルの説明にアレクサンダーは興奮して鼻息が荒くなっている。もちろんテオフラストスも負けていない。


「種類の多さもそうだが、それぞれ含有している魔力量が素晴らしい。錬金素材として最上級ですよ!」

「いやいや、これだけの薬草を錬金素材などもったいない!」

「何をいう。魔力回復ポーションや、エリクシルの素材にもなるような魔力量だぞ」

「そんなものより、まずは領民の健康の方が大切だと思わないのか!?」


『また始めたよ。ある意味仲がいいのかもしれないけどさ…』


「そこまでにしてください。まだ安定した採取の目途すら立てられていないのです。そういう議論は後ほどなさってください。ジャンさん、冒険者ギルドに討伐依頼を出したい理由がご理解いただけましたでしょうか?」

「はい。サラお嬢様の仰ることは理解できました」

「早速討伐依頼を出したいとは思うのですが、その予算については薬師ギルドや錬金術師ギルドとも相談したいところですね」

「それは、討伐報酬を我々のギルドも負担せよということでしょうか?」


アレクサンダーがサラに質問すると、サラは満面の笑みを浮かべて答えた。


「当然ではありませんか! 貴重な薬草が自生する場所の安全を確保するための報酬ですもの」

「し、しかし…」

「私共も魔石を安全に採掘するための資金を惜しむつもりはございません。ですが、より多く報酬を負担していただけるギルドの方に、より多くの薬草を卸すのは当然ですよね?」

「もし、負担しなかった場合には…」

「こちらは『お願い』する立場ですので、報酬を負担しないからといって罰したりすることはありません。ですが、討伐報酬用の費用を捻出するため、薬草はすべて領で買い上げ、それなりの手数料を乗せた上で"競り"にかけます。場合によっては他領に販売するかもしれません」


サラは、ここぞとばかりにレベッカの授業で習った貴族的な微笑みを浮かべるが、言っていることはかなりえげつない。しかもギルド同士の諍いを微妙に煽る腹黒さである。

これには、ギルド関係者たちも顔を引きつらせながら同意するしかなかった。


こうしてサラは討伐報酬の大部分を薬師ギルドと錬金術ギルドに押し付けることに成功したのである。

素晴らしきかな競争原理!

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― 新着の感想 ―
競争原理ってやつは適度なら素晴らしいのですけど過度に働くと 「謀略で相手を潰してからこちらの意思を通せば良い」 となります。マフィアの交渉術と同じですね。
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