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学習したほうがいいらしい

コンサバトリーには、昨夜の晩餐と同じメンバーが勢揃いしていた。


「おはようございます。今朝は人数多いですね」

「おはようサラ」


ロバートが爽やかに挨拶を返した。他のメンバーも同じように短い挨拶を返す。


「遅れたつもりはなかったのですが、私が一番最後なのですね」

「図らずも昨夜は早寝してしまったからな」


やや恥ずかし気に侯爵が応えた。


「あぁ、なるほど。皆様魔力戻りました?」

「それなんだが、サラお前何かしたか?」


エドワードが真剣にこちらを見て問いかけた。


「何かとは?」

「魔力の回復速度が速いのだ。以前に魔力枯渇で倒れた時は、回復までに3日はかかったのだが、今朝はスッキリと目覚めた。魔力も少し増えているような気がするのだが、成人してから魔力量が増えるという話は聞いたことが無いのでな」

「いえ、私は何もしておりません。気のせいではありませんか?」


そのタイミングでサラの前にスープがサーブされた。


「ありがとう」


サラがサーブしてくれた執事見習いの少年にニッコリと微笑みかけると、彼はほんのりと顔を赤くして会釈した。


彼の仕事ぶりをチェックしていた執事は、後で彼に動揺を顔に出してはいけないと注意すべきか迷った。今日のサラはいつも以上に美少女な仕上がりになっているため、仕方がないかもしれないと考えたからである。


「実は私も同じことを考えていたのだ」

「うん。僕もなんだよね」


そこに侯爵とロバートまで同じことを言いだした。


「そんなに回復量が多いのですか?」

「そうなのだ」

「まったく思い当たることはありません。私は何もしておりませんから」


『この三人の共通点は…、昨日魔力枯渇で倒れたこと?』


「アダムとクリスはどう? 魔力回復してる気がする?」

「昨日より少し怠いし、そんなに回復してる気はしないな」

「僕もちょっぴりしか回復してる気はしない」

「あら、それじゃぁ今日はチェスは無理ね」

「「えぇぇぇぇぇぇ!」」

「また倒れたらどうするのよ」


二人が明らかにガッカリしてるのを見ると可哀そうにも思えるが、倒れてまで遊ぶようなものではない。


「同じように魔力枯渇で倒れたアダムとクリスは、そのようには感じていないようですね。それ以外の共通点はなんでしょう?」


だが、アダムとクリストファーは、しつこくジタバタと騒ぎ立てていた。


「やっぱり回復してる!」

「スッキリだよ!」

「わかったわかった。お勉強終わったら、様子見ながらね。だけど無理はダメだよ?」

「「うん!」」


この様子を見たエリザベスは、本気で驚いた。何度も口うるさく勉強するように言い聞かせても、まったく勉強する意欲を見せなかった息子たちが態度を豹変させているからだ。


「サラさん、いま勉強と仰いましたよね?」

「そうですね。こちらにくる直前に家庭教師をクビにしたそうですから、後でスコットたちの家庭教師にまとめて見てもらうことにします」

「スコットって、騎士団長の息子の?」

「ええ。彼も来年はアカデミー受験を控えていますし、丁度いいと思います」

「『スコットたち』と言ってたけど、他にもいるのかしら?」

「ジェフリー卿は魔法使いの少年を養子に迎えたのです。素晴らしい才能を持った少年ですよ。彼はブレイズという名前ですが、クリスと同じ年齢なのでお互い良い刺激になるのではありませんか?」

「で、でも元平民なのよね?」

「伯母様、それを言ったらスコットも私も平民ですよ。朝っぱらから見事なくらいゲスゲスしいですねぇ」


一瞬にしてコンサバトリーの空気が氷点下まで下がった。


「あ、その…見下したつもりはないのよ。ただ、お勉強のレベルが合わないのではないかと気になって」


エリザベスが慌てて自分の発言をフォローする。


「あぁなるほど。その心配はありますね」

「でしょう?」

「確かにアダムやクリスが彼らに勝てるはずありませんもの」

「え?」


サラの指摘にエリザベスがビクリと肩を震わせた。


「スコットは来年のアカデミー受験にはまったく問題ない学力だそうです。ブレイズも最初は読み書きに手間取ったそうですが、すぐにもスコットに追いつきそうなレベルだそうですよ?」

「そ、そうなの。とても優秀な家庭教師がいらっしゃるのね」

「元王宮文官だったそうですから、間違いなく優秀な方でしょうね。あ、彼も平民ですね。タイラー子爵のお孫さんではあるのですが」


いきなりエリザベスがガタリと立ち上がった。


「ま、まさか。トマス・タイラーなのっ!?」

「はい。伯母様はトマス先生をご存じなのですか?」

「王都で彼を知らない貴族女性がいたらモグリですわよ!」


『なるほど。これはトマス先生が苦労するわけだ』


「伯母様。こんなことを申し上げるのは憚られるのですが…はしたないです。それと、お顔が赤いです」

「あ、あら。ごめんなさい」


慌てて取り繕ったものの動揺が隠しきれていないエリザベスは、ゆっくりと椅子に腰かけた。


「彼が王都を離れざるを得なかった理由をご存じでしたら、他言すべきではないこともご理解いただけますよね?」

「確かにそうね」

「あの騒動に伯母様が関与してなくて何よりでしたね」


確かにトマスに恋して暴走した男爵令嬢の件にエリザベスは関与していない。だが、噂を口に載せるくらいはしたかもしれない。それほどトマスは絶大な人気を誇っていた。


『前世のアイドルみたいなもんなのかなぁ? 真面目に文官してたトマス先生には、いい迷惑だよね』


「いずれにしても、ここにいる間はアダムとクリストファーに勉強してもらいます。終わった後にチェスで遊ぶそうですから、魔力の制御訓練にもなるでしょう。魔法を発動できるようになれば儲けものですね」

「えっと、ブレイズが魔法使いなのは伺いましたが、スコットも?」

「ご存じありませんでしたか? 二人とも火属性の魔法を発現していますよ。近いうちに別の属性も発現しそうな気はしますね」

「トマス先生も?」

「本人のいないところで明かすのはマナー違反ではありますが、土属性と木属性の魔法を発現していらっしゃるそうです。それに、魔法訓練は私と一緒にやっていますので、お母様、いえレベッカ先生も一緒に魔法を指導しています。だから私の治癒魔法もなかなかでしたでしょう?」


サラはエリザベスに向かって優雅に微笑んだ。その隣でレベッカも同じように微笑んでいる。要するに淑女的なドヤ顔である。


もちろん、エリザベスも微笑んでいるが、口許は微妙にぴくぴくと動いていた。


「ところで剣術はどうしますか?」

「スコットたちはどうしているの?」

「普段はジェフリー卿が直々に教えていますが、今は忙しいから代理かもしれませんね」


するとアダムがキラキラと目を輝かせた。


「僕はジェフリー卿に教わりたい! 彼に剣術を教わりたいと何度も祖父様にお願いしたんだけど、グランチェスター領から離れるわけにはいかないと断られたんだ!」


王都で開催される剣術大会で何度も優勝しているジェフリー卿は、貴族子弟にとって英雄である。グランチェスター領の騎士ということで、アダムの自慢でもあった。


「こちらにいる間だけなら、何度か指南を受けることくらいできるんじゃないかな」

「やったーー!!」

「その代わり、弱音吐いたらその場で丸刈りにするからね」

「おう! ……待てよ。その場でってことは、サラも訓練受けるのか?」

「もちろん」

「お前、一応女だろ?」

「一応ってのが気になるけどその通りよ。でも王都にだって女性騎士はいるじゃない」

「だが、あいつらは平民だぞ? あだっ!」


小さな氷の粒が、アダムの眉間にピシッと当たった。軽く当てただけなので、それほど痛くは無いはずなのだが、アダムは大袈裟に痛がっている。


「本当に学習しないわねぇ。その頭は飾り?」

「なんで平民って言っただけで怒るんだよ! 事実だろ? あだだだ」


追加で氷の粒が飛んだ。


「あのねアダム…あなたが貴族なのは、ご先祖様がこの国になんらかの貢献をしたからでしかないわ。あなたが偉いわけではないでしょう?」

「だが、僕はグランチェスター小侯爵の長男だぞ!」


サラはガックリと肩を落とした。


「人の価値を血統だけで測るのは見苦しいわ。少なくとも今のアダムは、それ(血統)しか誇る事が無いようにしか映らない。それを恥ずかしいと思ってないことが、もっと問題だと思うの。何一つ自分の力で成し遂げていない人物が、先祖の功績だけを誇るのは滑稽でしかないわ。っていうかね、このくだりは昨夜のやり取りで飽きてるのよ。まだ学習できてないの? 馬鹿なの?」


アダムに言っているようだが、その言葉は彼の両親を痛烈に批判していた。すると横からクリストファーがぼそっと言った。


「サラ、君も学習した方がいいと思う。アダムは学習できないからお馬鹿なんだよ」

「クリス、あなたって自分の意見を言えたのね」

「自分でもびっくりだよ。僕が何を言っても誰も気にしないし、アダムやクロエの言う通りにしてれば怒られないから楽で良かったんだけど、このままアダムと同じことしてたらサラと遊べなくなりそうだもん」

「そんなにチェスで遊びたいの?」

「うーん。それもあるけど、サラと一緒にいたら、面白いことがいっぱいありそうだからね」


『あれぇ? なんかスコットやブレイズと同じこと言ってないか?』

クリストファー覚醒!?

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クリス、まさかの覚醒!
クリストファー まさかの人形から人間へランクアップ?
[気になる点] まさか酒?
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