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え、聞こえてるの?

ふとブレイズに目を向けると、複数の馬が彼にじゃれついているのが見えた。


『あいつ、牝馬にモテまくってるな。お前の旦那か?』

「そんなわけないでしょ。私まだ8歳よ」

『オレたちなら8歳にもなれば仔馬の一頭や二頭いてもおかしくないんだが』

「一緒にしないでよ」

『人間は成長が遅いよな』

「しかも私は特別製だから成人してもなかなか老人にはならないわ」

『あぁ、こいつらのせいか』

「知っているの?」

『お前たちが思ってるより馬はいろいろなことを知ってる。特にオレのような馬はな』

「あなたのような馬?」

『お前も転生者なんだろう?』

「!?」

『馬にも転生を繰り返すヤツがいるんだ』

「デュランダルも転生したの?」

『オレはまだ1回しか転生していないが、何度も転生を繰り返してるって馬には会ったことがある』

「そうなんだ」

『オレもなんで転生したのかはわかんねーけど、今回はお前みたいな面白そうなヤツに出会えて嬉しいよ』

「ありがとう」


サラはデュランダルの頭におでこをくっつけた。


「ところであなたに馬具を着けてもいい?」

『いいぞ』

「お話しできる相手に馬具を着けるのちょっと抵抗あったのよ」

『別にそんなにイヤなもんじゃねーけどな。たまにヘタクソなやつにつけられると痛いことがあるんで、そんときゃサラが直してくれよな』

「わかった。ちゃんと扱い方を習っておくね」


相変わらず、女の子(馬だが)にモテモテなブレイズは、どの子を選べばいいか悩んでいるようだった。


「あれだけ懐かれると選べないわよねぇ」

『全部に種付けすりゃーいいじゃねーか』

「ちょっとなにいってるのよ! まだ子供なのよ! っていうかブレイズは人間です」

『お、ヤキモチか?』

「ちがーーう」


デュランダルは歯を見せて笑った。明らかにサラを揶揄っているようだ。


「まだ2歳なのに、なんでこんなにオッサンみたいな性格なのよ」

『そりゃ前世は30歳まで生きたからな』

「ある意味では同世代だわ」

『なんだ、ばーさんだったのか』

「だから馬と一緒にしないで、まだ女ざかりだったわよ!」

『いろんなオスに乗っかられたか?』

「お黙りデュランダル。それ以上言うと鍋にして食べるわよ」

『おお怖っ』


出会った初日から馬と飲み会のオッサンのような会話をするとは、さすがのサラも想像していなかった。


「ところであの女の子たちの中で、デュランダルがおすすめの子はいる?」

『そうだなぁ。みんな気の強い女ばっかりだが、あの葦毛のヤツはそこらの牡馬より足が速いぞ』

「デュランダルより?」

『馬鹿言うな。オレは同じ年の馬の中では一番だ!』

「ふーーーん」

『あ、疑ってるだろ?』

「だって見たことないもの。けど祖父様とロニーさんが予め選別しておいてくれた馬たちだから、きっと優秀な子ばっかりだと思うわ」

『まぁな。たしかにこいつらはかなり優秀だ。けど、オレが一番だからな!』

「そっか。じゃぁ走ってみようか。馬具を装着してもらわないと」


サラは厩務員にスコットからもらった子供用の馬具を装着してもらいつつ、その様子を横で見て自分でもできるよう教えてもらうことにした。


ついでに厩務員に質問してみた。


「ねぇ、この子は速い馬なの?」

「そうですねぇ。同世代の中ではダントツに速いのは確かですが、気まぐれなんで騎手が気に入らないと走らないんですよ。お嬢様のいうことを聞いてくれると良いんですが」

『おい、そいつの言うことを信じるなよ? オレは無意味に馬に乱暴するヤツが嫌いなんだよ』

「なるほど。覚えておくわ」


馬具の装着が終わると、サラは踏み台を用意してもらってデュランダルに乗った。


『お前、馬に乗ったことあるんだな』

「わかる?」

『あぁ、姿勢が自然だからな』

「だけどこの身体で疾駆させたことはないわね」

『そうなのか』

「でも本気の速さを知りたくもあるのよね」


馬を疾駆させるのはとても気持ち良いが、生き物である以上、その速度は数分しか持たない。無理に走らせ続ければ、馬はそのまま死んでしまうこともある。狩猟場に急いでいる時でさえ、全力で走らせるのは馬を替える直前だけであった。


「祖父様、ちょっと馬場に出ても良いですか?」

「構わんが無理をするなよ?」

「スコット付きあってやれ」

「承知しました」


スコットも自分の馬に乗って、サラと一緒に馬場に出た。大きな芝のコースを、最初はゆるゆると常歩で歩いていく。ちなみにスコットの馬は白毛なので、今の彼は完璧に白馬の王子様といった風情である。


「経験者とは聞いてたけど、本当だったんだね」

「私は国境に近い辺りで生まれたの。両親はどちらも馬に乗ってたから、私も自然に乗りたいってワガママ言ったんだよね」

「そうなんだ」

「うん。3歳くらいの頃から母さんが教えてくれたんだ」

「アーサー卿じゃないんだ」

「父さんは、あぶないから駄目って反対してたから、父さんがいないときにこっそり」

「ふふっ。サラは愛されてたんだね」

「そうかも。ところでスコット、私この子の速さを知りたいの。走らせてもいいかしら?」

「トロットまでならいいけど、キャンターやギャロップはまだ駄目だよ」

「えー、つまんないよ」

『おう、つまんねーよな』

「ほらデュランダルもつまらないって言ってる」


スコットは苦笑してサラとデュランダルを眺めた。


「サラの場合、本当に会話してそうで怖いよね」

『してるぞ』

「大丈夫、デュランダルの言ってることしかわかんないから」

「それ全然大丈夫に聞こえないんだけど」

「まぁまぁ。固いこと言わずに併せ馬しよう!」


それだけ言うと、サラはスコットよりも先にデュランダルを駆けさせ始めた。スコットの馬は5歳の立派な軍馬であり、速さにも定評があることで知られていた。気が付けば二人と二頭は、芝の長い直線コースで全力疾走していた。


サラもスコットも鞭を入れずに馬なりに走らせていたが、馬同士が競い合っているのだ。勝負はスコットの馬が僅差で勝ったが、デュランダルもなかなかの速さであった。


「その子は凄いね。まだ2歳だろ?」

「私もここまで速いとは思いませんでした」

「このディムナは父上の馬の子で、母馬も速い競走馬として優秀な血統から選んで。けどデュランダルは、もっと速くなるんじゃないかな。2歳の馬が併せ馬でディムナに本気を出させるとはビックリだ」

「よかったわね。デュランダル」

『よかねーよ。オレは負けたんだ…』


どうやらデュランダルは相当悔しかったらしい。


「この子、拗ねてるみたいです」

「負けず嫌いなのも良い傾向だよ」


そこに、厩務員に手綱を引いてもらったブレイズがゆっくりと、馬場に向かってきていた。どうやら彼はデュランダルに勧められた葦毛の馬を選んだようだ。


「ブレイズも馬を選んだようね」

「牝馬にモテモテなのは凄かったな」

「あと数年したら、馬だけじゃなくて人間の女の子にもモテモテになりそう」

「確かにあいつは整った顔をしてるよ」

「いまは可愛いだけど、すぐにカッコいいになっちゃうんだろうね。そのうちブレイズを好きになった女の子たちから幼馴染ってだけで意地悪されそう」

「素直に負けるような性格してないだろ」

「否定できないわ」


するとさっきまで落ち込んでいたデュランダルが、首を上げて嘶いた。


『やっぱり、あいつに乗っかってもらうのか?』

「デュランダル、いい加減にしないと持ってきたエルマあげないからね」


サラはデュランダルの耳元に低い声で答えた。スコットは不思議そうな顔をしたが、まさか「馬が下ネタを話すので困っている」などと説明するわけにもいかないので、曖昧な笑顔で誤魔化した。


そこに侯爵とレベッカも馬を進めてきた。


「サラさん、いきなり疾駆するなんてどういうことですか! 危ないでしょ」

「スコットもだ。何のためにサラに付き合わせたのかわからんではないか」


大人たちは怒っていた。


「ごめんなさい。私がスコットの制止を振り切って、勝手に走らせたのです。デュランダルの速さを知りたくって。祖父様、スコットは悪くありません」

「いや、僕も併せ馬に乗っかってしまったから同罪だよ」


しょんぼりとした二人をレベッカがきちんと叱った。


「いいですか。サラさんが優秀なことは良くわかっていますが、身体はまだ出来上がっていないのです。万が一大人が見ていないところで落馬などしたら、取り返しがつかないことになりかねません。落ち方が悪ければ首の骨を折ってしまうこともあるのです。私の治癒魔法でも即死した人を蘇生することはできません」

「ごめんなさい」

「スコットもですよ。危険性はきちんと理解していたでしょう? この件はジェフにも伝えますからね」

「はい。申し訳ございませんでした」


二人の様子を見ていたデュランダルも、さすがに悪いと思ったらしくサラに声を掛けた。


『すまん、サラ。オレのワガママに付き合わせて』

「あら、デュランダルも一緒に反省しているのね。賢い子ね」

「お分かりになるのですか?」

「当然でしょう? これだけ妖精がいるのですもの」


すると周囲が一斉に驚いた。


「もしかして、本当に馬の言っていることがわかっているのですか?」

「ええ、デュランダルは妖精に愛されている馬ですもの」

「それでは先程からサラお嬢様がデュランダルと会話しているように見えたのは、本当にお互いの言葉を理解しているということですか?」

「もちろん」

「そうじゃないかとは思ってたけど、サラ…本当にデュランダルと話ができたんだ」

「ええ。そうよ」


「「「なんて羨ましい…」」」


侯爵、スコット、ロニーが一斉に声を発した。しかし、さらに驚いたのは、その後のブレイズの発言であった。


「え、オレもわかるけど?」


全員がブレイズを振り向いた。


「ブレイズにもわかるの?」

「うん。さっきからデュランダルとサラはずっと話してたよね」

「ええ」

「デュランダルが、オレの周りにいた馬たちを見て『あの葦毛のヤツはそこらの牡馬より足が速いぞ』って言ってたから、この子を選んだんだ」

「本当に聞こえてたのね」


傍に控えていたロニーは驚いたように声を発した。


「確かに牝馬の中ではこの子が一番速いです。デュランダルにもわかっていたのですね」


レベッカも不思議そうにブレイズを見つめた。


「ブレイズ…もしかしてあなた、妖精の友人がいるの?」

「ううん、いないよ。ただ、ここに来てから、ずっとサラとデュランダルの周りに光の玉が飛んでるのが見えてる。そういえばレベッカ先生の髪の近くにもいっぱいいるね」

「なんてこと…」


レベッカは侯爵の方を振り返り、今すぐ帰城することを進言した。サラとブレイズは既に自分の馬を選んでいるため、今日の目的は達成したとして侯爵も了承する。手早く馬の譲渡関係の書類にサインをした侯爵は、そのまま馬を連れて帰城することにした。


サラはデュランダルに一人で乗ったが、さすがにブレイズは行きと同じくスコットの馬に乗り、ブレイズの馬は空馬のまま曳いていくことにした。なお、ブレイズはこの馬に『アルヴァ』という名前を付けている。


ブレイズは馬に乗る前にサラに歩み寄り、耳元で囁いた。


「サラ安心して! 今のところ僕はサラに乗っかる気はないから」

「#&$”!?」


どうやらデュランダルの下ネタもバッチリ聞かれていたようである…。

サラ:ブレイズが下ネタの意味も理解してそうで怖い

西崎:傭兵団の中で育ってるんだし、わかってる方に100カノッサ

サラ:作者よ…トシがバレるぞ

西崎:ペリカで言うべきか? でも読者も薄々気づいてるんじゃ?

サラ:開き直るなよ

西崎:サラに言われても説得力が皆無だね

サラ:確かに!

西崎:ところで気付いてるか?

サラ:何に?

西崎:ブレイズは"今のところ"って言ってたぞ

サラ:はうっ!

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― 新着の感想 ―
カノッサ 1991年から約1年にわたり放映された深夜のクイズ番組で出てきた単位。
ストレートコース…ここは新潟だったのか。
アウデレスで!()
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