第1話 もう、いい。お前、ちょっと今夜、付き合えよ
「イツキさん、本当に大丈夫でしょうか?」
「たぶん……」
「たぶんって、そんな……頼りないですよ!!」
さて、エールとテイム契約を結んだ俺だが、肝心の彼女をダンジョンに縛り付けている呪いについては、どうなったか分かっていない。
「だから、これから試してみるんだよ」
「でも、失敗したら……」
「その時はテイマーとして責任を取る。このダンジョンの地下で、一生エールの面倒を見る」
「イツキさぁん……」
エールが涙ぐんだ声を出す。
とりあえず扉の先にあった、ワープポイントで俺は60層に戻ることにする。
ここに落ちてくる前、俺とハセガワくん達がいた場所だ。別に、彼らに報復をしようというわけではない。あれから数日経っているので、彼らもいるはずがないし。
「グルゥウウウウ……」
60層にはハセガワくんが討伐に失敗した狼型の魔獣がいる。
「さてと、俺の力が本物なら、彼をテイムすることも出来るはずだ」
テイムの方法は二通り。力で屈服させるか、信頼を勝ち取るか。
しかし、テイマーだから分かる。目の前の魔獣は、力を示さなければ、決して俺を認めることはないだろうと。
「ウォオオオオオオオオオオンン!!!」
狼は高く飛び上がると、爪を振り下ろしてくる。俺は即座に後ろに跳ぶと、それをかわす。
「すごい。本当に身体軽くなってる……」
敏捷性に全振りしただけあって、スピードと反射神経が著しく向上している。
今まではまるで、身体に重りが乗っているかのようであったが、今はそれが羽根のように軽い。
「グゥ……」
狼も、俺の速度を目にして、手を抜いてはいられないと感じたのか、先ほどよりも更に俊敏な動きで俺を追いかけ始める。
「一撃でも食らえば……即死だ」
速度は達人級でも、耐久は一般人だ。当然、60層のボス相手に耐えられるからの作りではない。だから、これは賭けでもあった。
俺は追撃してくる狼と、全力で鬼ごっこを繰り広げるのであった。
「ウォウ!! ウォオオ!!」
知性もそれなりに高いのか、フェイントを織り交ぜながら、狼は的確に俺を追い詰めようとする。
俺は頭をフル回転させながら、逃げに徹する。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「グルゥウウ……」
ひとしきり追いかけっこを繰り広げた後、狼の身体うっすらと光り始めた。
「ちょっとだけ俺を認めてくれたようだ」
まだ、テイムするほどには至っていない。やはり、ここは彼女の力を借りよう。
「ウォオオオオンンン!!!!!」
狼が地面を蹴って俺に襲いかかってくる瞬間、俺は彼女の名前を叫ぶ。
「出ろぉおおおおおおお、エールゥウウウウウ!!!!」
直後、目映い光と共に、一匹の白竜が空から出現する。
「出られました!! 出られましたよ、イツキさん!!」
エールは滑空して狼を、容易く吹き飛ばしてしまうと、歓喜の叫び声を上げる。
「ああ、これでもう君を縛るものはなにもない。何もかも大成功だ」
今の一撃で、狼も負けを認めたようだ。その身体が目映く輝き出す。
「我、クズハライツキは求める。汝、ゲイルの力と献身を。その対価として汝の幸せを約束しよう。汝、契約に応じるか?」
この日、俺はもう一匹の心強い仲間を得るのであった。
【基本情報】
名前:ゲイル
種族:戦狼族
性別:雄
レベル:67
【ステータス】
HP:512
MP:348
力:79
守備:63
魔力:52
魔法耐性:69
敏捷性:84
テイムボーナス:10
【スキル】
《戦狼の雄叫び》
「って、敏捷力僅差じゃん!!」
本当に賭けだったんだな。なんとか生き残って良かった。
敏捷性:89→99 up!!
というわけで、今回も敏捷性に全振りだ。なんか、キリ悪いな。
*
帝都の冒険者ギルド本部で、一人の男が苛立った様子で受付と会話していた。
「えっと、それで《戦狼の爪》はお持ち頂けましたか?」
「ありませんけど、なにか?」
「い、いえ……」
ハセガワの威圧に、黄緑髪の受付嬢が萎縮する。
「あのな、僕はまだ十七なんだよ。なんでも完璧に出来るわけじゃないし、まして今回の依頼は、並の冒険者じゃとても潜れないようなダンジョンの深層にいる魔獣からの素材採取だ。そんなに急かすような言い回しすんなよ!!」
バンッとハセガワが受付のテーブルを叩き、受付嬢がビクッと、肩をふるわせた。
「ご、ごめ……ごめん、なさい……私、そんなつもりじゃ」
「あ? なに言ってるのか聞こえねえよ!?」
さらにテーブルを叩く音が響く。
しかし、彼を止める者はいない。ダンジョンでは醜態を見せたものの、彼は《勇者》だ。その実力は並の冒険者を上回っているし、他の冒険者も彼を後援する皇族の威光を恐れてなにも言えないのだ。
「もう、いい。お前、ちょっと今夜、付き合えよ」
「え、え?」
「ガキじゃねえんだから、分かるだろ? 言っておくが僕は《勇者》だ。拒否する権利なんてないからな」
ハセガワは受付嬢の腕を強引に掴む。
「や、やめ、やめてください……」
受付嬢はすっかり怯えきった様子で振りほどこうとするが、ただの人間が腕力で敵うはずがない。他の職員達も見て見ぬフリだ。
「おら、さっさと――」
「ちょっと、失礼。用がないなら、先に俺が精算を済ませていいか?」
ハセガワに割り込むように、一人の冒険者が、布の袋をテーブルに置いた。
「お、お前は……」
ハセガワは信じられないものを見たかのような表情を浮かべる。
「《戦狼の爪》です。確か、削り出したものでも大丈夫ですよね?」
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