第5話 ようこそ異世界アプリへ
唇に温かく柔らかな感触が伝わる。
一体なにが……起こってるんだ。
これまでの話をまとめると、白竜のリュミエールとテイム契約を交わすため、俺は彼女にキスをするように求めた。
すると、白竜は姿を消して、絶世の美少女が俺の唇にキスをしていたのだ。あら不思議。
「こ、これで大丈夫でしょうか?」
混乱する俺を尻目に、そっと彼女が離れていく。
微かに残る唇の感触が恋しい……
「え、えっと……」
うわぁ、やばい……頭の中がパンクする。
このかわいい子……やっぱりさっきの竜だよな? 見た目の年齢は俺と同じくらい? なんかめっちゃ綺麗な銀髪だし、長髪だし。てか、おっぱいでか……
俺、こんな美少女と今キスをしたの? こういう時ってどうすればいいんだ? やっぱL○NEとか聞いた方がいいのか?
煩悩でいっぱいだった。
だって、しょうがないじゃないか。俺だって高校二年生。まだまだ思春期真っ盛りなんだ。
「そのだな……キスは別に口じゃなくても良かったんだ……」
「……っ!! わ、私、なんて恥ずかしい勘違いを!?」
銀髪の少女が顔を真っ赤にさせる。ちゃんと説明しておけば良かった。
「ぜ、全然、気にしてないけどね。よくあるよね。間違って唇にキスしちゃうの」
ねえよ。
「そ、そうなんですか? テイマーさんはその……経験豊富なんですね」
いや、童貞だが。
「なんなら、ファーストキスです」
「す、すみません。嫌でしたよね? 初めてが竜だなんて」
全然、嫌じゃないですけど。むしろ、ありがとうございます!!
「そ、それよりもリュミエールさん。折角、契約したんだから、俺のことはイツキと呼んで欲しいなって」
苗字はクズオとかいう不名誉なあだ名を思い出すのでお断りしたい。
「分かりました。でしたら、私のこともエールと。親しい人はみなそう呼んでいました」
「分かった。これからよろしく、エール」
「ところで、テイムはうまくいったのでしょうか?」
「ああ、そうみたいだ。俺の中で微かにエールの息吹みたいなのを感じる」
テイマーと魔獣の間には、お互いの霊子回路を結ぶ、魔力のパスというやつが形成される。
霊子回路はその生物が持つ、魔力の通り道で、テイマーはこのパスを通じて魔獣を召喚したりすることができる。
「というか、疑問なんだけど、どうして人間の姿に?」
「これですか? 私は竜に変身できる神竜族の一人で、こっちが本来の姿なんです。今までは呪いの力で強制的にあの姿にさせられていたのですが、契約を結んだ瞬間、戻れるようになったんです」
そうだったのか。初めてのキスが竜かあと思ったが、まさかこんなかわいい子とキスできるなんて。なんだか得した気分だ。
「もしかして竜ってみんな人の姿に?」
「いえ、神竜族だけです。基本的に神竜族以外は魔獣に分類されます」
ふむ。異世界の竜は意外と奥深いようだ。
さて、テイムはうまくいったが、呪いの方はどうだろうか?
彼女をここから連れ出せればいいのだが。
――おめでとうございます。ダンジョン最奥のボスが撃破されました。
その時、無機質な音声が俺たちのいる部屋に響いた。
「ボスが撃破された……?」
「ど、どういうことでしょう? 私、倒されてしまったんですか??」
「いや……よく分からないけど、俺とエールが契約したことで、ボスがいなくなったと判定されたのかもしれない」
ゲームでもたまに見る。通常ではあり得ないプレイで、無理矢理ボスをどこかに消し去ることで、撃破のフラグが立ったり、ストーリーが進行できるようになるあれだ。
「これはラッキーだな」
いまだかつて、ダンジョンを攻略した人間はいない。
70層以降のボスや魔獣が強力すぎて、誰も太刀打ちできないからだ。
しかし、俺は図らずも、テイムの力でそれを達成した。このダンジョンの奥に隠されたモノを見ることが出来るというわけだ。
――ダンジョン撃破を確認いたしましたので、宝物庫の扉とワープポイントを開放いたします。お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております。
なんだか、デパートのアナウンスみたいだ。
そんなことを思っていると、ごうっという音と共に、部屋の奥にある巨大な扉が開いた。
「イツキさん、なにがあるんでしょうか?」
どうやら、エールも中は見たことがないようだ。人類が誰も見たことのないダンジョンの宝物庫、一体なにがあるんだろうか。
俺は胸を躍らせながら、扉の向こうへと進んでいく。
*
「これは……」
扉の先で、俺は意外なモノを目にするのであった。
「なんでしょう、これ。長方形の形をしたつるつるとした、魔導具?ですか」
「スマートフォン。略してスマホだ」
「すまほ?」
一体どうして、こんなものがあるのか。
「他人と連絡したり、知りたい情報を調べる時に使うツールだ」
「手紙や本になるんですか?」
この説明だとうまく伝わらないようだ。
「俺達は今こうして近くで話してるけど、たとえ遠く離れたところでも、これを使えば今みたいに直接話が出来るようになる。他にも調べ物がある時は、図書館に行かなくてもこのスマホに聞けば、ある程度の情報は教えてくれるんだ」
「なるほど、便利な魔導具なんですね」
魔導具というのは、魔力で動くこの世界の家電みたいなものだ。当然、スマホは違う。
とはいえ、異世界転移のことを詳しく話してもややこしいだけなので、ここは魔導具ということで納得してもらおう。
「でも、こいつはハズレだな。スマホは魔力がないと動かないし」
俺はなんとなしにスマホの画面に触れてみる。すると……
――ようこそ異世界アプリへ。ご利用になりたい機能を選択してください。
「うおっ!? 起動した。なんだ異世界アプリって」
――当製品は、異世界の技術が用いられた、魔力駆動の特別製です。使用者の、異世界での暮らしを豊かにするために、様々な機能が盛り込まれています。
「基本操作は俺が使ってたものと変わらない。違う点は魔力で動くことと、異世界アプリとかいうのが入ってるってことか」
「面白そうな魔導具ですね。表面を触る度にころころ模様が変わるなんて」
さて、どんな機能があるのやら。
さっとスワイプしてみると【テイマーアプリ】なるものが見つかった。
試しに起動してみる。
【基本情報】
名前:リュミエール
種族:神竜族
性別:女性
レベル:150
【ステータス】
HP:700
MP:800
力:140
守備:130
魔力:170
魔法耐性:150
敏捷性:120
テイムボーナス:50
【スキル】
《雷魔法:S》《天候操作》
「つっっっっっっっよ」
リュミエールのステータスが表示されている。
この世界ではレベルの上限は1000。HP・MPは1000が上限。それ以外のステータスは300が上限だと言われている。
一般人のステータスは20が平均、冒険者で50前後、熟練の達人でようやく100に届くかといったところだ。基本的に150前後のステータスを持つ者なんてそうはいない。
ちなみに俺はHPとMPが100でそれ以外はオール20。つまり、平均の極みだ。
「しかし、このテイムボーナスってのはなんだ?」
一つだけ見慣れないステータスがある。一体なにに使うのだろうか。
俺は手に入れたスマホをあれこれと弄ってみる。
「うん? もしかしてこれか」
テイムした魔獣のステータス意外にも、テイマー自身のステータスを表示する機能も存在するようで、そちらを開くと答えがわかった。
【基本情報】
名前:クズハライツキ
種族:人間
性別:男性
レベル:17
【ステータス】
HP:105
MP:100
力:23
守備:20
魔力:10
魔法耐性:22
敏捷性:34
振り分け可能テイムボーナス数:55
【スキル】
《スライムテイム》《ラスボステイム》《テイムボーナス》《スキルリンク》
何度見ても悲惨なステータスだ。基本的にパーティの補助しかしないので、魔獣を倒して経験値を得ることもなく、この世界に来てからほとんどレベルも上がっていない。
しかし、先ほど見たテイムボーナス、これはどうやらそれぞれのステータスに振り分けることが出来るようだ。リンリンやウォルトを始め、俺は五匹のスライムをテイムしているため、そのボーナスも加味されているようだ。
「つまり、エールほどの力を持つ相手なら50ポイント、スライムだと1ポイント、それぞれテイムする度に得られる訳か」
恐らく、俺の中にある《テイムボーナス》というスキルのおかげなのだろうが、もしかしてこれ、破格の能力なのでは?
基本的にレベルアップすると、合計で1~5ポイント、ランダムに各ステータスが伸びる。しかし、俺はテイムする度にそのステータスアップを任意に行えるのだ。
テイムすればテイムするほど、俺自身が強化されていくというわけだ。
「よし、折角だ。極振りしてみるか」
敏捷性:34→89 up!!
これで、素早さだけは達人級。危機的な状況に陥っても、なんとか出来る逃げ足を手に入れたというわけだ。
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