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第2話 うんこ製造機。お前もうギルド抜けろ

「余計なコトしやがって、このドグサレテイマーが!!」


 戦いが終わって俺はゴミテイマーからドグサレテイマーに昇格した。

 そして、罵声と共に頭にガラス瓶を叩き付けられ、またもや血を垂れ流すのであった。痛い。


「ハセガワくん、どうしてそう何度もイツキくんの頭を殴るの!?」

「どいてろ!! そいつが僕の指示を無視したせいで、倒せるボスも倒せなかったんだよ!!」


 ホシナさんが俺をかばおうとするが、ハセガワくんの怒りは収まらない。


「マジでテメエのせいだからな」


 いつもの爽やかな雰囲気はどこへやら、今のハセガワくんは怒りのあまりに粗雑な物言いしか出来なくなっていた。

 さて、結果として、俺たちは敗北した。あの魔獣のスピードは凄まじく、前衛のハセガワくんが何度も重傷を負わされたのだ。


「言われてからポーション渡すんじゃおせえんだよ!! 傷が深くなったらポーション効き目ないって分かってんだから、指示される前に自分で考えてポーションを渡せよ!! 脳みそついてんのか?」


 その後、先の戦いの"反省会"が行われ、俺の行動が糾弾されることとなった。


「ほんと、言われた仕事もできないなんて最悪だよね」

「あんたがしっかりしてたら、ハセガワくんも怪我しなくて済んだかもしれないのに」


 自分の考えでスライムを回復に使ったら怒られ、指示通りにポーションを渡してみたら、脳みそついてるのかと詰られる始末でだ。あまりに理不尽すぎやしないか?

 そもそも、あの魔獣の攻撃力は凄まじく、一発でも攻撃を受けてしまえばスライム以外での治癒は難しい。

 しかし、そう説明したところでハセガワくんやその取り巻きたちは聞く耳を持たないだろう。


 なにせ今行われているのは反省会などではない。


 いかにハセガワくんが悪くないかと擁護し、そんなハセガワくんの足を引っ張ったのは誰かを決め、糾弾することで、ハセガワくんを中心にクラスメイト達の結束を深めようという会なのだから。


「勇者ランキングを発表する」

「え……?」

「勇者ランキングを発表するって言ってんだよ!!」


 ハセガワくんが突拍子もないことを言いだした。

 勇者ランキングは前から告知されていた、クラスメイトの評価制度だ。

 討伐した魔獣や達成した依頼に応じて、クラスへの貢献度を可視化して、みんなのモチベを上げるというのが目的らしい。


「最下位2ポイント、クズオだ」


 さて、この評価システム問題がある。


 なにせ俺が出来るのはスライムを使った防御や回復などの支援だ。当然、魔獣を倒す力などないので、討伐ポイントは獲得できない。

 依頼の達成についても、基本的に俺は他人の依頼についていってサポートをするのが基本だ。

 そして、依頼達成の評価も、その依頼での魔獣討伐数などが基準となって参加したメンバーに配分されるので、これもほとんど獲得することが出来ない。


 つまり、いくら俺が頑張っても、このランキングの評価システムでは無価値と判断され、最低値の評価となるわけだ。


「やっぱり、クズオが最下位だったな」

「当然だろ。スライムしかテイムできないテイマーなんてゴミだよゴミ」

「てか、俺らの稼ぎでこいつ養ってるってマジ? もう、うんこ製造機じゃん」


 散々な言われようだ。というか、うんこ製造機はひどすぎる。


 陽キャグループは、それなりに有用なスキルを手に入れたためか、こういう時はここぞとばかりにマウントを取ってくる。

 彼らの理論だと、日本に帰れるように努力しているのは自分たちで、他の者達はそれに甘えているのだそうだ。


「待ってください。イツキくんはちゃんとクラスに貢献してます」


 その時、一人の女子が異を唱えた。ホシナさんだ。


「魔獣は倒せないけど、さっきみたいにみんなを回復させたり、攻撃を凌いでくれたり――」

「キモ。なんでそんなスライム臭いのかばってんだし」

「ハルトくんの婚約者だからって調子乗ってない?」


 スライム臭いも言い過ぎだろう!! というかまずいな。ヘイトがホシナさんに向き始めた。

 彼女は、嫌われ者の俺にも公平に接してくれるいい人だが、ハセガワくんの婚約者であるということから、女子達のやっかみを浴びているのだ。

 本人は親が勝手に決めたことだから、その気はないと公言していることもそれを加速させている。


 仕方ない。ここは俺が悪意を引き受けよう。


「わかったわかった。要は、今回の失態が自分のせいだと認めたくないから、俺に責任をおっかぶせたいんだろ? いいぜ。俺が全責任を負ってやるよ、()()()()()

「なんだと?」


 図星を突かれたからか、ハセガワくんが鋭い眼光を向けてきた。


「勇者様が魔獣に傷を負わされて泣いてたなんて恥ずかしくて誰にも言えないよな。痛い、痛いぃいいいいいいいいいいだって。情けなくて笑っちゃうよ」

「黙れ!! 黙れぇええええええ!! 全てはお前のせいだ!! うんこ製造機のお前が俺の指示を無視したからこうなったんだ!!」

「今、思い返しても傑作だ。傷は完治してるのに、それに気付かず床を転げ回ってるんだもんなぁ」

「おい、もうやめろ。自分の無能を棚に上げて、ハルトくんを責めるなよ!!」

「そうだよ!! ハルトくんは、いつも前衛で必死に身体張ってるんだよ? 後ろでこそこそ逃げ回ってるうんこ製造機に笑う資格なんてない!!」


 本当に人望のないことだ。ハセガワくんに好意的な解釈はしてくれるのに、俺に関しては悪意ある見方しかしてくれない。

 だが、狙い通りではある。クラスメイトの憎悪は俺に向くし、こんな物言いをする人間をホシナさんもかばい立てはしないだろう。


「うんこ製造機。お前もうギルド抜けろ」

「ああ、こんなやつ要らねえよ。和を乱すだけだ」

「こんなクズ一人、日本に帰らなくても誰も気にしねえだろうしな」


 またまた、散々な言われようだ。だが、俺が残る選択肢はない。みんなの言うとおり、俺を気にする人間などどこにもいない。

 両親は幼い頃に死んでしまったし、養親もさっさと俺を追い出したがっているぐらいだ。なら、日本に帰れなくてもどこかの村でひっそり生きていく方が幸せだろう。


「はいはい。それじゃあ、俺はここで脱落するとしますよ。今まで世話になったな」

「おい、ちょっと待てよ」


 その場を去ろうとすると、なぜかハセガワくんが引き留めた。


「まだなんかあるのか?」

「お前、ひとつ勘違いしてないか? まさか、本気でここから無事に出られると思ってるのか?」

「は……? 一体なにを――」

「散々、虚仮(こけ)にされて許せるほど、僕は人間が出来てねえんだよ!!」


 激昂したハセガワの蹴りが俺の腹部に炸裂した。


「ごふっ……」


 仮にも勇者のジョブを持つ男の蹴りだ。

 ノーガードで食らった俺はたまらず口から色々なモノを吐き出し、勢いのままに吹き飛ばされていく。


「あ……」


 そして宙を舞いながら、俺はあることに気付いた。


「まずい……落下死する……」


 そう。俺が蹴り飛ばされた先にあったのは、このダンジョンの更なる深淵に続く大穴であった。


「うわぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 俺は大声をあげて叫ぶと、深い奈落の底へと吸い込まれていくのであった。

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