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第1話 言われた仕事しか出来ないような人間は、三流のクズなんだよ

 あれから後、俺たちはクラスごと異世界に召喚されてしまうのであった。


 魔王を倒して世界を救って欲しいとか、倒すまでは日本に戻れないとか、理不尽な目に遭わされたものだが、《勇者》という強力なジョブを手に入れたハセガワくんが中心となってまとめ上げることで、クラスメイト達はそれなりの落ち着きを得ていた。

 そして、ハセガワくんが設立したギルド【白竜の顎】は、未だかつて誰もクリアしたことがないというダンジョンと呼ばれる場所に挑んでいた。


「痛い……痛い痛い痛いぃいいいい!! ゴミテイマァァ!! さっさとポーションよこせよぉ!!!」


 ハセガワくんは狼型魔獣にやられて情けなく叫び散らかしていた。その傷は深く、迅速に手当てしなければ命を落としかねないほどだ。


 ――言われた仕事しか出来ないような人間は、三流のクズなんだよ。


 俺は、今こそ彼の言葉を実践する時だと思った。文化祭の時とは違う。今は人の命が掛かっているのだ。


「サモン・ヒーリングスライム!!」

「ピュィイイイ!!」


 重傷には効き目が低いポーションの代わりに、俺は癒しの力に特化したスライム(ちなみに名前はリンリンだ)を呼び出してハセガワくんにまとわりつかせた。

 この世界での俺の職は《魔獣使い(テイマー)》だ。こうして、仲間にした魔獣の力を借りることが出来る。もっともテイムできるのはスライムだけなのだが……

 ともかく、今呼んだ少しリンリンの力なら、あれほどの傷でも一瞬が塞がるはずだ。


「なぁああああ!? 気持ちわりぃんだよカスが!!」


 しかし、リンリンは即座に引き剥がされた。ハセガワくんはスライム治療がお気に召さなかったようだ。


「クソがクソが僕の指示を無視しやがって……お前みたいなゴミカステイマーは言われたことだけやってりゃいいんだよ!!」


 今の一瞬で傷はほぼ完治したのだが、ハセガワくんはなおも錯乱していた。


「いいから早くポーション持ってこい!! 僕の肩から血が……血がぁああぁあぁあああ!!!!」


 俺は呆れていた。

 あれほど自信に満ちて他人に無償の奉仕を求めていた彼が、今は情けなく地面をのたうち回っているのだから。

 しかも堂々と言い放った"名言"と、今は真逆のことを言っている。


「きゃあああああああああ!!」


 直後、ハセガワくんの前方から悲鳴が上がる。

 ハセガワくんが後退した後、他のクラスメイト達が前衛を張っていた。今の悲鳴は星奈静流(ほしなしずる)さんのもののようだ。

 クラス一の美人で《剣姫(けんき)》という職業を手にした彼女は、俺たちが一刻も早く日本に帰れるように、常に前線で命を張っていた。


「ゴミテイマー!! 早くポーションを寄越せぇええええ!!!」

「おい、ゴミテイマー!! シズルは重傷だ。さっさとなんとかしろ!!」


 別のクラスメイト――確か《戦士(ファイター)》のタケシだったか――がホシナさんの治療を求めた。

 相反する指示だが、見ればホシナさんの顔が真っ青に染まっている。どうやらあの魔獣の発する呪いの効果を受けたようだ。

 スライムの治癒力は毒や外傷には効くが、呪いにはあまり効果がない。無傷のハセガワくんと重傷のホシナさん、当然優先すべきは明らかだ。


「サモン・ウォールスライム!!」


 俺は即座に防御特化のスライム・ウォルトを呼び出して狼の攻撃を留めると、ハセガワくんをスルーして前に駆け出す。


「テメェ、なに無視してんだよぉおおおおおおおおおおお!!」

「もう傷は塞がってるんだからさっさと体勢を建て直してくれ」


 とっくに痛みも引いてるだろうに、いい加減にして欲しい。

 俺はホシナさんの元へ駆けつけ、教会で購入した聖水を傷口に振りかける。


「っ……ぁああああああああっ!!!!」


 ホシナさんが苦しみのあまり叫び声を上げる。

 呪いの治癒は過酷だ。教会の聖水は効果が高いが、解呪そのものの負担までは緩和できず、想像を絶する苦しみを負うからだ。


「すまない。だが、苦しいのは今だけだ。じきに治るから待っててくれ」


 解呪に掛かる時間は約十秒。

 それを待って俺はスライムを呼ぶと、外傷の治癒を開始する。これで、彼女は再び戦えるはずだ。


「あ、ありがとう」

「問題ない。さあ、ウォルトもそろそろ限界だ。すぐに体勢を立て直して」

「う、うん」


 さて、体勢は立て直した。今度は、錯乱しているハセガワくんをどうにかしないと。

 正直もう必要はないが、俺はポーションをハセガワくんの元へと届けることにした。しかし……


「僕の指示無視してんじゃねえよ、カスが!!」

「え……?」


 手渡したポーションのビンで、俺は頭を思いきり殴られた。


「ゴミテイマーのくせに余計な気回してんじゃねえよ!! 言われたこともまともに出来ねえのかよ、このタコが!!」

「でもハセガワくん、前にお前は――」

「口答えしてんじゃねえよ!!」


 さらにもう一度、頭を殴られた。血がどくどくと流れ出しズキズキと痛む。

 あーもう、今のでだいぶ脳細胞死んじゃったよ。


「ハ、ハセガワくん、なにをしてるんですか? まだ戦闘中ですよ!?」


 魔獣と交戦しながら、ホシナさんが呼びかける。


「うるさいだまれ!! 使えねえゴミを教育すんのも僕の仕事だ!!」


 おうおう、今度はホシナさんにまで怒号を飛ばしたよ。

 ハセガワくんは、いいところのお坊ちゃんだからなのかプライドが恐ろしく高い。そして、この世界に飛ばされて得た職業は《勇者(ブレイブ)》だ。

 つまり、この世界の主人公だ。だからこそ、先ほど醜態を晒したことが耐えられないのだろう。こうして周囲に当たり散らかすのがその証拠だ。


「……あとで覚えてろよ、ゴミテイマー」


 恨みの籠もった視線を俺に寄越すと、ハセガワくんは魔獣の方へと向かっていった。


「ピュイ」


 先ほど召喚したヒーリングスライムのリンリンが俺の側に寄ると頭に乗っかった。

 ハセガワくんに負わされた傷がみるみるうちに回復していく。


「ありがとう、リンリン」


 本当にこいつの癒やしの力は大したモノだ。残念なことにクラスメイト達にはその真価はなかなか理解されないが。


「とにかく、戦いに戻ろう。ハセガワくんがなに言おうと、お前の治癒力は必要になるからな」


 どんな嫌な目に遭おうと、俺の仕事はパーティのサポートだ。今はそれをまっとうするだけだ。

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