第2話 高額宝くじに当選した人の気分でこんな感じなんだな
翌日、俺は街から離れた場所にある、田畑を訪れていた。
「さて、《ワールドビルダー》のおかげで、居住地は確保できるようになった。井戸も置いたので、最低限の水も確保した。となると、次は食料になるのだが。」
水田と田畑は用意したものの、農業の担い手がいないのだ。まるで今の日本のようだ。
「ピュイ!!」
頭を悩ませていると、ヒーリングスライムのリンリンがやってきた。
「ピュピュイ!!」
なになに、魔獣を働かせてみたらどうだか。
魔獣に農業? 出来るのだろうか。俺は試しにスマホを開いてみる。
――可能です。水まきや、堆肥作成、害虫駆除、収穫、それぞれの作業を適した魔獣に行わせることが可能です。
「ピュイピュイ!!」
リンリンはどうやら堆肥作成や苗の体調管理が得意なようだ。地面に落ちてる落ち葉や糞を集めて堆肥にしたり、その癒やしの力で害虫や病気に対処できるようだ。
「さすがだな。やっぱり、スライムは有能だ」
俺は仲間のスライム達を呼び出すと、それぞれに適した農作業を行わせる。
「ザザ!! ザザ!!」
すると、スライム達の声に惹かれて、新たなスライムがやって来た。
「ピュピュ?」
「ザザザザ……」
翻訳すると、最近の地震で食べるものに困っているらしい。
ここで働くから、養って欲しいとのことだ。
「断る理由はないな」
みずみずしいぷるぷるとした青いスライム、間違いない。彼らはウォータースライムだ。
体内に水を蓄え、水鉄砲のように発射することのできるスライムだ。水まきを任せるのに、これほど適任なものはいないだろう。
俺は目の前のスライムとテイム契約を交わすと、俺の手の甲にキスしたスライムの頭を撫でるのであった。
「これで、食料問題は徐々に解決できるだろう。あとは、人を呼び戻す方法だが……」
そういえば、ここから抜け出した人達はどこへ向かったのだろうか?
「フローラに聞いてみるか」
今、彼女は街の復興を進めている。
スマホのアップデートをしたことで、機能を限定した予備のスマホを複製できるようになったのだ。
使い方を一通りマスターした彼女は、スマホで元の街並みを再現しようと苦心しているはずだ。
*
俺は街に戻り、フローラの姿を探す。
「おお、結構それっぽくなったな」
家の外観やサイズは元々、ここに建っていたものを用いれば再現できるらしく、まだ街の一画だけではあるが、欧米風の粋な街並みが出来上がっていた。
「イツキが金鉱石を分けてくれたおかげ」
金鉱石は直接資材ポイントに変換できるようで、昨日の時点で3600ほどしか余っていなかったポイントも大幅に増加し、街の復興も加速した。
「まあ、元々街のゴミから作られた金だしな。それが返ってきただけだろう。それよりも、街並みが元に戻るのはいいんだが、街の人達はどう呼び寄せたらいい?」
「我が眷属達は今、ここから東の地にある、ささやかな農村の近くで居を構えているはず。街並みが元に戻ったら、きっと帰ってきてくれるはず……」
そうか。そりゃ、この街いっぱいの人間を別の街にまるごと移住とはいかんもんな。
「しかし、そうなると、食料とか大変なんじゃないか?」
「うん……お父様もお母様も、最低限のものしか口にしてない。農村から食料を分けてもらってはいるけど、それもいつまでもつか……」
思っていたよりも深刻な事態だ。
「いずれ田畑で食料が安定供給できるようになれば、その辺りは解決だが、それまでの間の食料をどうにかしないとな」
幸い、資金ならいくらでも用意できる。なので、他の街から食料を買い付ければ、解決だが……
「いきなり大量の金を市場に流したら、インフレになったりしないか?」
俺が生きる分のものを買うならともかく、街一つ分の食料となるとどうなるか分かったものではない。
先のアップデートで、スマホには様々な機能が追加されている。なにか解決方法がないか、探ってみよう。
――《異世界通販》はいかがでしょうか?
「ほう、それはまた便利そうな。機能だな」
実際に起動してみると、某大手通販サイトのような画面が表示された。
「食料・家電・家具・おもちゃ・小説・漫画・ゲーム、まじでなんでもあるな」
家電なんかは電気がないので使えない気がするが……
スマホはどういうわけか魔力で動いているようだが、どうやら説明文を見る限り、ここで頼める家電類にはそういった機能はないようだ。
「まあ、それは仕方ないか。それよりも食料食料っと」
ずらーっと並べるが、実際の通販サイトよりも品揃えが良い。
カップ麺各種、野菜類はもちろん、世界のあらゆる調味料に、最高級黒毛和牛、蟹などなど、本当に様々な品が並んでいる。
おっと、右上に俺の資金が表示されている。
「一十百千…………三千億????」
これはもしかして、俺の手持ちの金鉱石を全て日本円に換算した金額なのだろうか。
そりゃ、億は超えているとは思ったが、俺の一生では到底お目に掛かるはずのない金額に思わず、口元がにやついてしまう。
「そんなにニヤニヤしてどうしたの?」
「いや、高額宝くじに当選した人の気分でこんな感じなんだなって思って」
「宝くじ? そういえば、街でやってるの見掛けるけど、あれは全部詐欺。あたりなんてない」
「え、まじで?」
どうやら異世界の商売はアコギなモノも珍しくないようだ。
「それにしても和牛か……これはいいかもしれないな」
「今度はどうしたの?」
「いや、フローラは焼肉は好きかと思って?」
「焼いた肉? 好きか嫌いかで言えば、大好き」
そりゃそうだ。肉が嫌いな人間なんているはずがない。いや、それは言い過ぎかもしれない。
「そうか。なら、焼肉で景気づけと行くか。避難している街の人達には喜んで戻ってきてもらおう」




